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魔法書を作る人  作者: いくさや
学園編

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番外4 猫の暗躍

急に書きたくなって……。

番外4


 シズ、行っちゃった。


 入学試験でシズのバインダーが真っ黒になった後、教師たちに連れられて行ってしまった。

 わたしも一緒に行きたかったけど、シズが1人で大丈夫っていうから我慢。

 試験会場はざわざわしてうるさい。王都は人が一杯で耳が痛くなる。

 でも、今は皆がシズのことを噂していてちょっと誇らしい。


 やっぱりシズはすごい。

 最近の私は師匠にも20本に1本ぐらい取れるようになったのに、そんな私もシズには5本に1本はやられちゃう。


 うるさいのは段々と落ち着いて、なにかシズのことを嫌なふうに言う人が出てきた。

 ピカピカする服の人たち。なんか臭い。香水ってやつかな。

 なんか目が合った。

 うー。嫌な目。

 見られたくないからわたしは会場から離れた。

 学園側に出て耳をぴくぴく動かす。

 離れてしまったシズの声を追ってついていく。

 一緒に行っちゃダメだけど、待ってるならいいよね?


 シズはあっちこっちに連れて行かれて、最後は立派な建物に入っていった。

 わたしは建物の外でシズの足音が消えた辺りの窓を見つめている。耳を澄ましても聞こえないし、カーテンが閉まっているから中は見えない。

 たいくつ。

 師匠からもらった槍を取り出す。

 甲殻竜の骨を削って作った槍なんだって。

 4年前、素材として売る前に将来、わたし達のためにって用意してくれていたみたい。あんなに迷惑かけちゃったのに。嬉しい。


「あ?臭いと思ったら亜人じゃねえか」

「おいおい。いつからここは牧場になったんだ?ペットを放し飼いすんじゃねえよ」

「よく見ろよ。こいつけっこう上玉だぞ」


 またうるさいのが来た。

 さっきとは別のピカピカした服の人たちが5人。

 下卑た笑い方が嫌い。ラクとか村の人たちと全然違う。

 無視してると近づいてきた。


「おい。平民、ちょっと遊んでやるよ」

「いいのあるぜ?酒がいいか?草がいいか?両方やっちゃう?」

「お?こいついい槍もってんぞ。これ魔物の骨だろ」


 なんか槍を触ろうとしてきたから避けた。

 急にピカピカたちの顔色が変わった。なんか赤くなってる。

 照れてる?怒ってる?


「誰が動いていいっつうたよ」

「無視してんじゃねえぞ?」

「俺たちの後ろにはガンドール家がいんだぞ?」

「おい。田舎の平民に言ってもわかんねえって」

「は。じゃあ、こう言えばいいか。俺たちに逆らうと故郷が大変なことになっちゃうぞ?な、いうこと聞いとけよ」


 ラクヒエ村が大変?

 つまり、この人たちは敵?

 なんだ。


 じゃあ、遠慮しなくていいね?


 耳がピンと立って、しっぽがゆらりと揺れた。

 師匠と立ち会う時を思い出す。


 瞬きひとつが致命になる虐殺空間。

 安易な呼吸さえ許されない氷結地帯。

 焼けつく戦意が渦巻き肌を焼く灼熱の戦場。


 わたしは4年間その中で教えられてきた。

 意識を切り替えた途端にキラキラたちが動かなくなった。

 耳もしっぽもないけどもう気持ちが丸まっちゃってる。


 あれ?もう、降参?


 まだ構えてもなかったのに。

 ……別にいいけど。

 まだ動けないみたいだったからこっちが離れてあげよう。この人たち臭いし。

 後ろを向いたら緊張が解けたみたいで、すぐに5人とも座り込んじゃった。あんなことしちゃったら師匠だったら追撃来てるなー。


 あ、2人立ち上がった。ん?こっちに来る?


 後ろから忍び寄ってるみたいだけどわたしの耳なら向こうの様子がよくわかる。

 えっと、師匠からいけない人たちのあしらい方って教えてもらったけど、こういう時に使えばいいんだよね?

 2人が槍の届く範囲に入った瞬間、振り返らずに槍の石突で2回地面を突いた。

 ちょうど2人の靴の先にほぼ同時。

 突いた地面が陥没している。

 この後なんていうんだっけ。えっと……。


「次は小指。その次は薬指。後は順番に中指、人差し指、親指。それでも諦めないならこっちを使うよ?」


 布を掛けたままの穂先を揺らした。

 5人が息を飲んで慄いている。

 さすが師匠。効果は抜群。

 わたしが歩き出しても追いかけてこなかった。

 建物から出てきた人が5人に近づいていくのが音でわかった。

 ちょっとだけ振り返ると嫌な笑い方の人が5人を怒ってから小さな声で囁きだした。これぐらい離れちゃうとなんて言ってるかわからない。

 やな感じ。

 ここで待っていられないみたいだから今日は諦める。



「お前たち、いまなんと言った?」


 夕食の後、夜の散歩中に聞いたことのある声がした。

 えっと、確かお昼の嫌な笑い方の人!

 気になったからそっと声のした方に行ってみる。

 城壁と学園の校舎の隙間みたいな所に6人の人がいた。お昼の時の人たちだ。今はあんまりキラキラしてないけど臭いのはいっしょ。

 あと嫌な笑顔が嫌な怒り顔になってる。


「えっと、言われた通りシズってガキをしめたんっすけど」


 シズ!?

 しめた?シズを倒したの?あのシズを?

 ない。こんなのがいくら集まってもシズは負けない。


「誰がそんなことを言った!私は目を離すなと言ったんだ!」

「でも、あんなひょろいやつ少し脅しちまえばビビって……」

「そのビビった奴が直後に寮内で『なんで女がいないんだ』と叫ぶのか?しかも寮に女子を連れ込んで一緒に夕食を取り、今も部屋に連れて行ったと報告を聞いているぞ」


 シズ……それ、どういうこと?


 女子を連れ込んだ?一緒にご飯?今も一緒なの?わたしも我慢してるのに?

 耳としっぽがしょんぼりして頭がグルグルするけど振り払った。今はシズのこと。


「いや、この際、当人の能力は関係ない。奴が『風神』と『雷帝』の肉親だというのが問題なのだ。万一、このことが伝わりでもすれば何が起きるかわからんぞ」


 フウジンとライテイってなに?

 シズの肉親……お父さんとお母さん?お兄さんとお姉さんじゃないよね。王都でも有名なんだ。嫌な怒り顔がすごい怯えてる。


「とにかく、私は貴様らなど知らんぞ。奴を脅したのは貴様らの独断だ」

「そんな!俺たち今まで先生に言われて何でも……」

「黙れ!言われたことを言われたとおりにしておればいいものを!余計なことをしでかした愚か者などいらん!」


 一喝して嫌な怒り顔は反対側の方へ行ってしまった。

 残った5人が呆然としている。でも、ぼそぼそと何か話してる?


「急がないと」「今夜」「事故なら」「寮は?」「受付を脅せばいい」


 ……なんか、嫌な感じがまだする。

 わたしはそっと離れて急いで部屋に戻った。


 男子寮も女子寮も各部屋に窓があって、その窓は学園側についている。

 もしも誰かが寮に侵入しようとするならここが一番入りやすい。

 そんな予想を立てたわたしの足元には6人の黒い服を着た人がいた。キラキラしてないけど、臭いがいっしょだからさっきの5人だ。

 1人増えてる。こっちはなんか危ない感じ。

 あの人たちはシズを狙っている。だって、シズの部屋の下で魔法の準備をしてるから間違いないよね?

 1人がバインダーを開いて杖を掲げている。


「やらせない。シズは守る」


 大事な決意は口にする。

 自分に、周りに、世界に言い聞かせる。


 わたしは城壁の屋上から飛び降りた。

 第2城壁はそんなに高くないから大丈夫。各階の窓に手足を引っかけて勢いを殺して、3階ぐらいまで降りたら一直線に落下する。

 勢いのままに開いていたバインダーを槍で貫いた。

 着地の衝撃は手足で吸収できる。すぐにバインダーの持ち主を殴る。やっぱりシズより弱い。1発で気絶しちゃった。

 向こうは驚いている。

 師匠は言っていた。隙を見せる方が悪いって。その通りだと思う。

 石突を一振りして2人の手からバインダーを払い落とす。それが地面に落ちる前に穂先で貫いた。

 後ろにいたもう1人は突きを引き戻した勢いのまま石突でみぞおちを打った。

 隙を突けたのはここまで。


「……危ない」

「おいおい。それ、避けるのか」


 見覚えのないもう1人が投げてきたナイフを避ける。この人は強い。

 黒い身軽そうな服の男の人が腰の剣を抜いた。他の3人を庇う位置取りをする。


「あなたも、シズの敵?」

「俺は雇われもんでね。少なくとも今はシズってやつの敵だな」


 傭兵って人かな?

 左腰に剣を添えて、いつでも振りぬけるように脱力している。


 敵なら倒す。

 もう夜も遅い。

 明日は入学式で、色々と予定もある。

 あと、もう半日もシズに会ってなくて寂しい。

 早く終わらせよ。


「来い!『火・烈閃』!」

「ん」


 傭兵さんが腰のバインダーに剣を当てながら魔法を発動。横薙ぎと同時に剣身が炎を纏って闇に紅蓮が走った。

 けど、わたしはその下を既に潜り抜けている。

 驚いている傭兵さんの顎を石突で突き上げた。師匠によくやられたからよくわかる。これをされると立てなくなっちゃう。

 思い出して耳が伏せそうになった。

 気を取り直して残りの3人。まだ1人はバインダーを持っているけど、向こうが魔法を使うよりわたしの方が早い。


「嘘だろ……。『早撃ち』が瞬殺なんて」

「シズは優しい」


 何か言ってるけど無視する。今日は色々あって眠いの。


「あなたたちが少しぐらい騒いでも怒ったりしない。でも……」


 あくびを噛み殺してたら話が途切れちゃった。

 元キラキラたちはちゃんと聞いているみたいだから構わずに続ける。


「次はないよ?」


 ちゃんとわかってる?と顔を覗き込むと何度も頷いていた。

 よかった。わかってくれたみたい。

 それだけ確認してわたしは下りてきた窓を伝って3階まで登った。


 最後にシズの無事を確認しようとしたんだけど、窓の鍵が壊れているみたいで開いてしまった。

 折角だから音をたてないように忍び込む。

 下のベッドでシズが寝ていた。

 ああ。もう眠い。

 シズは1度寝たら決めた時間まで絶対に起きない。

 ちょっとお邪魔させてもらっちゃおう。シズが起きる前に帰ったら大丈夫。

 わたしは枕の辺りに寝そべって、シズの頭を抱えるとそのまま睡魔に身を任せた。


 翌朝、シズが先に起きちゃって怒られた。

 シズはおこりんぼうだ。

シズ君のあずかり知らないところで色々と起きています。

そして寮内での噂が大変なことに。ルネ……。

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