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魔法書を作る人  作者: いくさや
後日談猫
219/238

後日譚猫9 ただいまお昼寝中

切りが悪くなりそうなのでちょい短め。

 9


「やっぱり、正体不明?」


 調査結果の書かれた書類に目を通しながら、身動きの取れないルネに尋ねる。


「うん。手詰まりだって」


 話題は例の麻薬の件。

 学園で調べられているそうだけど、分析の進みは良くないらしい。


「分析はできてるんだけど……」

「ほとんどが片栗粉って……詐欺じゃん」

「だねえ」


 押収した麻薬の粉末。

 その九割九分九厘がただの片栗粉だったとか。とんでもない量のかさ増しだった。かさ増しどころか、偽装表示もいいところだ。そりゃあ、平民でも手が出せる値段で売れるよ。さすが、闇組織。汚い。

 安価とは言っても、『非合法薬物にしては』なので、組織はかなりの資金を溜め込んだだろう。まあ、それも僕の『突撃、隣の闇組織』と迅速すぎる騎士団のコンボで押収されているのだけど。


「まあ、それはいいけどさ」


 問題は残りの一厘。

 そんなごく少量で通常の麻薬と同程度か、それ以上の効果を出してしまうなんて危険すぎる。

 現状から少しでも量が増しただけで、一気に服用者から死者が出かねない。


 困り顔のルネが溜息を吐く。


「調査しようにも、量が少ないみたい」

「まあ、一厘じゃねえ」


 様々なルートから押収した麻薬とはいえ、そこまで多くを確保できたわけじゃない。

 その内のごく僅かが該当薬物なので、片栗粉と分別するだけで難儀しているだろう。

 そうして苦労して手に入れた薬物も、実験している内に枯渇してしまった結果、分析は手詰まりになったらしい。


「もうすぐ押収品が回るとは思うけどね」

「そうなの?」

「うん。勘だけど、絶対当たる勘」


 潰した組織から回収した麻薬がある。

 とはいえ、量は満足できるほどではない。早晩、枯渇するのは見えていた。


「やっぱり、ここは専門家に頼ろうよ」

「専門家?」

「麻薬の原材料って植物……でしょ?」

「うん。っと、そうだよ」


 前世の感覚で決めつけていた事に気づいて、後半で確認するとルネは頷いた。


「なら、樹妖精に頼んだ方がいいでしょ」


 世界最大の森林地帯である大森林の守り手。

 種族特性の植物操作も使えば、麻薬に使われている正体不明の成分から、原料を特定できるかもしれない。

 それが限られた地域でしか生育しない植物なら、そちらの方面から組織に迫れる。


「あ、それだったら、もう手配してあるよ」

「……そうなの?」


 いや、別に名案だと提案したら肩透かしくらったなんて思ってないし。

 妖精族と交流がちゃんと続いていて良かったって思ってるし。


「妖精族に使者を出してから一ヶ月になるかな? 順調ならそろそろ到着してるかも」

「片道で一ヶ月ぐらいだから、そうだね」


 樹妖精の協力者。

 研究の分野と考えれば、来るのはミラだろうか? 一緒にリラが来てもおかしくないな。

 うーん。あの姉妹だとすれば、会うのは二年ぶりぐらいかな?

 最後に会ったのはリエナのお腹にレギウスがいた頃だったし。


「……大丈夫だよね?」

「なにが?」

「いや、こっちの事。こっちの事だけど、レギウスはリエナとクレアと一緒だよね?」

「え、うん。テラスにいるはずだよ」


 レギウスの貞操は僕が守る。絶対だ。

 まあ、それはそれとして。


 彼女たちが来るまで一ヶ月かかるなら、それまでに組織の方は叩き潰しておきたい。

 昨日の捕まえた連中から得た情報で、知られていなかった組織の拠点が判明しているので、今晩にもごあいさつに伺わなくては。


「シズ、あまり無理しちゃダメだよ?」

「無理というほどではないけどね」


 そう答えはしたけど、今朝寝過ごしているので説得力がないな。


「この子たちも心配しちゃうよ?」


 そう言って辺りを見回そうとして、断念するルネ。

 ルネは身動きが取れないように押さえ込まれていた。


 猫玉によって。


「そろそろ足が痛くなってきちゃった」


 現在、ルネの太ももの上にはソレイユがぐでーっと寝転がっていた。

 理想の女性像と尊敬しているルネの隣に座って、一挙一動をチラチラと見ては真似していたのだけど、おつかいで疲れたのか途中で眠ってしまった。

 最初は頭をルネの体に預ける程度だったのが、段々とずり落ちていって膝の上に軟着陸。

 起きるかと思ったけど、元から寝相がファンタスティックな子供たちなので、そのまま気持ちよさそうに寝息を立て始めてしまった。


 これだけならまだ良かった。

 問題は残りの二人。

 僕たちの周りで追いかけっこしたり、お互いにじゃれ合ったり、僕やルネの頭頂部を目指して登ったりして遊んでいたのだけど、こちらも力尽きてしまった。


 ルネの肩の上と、頭上で。


 まるで風呂上りにタオルをかけたように、ルナが肩に。

 お供え物のお饅頭みたいに丸まったステラが頭上に。


 奇跡的なバランスで就寝中だった。

 軽い子供とはいえ、書記士のルネはそろそろきついだろう。

 すぐに起こそうとしたんだけど、ルネが疲れているみたいだからというのに甘えてしまった。


 結果、『美女。猫玉を添えて』が完成した。

 とても目に優しい光景だった。


「ごめんね。重いでしょ」

「ううん。ボク、力がないから」


 しかし、うちの子たちがここまで心を許すとは。

 わりと人懐っこい性格をしているけど、家族以外に本気の寝姿をさらすのはなかなかレアじゃないかな。

 微睡むぐらいならよくあるけど。


 三人ともめちゃくちゃ和んだ顔をしている。

 何かルネからは匂いというか、フェロモンでも出ているのだろうか?

 ……嗅がないよ?


「でも、この姿勢だと寝づらいよね」

「いや、どんな姿勢でも大丈夫みたい」


 ごめん寝のまま朝を迎えても普通に起きてたし。

 とはいえ、ルネの優しさに甘え続けるわけにもいかない。


 上から順番にステラとルナを回収するが、ソレイユだけはルネのスカートに爪を立てて離れなかった。強引に持ち上げればルネのあられもない姿を曝してしまいそうだ。

 起きてるんじゃないの? とも思うけど、ルネの腰にしがみつく顔は実に幸せそう。


「今夜は一緒に寝るとか言い出しそうだなあ」

「うーん。いくら子供でも女の子が異性と一緒はまずいんじゃないかな?」


 ルネを異性と知らないから説得が難しいんだけど。

 今日こそ伝える時が来たのかと腕を組んでいたけど、そんな心配している余裕はなくなった。


「だ、誰か! 誰か、軍に! 軍に報せを!」

「いやあっ! なんなの!? なんなのよ、ここは!? 伯爵家の女中なんて勝ち組だって思ったのに!」

「騒ぐな! 戦えぬ者から避難だ。兵は二名先導しろ。残りは私に続け!」

「マジかよ! くそっ! 聞いてねえぞ、こんなの!」


 外が騒がしい。

 しかも、聞こえてくる声がかなり物騒だった。

 嫌な予感がしてかつらと仮面を確認していると、ノックの後にすぐ戸が開かれた。ルミネス家に仕える執事さんだ。

 焦りを押し殺した様子が隠しきれていない。


「お客様、緊急時とはいえ失礼いたします」

「大丈夫です。それより、緊急時というのは?」


 苦渋に耐えるように執事さんは顔をしかめる。客人に不快な思いをさせるのがプライドに障るのだろうか。

 というのも一瞬、すぐに鉄面皮に戻し、端的に告げてくる。


「現在、王都の上空で二匹の竜が戦っております」

近いうちに書籍版三巻の宣伝しますね。

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