にゃん2 おつかい
はじめてのおつかい。ソレイユ視点です。
にゃん2
お父さんが起きてくれない。
もう、私たちはご飯を食べ終わったのに、ベッドで毛布をかぶっている。
ルナと、ステラと、レギウスと、タロウと、みーんなでおなかに乗って揺すったけど、うーんとうなるだけ。
「みんな。お父さんはまだ眠いみたいだから、お昼まで寝かせてあげよう?」
いっしょに来てくれたルネさんに言われて、はっとなる。
こんなはしたない格好、立派な女性じゃない! ルネさんがいるのに、恥ずかしい!
私はあわててお父さんの上から下りて、レギウスとタロウを抱え上げた。
うん。私はお姉ちゃんだから、弟とペットの面倒を見てあげるんだよ。
あ、レギウス、暴れちゃメッ! タロウも服の中に入っちゃメッなの!
「ルナ。ステラ。いこ?」
「おとさんは?」
「とうちゃん。バイバイ?」
「お昼になったら起こしに来よう? そうだ。お父さんのためにおつかいにいってみない?」
ルネさんに言われてルナとステラがバンザイする。
二人とも昨日から初めての王都で喜んでるから。
私も、見たことないのばかりでドキドキしてる。
でも、昨日の事を思い出す。
勝手にお外行っちゃダメって、お父さんと約束してる。
「いいの? お外行って」
「うん。ボクも一緒に行くから大丈夫だよ。お母さんと、クレアさんに話してくるね。準備、できる?」
「にゃあ!」「にゃ!」「なー!」
私たちはすぐに準備を始めた。
お部屋用の服を脱いで、お外用の服に着替える。
ルナはもう一人で着替えられるけど、ステラは見てあげないとダメなの。前と後ろが反対だったりするから。ちゃんとお姉ちゃんが見てあげる!
ルネさんはレギウスとタロウを抱っこして、お母さんとクレアお姉さんの所に行くみたい。
すぐ着替えられるのに、どうしたんだろう?
「じゃあ、また後でね」
「ん」
ルネさんといっしょだったらいいって。
お母さんとクレアお姉さんがお屋敷の前でお見送りしてくれた。
角を曲がって見えなくなるまで手を振って、私たちとお揃いのワンピースを着たルネさんの腰に抱き着く。
腰、細い……。
いい匂いがする……。
ルネさんが歩くと、まわりの人もみーんな見とれちゃうの。
「三人とも、色々持ってきたね?」
ルネさんに言われて首を傾げる。
私はおじいちゃんからもらった筆。
ルナはもらったばかりの赤い槍。
ステラはどこかから持ってきたまっくろなご本。
「……そのバインダー……いや、本ってどこにあったの?」
なんだかルネさんが変な顔してる。
ステラのご本が気になるみたい。
このご本、お父さんのと似てるよね? ちょっとお父さんの匂いもするけど、気のせいかな?
「ん。探険してたら見つけた」
「そっかー。見つけちゃったんだー」
大事にご本を持ってるステラに、ルネさんは困ったように笑っている。
どうしたんだろうね?
ま、いっか。四人でお出かけうれしいな!
ルナは右手、ステラは左手をルネさんとつないでる。
私もおててをつなぎたいけど、お姉ちゃんだからがまんできるもん。後で私もやってくれるってお約束してるからへいき。
「ルネさん、どこ行くの?」
「大通りだよ。色んなお店に行くけど、大丈夫?」
「ん。へいき! 頑張る!」
「持つー!」
「探すー!」
私たちはルネさんといっしょにお買い物をした。
王都は魔人村やラクヒエ村と違って本当に大きくて、人がいっぱいで、色んな音や匂いがして不思議。
なんだか知らない人がいっしょについて来てるけど、やな感じじゃないから大丈夫だよね?
ルネさんといっしょにお買いもの♪
おっきなお店もちっちゃなお店も楽しいの。
見たことないのばっかりだけど、ルネさんがていねいに教えてくれた。
でも、『始祖クッキー』はどういう意味かはわからないんだって。すごい困ってた。困らせちゃってごめんなさい。今度、お父さんに聞いてみるね。
たくさんお店に行って、がんばって荷物を持って歩く。
そろそろ帰る頃かな?
あ、ここって昨日も通った場所だ。ええっと、クレアお姉さんのお家に行く時で、きれいなお姉さんとかが踊ってた。
私たちも混ぜてもらって、ほめてもらえたんだよね!
「あー!」
びっくりした。
おっきな声がして、そっちを向くと見たことのある子がいた。
私よりちょっと年上の男の子と、女の子。
女の子が私たちを指差している。今の「あー!」もこの子だ。
となりの男の子はあたふたしてて、困ってるみたい。
「ひは! 昨日のかわいい子!」
女の子がどたどたって走ってくる。
この子、昨日、踊ってたらしっぽをつかんできたんだった!
私はルナとステラの前に立って、じっと女の子を見つめる。
勝手にしっぽをさわったらダメなんだよ!
「ひは! 睨んでる! 睨まれちゃってる! かわいいー! 抱きしめたいー! この子、この子たち、連れてっていいでしょ!? いいわよね!?」
「ラピス。ダメだよ。この子たち、怖がってるよ。ごめんね? 悪気は、ないんだ」
「ああ! 止めないで、ルーク! ひは! かわいい! かわいいわ!」
飛びついてきそうだったけど、男の子が止めてくれた。
でも、ちょっとずつこっちに近づいてる。
女の子はちょっと……ううん。かなり怖い。ルナは槍で『近づくな』ってしてるし、ステラは黒いご本をぶんぶん振っている。
だいじょうぶ! 妹たちはお姉ちゃんが守るんだから!
「ふかー! ふかー!」
しっぽをびゅんびゅん振って、筆をぎゅっと握る。
えっと、ええっと、どう?
「ひはー! ひはー! か・わ・い・いぃぃぃぃぃっ!」
もっと興奮してる!
どうしよう。どうしよう?
私、お姉ちゃん。守る。どうしよう?
えっと、あ、これなら!
「ん!」
筆にたくさん魔力を集めるの!
お父さんがやってるみたいに集めるの!
ちょっと大変だけど、筆が真っ赤に光るんだよ!
「ひは? これ、魔力? でも……」
やった。ちょっと驚いてるみたい。
もっと赤くすればどっかいってくれるかも!
「ソレイユ、それはさすがにちょっとまずいよ」
だけど、その前にルネさんに止められてしまった。
あ、そうだった。魔法はお父さんとお母さんがいるところじゃないとダメだったんだ……。
ルネさんが私たちの前に立ってくれるけど、危ないよ。
でも、この子はどうしようと思っていると、女の子を止めていた男の子が溜息を吐いた。
「ああ、もう。ラピス、ダメだよ?」
「ルーク? 何をひひゅ……」
にゃあ!
なんかね。すっごい速く男の子の手が動いたら、急に女の子が寝ちゃったの!
速くて見えなかった!
「にゃ。首、ぎゅって」
「君、今の、見えたの? すごいね」
ルナがほめられてた。
ルナは男の子が女の子の首に抱き着いたんだって言うんだけど……どうして寝ちゃったんだろう?
私もルネさんに後ろから飛び乗って、首に抱き着いてみるけど、やっぱりこの女の子みたいに寝たりしない。
「ラピスが、ごめんね? ちゃんと、注意、しておくから」
ぐったりしてる女の子を男の子はおんぶすると、私たちに謝ってくれた。
もうしないなら、いいよ。
「ん」
「本当に、ごめんね。じゃあ、行くよ」
男の子は行ってしまった。
あ、なんか呟いてる。
『ラピスは、浮気性だなあ。僕っていう、婚約者が、いるのに。絶対に、今度は、離さないんだからね? あれ? 今度って、なんのことだっけ? あ、皆との、待ち合わせに、遅れちゃうよ。ラピス、走るよ?』
どういう意味なんだろ? 難しくてわかんない。おっきくなったらわかるのかな?
でも、二人とも幸せそうだからいっか。
「……えっと、帰ろっか?」
「「「ん」」」
危ない事もあったけど、おつかいできたよ!
クレアお姉さんのお家に帰ると、お父さんが起きてたから、おつかいの時のお話してあげたら頭を撫でてくれた。
頑張ってよかった。
嬉しくてお父さんのお顔に抱き着いちゃった。はしたないけど、ちょっとならいいよね?
お昼の後で変な女の子の話をしたら、すっごい変な顔してた。どうしたんだろう?
「転生、したのか? あんな笑い方する奴なんて他にいないだろうし……。僕みたいに覚えてない、よな? 会いたいような、絶対に会いたくないような……」
ぶつぶつ言ってる。
変なお父さん。
一体、あれは誰だったんだ……(棒読み)。




