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魔法書を作る人  作者: いくさや
学園編
27/238

22 クレア

 22


 一口に模造魔法と言っても様々な種類がある。

 そもそも大元の魔法の始祖も6人いるのだから、少なくとも6種類はあるのが当然だ。


第1始祖 エレメンタル

 属性魔法の使い手。

第2始祖 ヒルド

 回復魔法の使い手。

第3始祖 ツクモ

 召喚魔法の使い手。

第4始祖 レリック

 付与魔法の使い手。

第5始祖 ロディ

 法則魔法の使い手。

第6始祖 ?

 失伝の魔法使い。


 個人的には第6始祖とか気になる。名前も魔法も過去に消えた始祖。

 彼らは非常に個性豊かで原書の数も違えば、術式も異なり、当然のように字の癖もバラバラなので模造魔法の難易度が跳ねあげるのだけど、それはまた別のお話。


 そんな分別の中で魔法の基礎と分類される魔法がある。


 基礎魔法。


 わかりやすすぎるけどこれが魔法使いを目指す者の最初の魔法になる。

 魔力を力場に変化させる魔法だから事故も少なく、術式も単純で素材も最低限でよく、必要な魔力も少ない。

 術式は


『始祖の名の元に示す。

 △△(命令・強制)、

 従え万象。

 其は一時の幻なり』


 2行目で『進め』とか『貫け』とか『飛べ』と書くと、魔造紙から魔力の届く範囲で赤い球が飛ぶのだとか。他にも『阻め』『漂え』『舞え』など色々とある。

 魔法陣も基本の真円。五芒星も六芒星も呪文も必要ない。

 これにも原書はあるそうだ。始祖の中で最も癖の少ない字の第1始祖エレメンタルが残したらしい。

 ちなみにエレメンタルは最も多くの原書を残した人物としても有名で、他の始祖たちにも魔法書を残すよう指示もしたのだとか。この人がいなければ人類に模造魔法は残されなかった可能性が高いという。

 エピソードからなんとなく苦労人の気配を感じた。


 ともあれ今は基礎魔法の時間。

 僕たちは教室で5枚の魔造紙を完成させてバインダーに収納し、実際に使ってみようと魔法士の訓練場に来ている。

 これから初めての魔法の時間だ。


「緊張するね、シズ」

「そうだねー。ルネ。きんちょうするねー」


 気の抜けた返事をするとルネが「もう」と頬を膨らませる。ちょっと、君かわいすぎだから。落ち着け?落ち着けよ、僕?

 ルネの支援のおかげでいくらか気分を持ち直した。

 折角の初めての魔法でテンションが落ちているのには理由がある。

 調子に乗るなと釘を刺されているから?それぐらいなら気にもならない。適当にやり過ごして後で人目のないところで試してみればいいんだから。

 逆だ。

 どういうわけか僕たちの前にはリエナとクレアがいた。

 相変わらずの無表情のリエナだけど耳としっぽはすっかり臨戦態勢。

 対するクレアは自信に満ちた笑みで腕を組み、真っ向から敵意を受け止めている。


 事の発端はクレアの取り巻きだった。

 クラス分けから1週間が過ぎ、クラス内での住み分けもできてきた頃。

 初めての基礎魔法ということで誰もが興奮していた中で、誰かが言ったのだ。


「やはりクレア様の魔法が1番でしょうね」


 クラス中に聞こえるような大きな声にどんな意図が込められていたかは知らないけど、この1週間の座学でも優秀ぶりを発揮していたクレアなので僕も異論はなかった。

 そこでリエナは小さな吐息をついた。

 ちょうど大声の後で僅かな沈黙ができていたところでその吐息は向こうに届いてしまった。その苦笑の雰囲気を伴った吐息が。


「なんだよ。文句あるのか?」

「別に」


 そんなしっぽを立ててゆらゆら揺らしてないわけがないよね?

 男子がリエナを睨み続けているとリエナは僕の手を取った。


「……シズの方がすごいと思っただけ」

「クレア様に決まってるだろ!平民がルミナス家に勝てると思ってるのか!?」


 かなりの勢いで怒声をぶつけているのにリエナはもう視線さえ向けない。リエナのような美少女にやられるとこれはきつい。

 耳まで真っ赤にして怒った男子が立ち上がろうとした時、渦中の一端が席を立った。


「僕ちょっとトイレ」


 席を立って場を濁す。タイミングを逃した男子が半端に腰を上げたまま立てないでいた。

 もう勘弁してほしい。1週間事あるごとにあいつらが絡んでくる。クレア自身はなにをするでもなく輪の中で微笑んでいるけど、話題になるのはいつも僕とクレアの力比べ。

 いいじゃない。

 座学ならダントツでしょ?この世界の歴史とか田舎の出身が知るわけないのに。や、初日に教本に目を通しておいたから結構把握しているけど。

 素材の加工とかなんて勝負にならなかったじゃん。クレアは美術品みたいな魔筆を作ったけど、僕のはたわしに刺さった棒だったじゃない?

 Sクラスの1番はクレア。僕は魔力が多いだけの平民。

 この前のは不干渉でいようって警告じゃなかったの?僕、なにか勘違いしてる?

 溜息をついて窓から空を見上げる。


「あら。トイレではなかったのかしら?」


 突然の声に振り返ると背後にクレアが立っていた。

 咄嗟に誤魔化そうとしたけど、すぐにこれは好機だと思い直した。クレアは1人だった。


「クレア様。どういうおつもりですか?」

「様も敬語もいらないわ。学園では平等な生徒よ」


 どの口が言うのか。

 言い返したいところだけど余計な口を叩いている時間はない。


「では、クレアさん。どうして僕に勝負を挑んでくるんですか?」

「わたくしの友人が挑戦しているだけでしょう?それにここは学園。互いに競い高め合う場所よ」


 口がよく回る。


「なら、他意はないと?」

「はい。今日までは。でも、次の授業は違いますわ」

「基礎魔法ですか?」

「わたくしと競える人がいるとすればあなただけ。是非とも競い合いましょう」


 結局、そこか。

 魔法の勝負で周囲にも力の差を見せつけて誰が1番か証明すると。

 勝負を避けるだけじゃ満足しないと。

 いいさ。それがお望みならのってやる。

 派手に負けてやるよ!手も足も出ずに地べたを這って許しを請えばいいんだろ?余裕だ。前世でどれだけ土下座したと思ってるんだ!芸術的な土下座を決めてやるさ!

 なんていう内心は乱入者の発言で吹っ飛んだ。


「シズは負けない」

「リエナ!?」


 ああ。廊下で話していたのはまずかった。リエナの耳なら声が拾えるんだ。

 リエナはクレアと睨み合い、至近距離から視線をぶつけあっている。

 1歩間違えればキスしそうな距離。ユリユリしいのは勘弁して!ていうか怖い!怖いんですけど!なんかこの廊下だけ陽炎が立ち上ってない!?景色が歪んで見える!


「リエナ、あなたいいわね。わたくしを恐れず立ち向かう勇気、賞賛に値するわ」

「師匠に比べたら何も怖くない」


 そうでしょうけどね!


 クレアは嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。今まで見せていたような表面上の顔じゃなくて本心からの笑顔だった。


「リエナ、この勝負が終わったら友達になりましょう?」

「ちょ、なんでそんなことに!」


 とんでもない展開になんとか割り込む。

 クレアは少し意地の悪い色が混ざった笑みで返してくる。


「あら。ご不満ならわたくしに勝てばいいのですわ」

「っ!」

「ふふ。シズの本気に期待していますわ」


 こちらの視線を切るとクレアは去って行った。あちらは本当にトイレのようだ。

 こうして僕は大切な猫耳か、今後の学園生活の平穏を秤にかけることになったのだった。


 そして現在に至る。

 最早、互いに魔造紙は用意した。

 後は覚悟を決めて勝敗を決すのみだ。

1話で終わりませんでした。

2話に分けます。

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