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魔法書を作る人  作者: いくさや
ねこねこねこ
204/238

おみやげ

以前、活動報告に書いたSSです。

既読の方はすいません。

 朝、起きると枕元にお供えがある。


 お供えの内容は様々だった。


 一番多いのがおもちゃ。

 人形、お手玉、ボール、槍、トランプ、積み木、杖、竹馬など。

 所々、おもちゃというくくりに入れてはいけない物が混ざっているが、竹馬と同じように立てかけてあったので、おそらく運び人にとっては同じジャンルなのだろう。


 起き抜けに槍の穂先が枕元に突き刺さっていた時の恐怖は、なかなか壮絶なものがあったが、命を狙った所業ではないようなので反応に困るところだった。


 次に多いのがお菓子。

 昨日のお茶の時間に出た物を取っておいたらしき物が多いが、時折に目を見張るものが混ざっている。

 例えば、野イチゴだったり、山ブドウだったり、蜂の巣だったり、自然薯だったりとバラエティに富んでいる。


 そして、頻度は少ないものの確実に混ざっていて、問題なのが動物。


 虫ぐらいは気にならない。山育ちなのだ。びっくりするが、それだけ。

 魚でも大丈夫。布団がビチョビチョになるのはつらいが、それもそれだけの話。

 小動物もまあいい。ネズミや鳥や蛇などと強制的に朝チュンなのは心臓に悪いが、今までそれ以上の脅威と戦ってきたのだから、心不全を起こすほどではない。


「けど、これはダメだろう」


 今朝、目を覚ましたら熊と目が合った。

 余程、信じられない事態に遭遇したらしく、目を見開いたまま息絶えていた。

 やや小ぶりなところを見るに、まだ一人前ではなさそうだが、それでも熊は熊だ。

 ざっと見ると、胸に深い傷がある。強烈な斬撃による心臓破壊が死因だろう。他に細かい傷も見当たらないので、一撃で仕留めたのが見てとれた。


 今日までは気にしたら負けだろうかと、様子を見ていた。食べられる物は食材にして、道具は元あった場所に戻して、虫は庭に埋めてた。

 だが、これ以上はまずい。このままでは明日の朝には魔物が供えられかねないし、危なすぎる。いや、熊も十分危ないけど!


 熊は一度忘れて、起きる。

 熊のインパクトで気が付かなかったが、辺りにはおもちゃとお菓子まで散乱していた。

 今日のお供えは大盤振る舞いだった。


 犯人は探すまでもない。

 見ればドアの隙間から三本のしっぽが覗いていた。時々、猫耳が飛び出して、そーとこちらをチラ見しては隠れている。


 犯人は現場に戻ると言うが、分かりやすい容疑者だった。

 果たしてこの子達がどうやって熊を倒したのか疑問だが、状況と習性を思えばおそなえの犯人は確定だろう。


 ともかくまずは対話だ。

 手元に転がっていたボールをドアの手前に投げてみた。


 シュタ、パシン、ゴロゴロ。


 一番下の娘がボールに飛びついて、あられもない格好で転がり始めた。

 二人の姉がドアの影でアワアワしているけど、そちらの方にもお手玉を放るとすぐさま飛び掛かった。


 はっとして固まるけど、もう遅い。

 お父さんのなんとも言えない視線を浴びて猫耳を伏せている。

 丸まって動かないのは死んだ振りなのだろうか?

 猫だまごっこなら百点だが、どう見ても娘たちだ。


「三人ともこっちに来なさい」


 怒ってないよと笑顔アピールも忘れずに。

 末の娘はトテトテとやって来て、ボールを差し出してきた。もう一回とおねだりしてくる頭を撫でておく。

 姉たちも観念したのか、お手玉を手にやってくる。

 この段階になってようやく末娘は隠れていたことを思い出したのか、しっぽをぴぃーんと立てて、ベッドの下に飛び込むけど遅すぎる。下から見上げてくる娘を抱きかかえて回収。


 そして、熊をぽんと叩いて尋ねる。


「これどうしたの?」


 三人は互いに顔を見合わせていたが、最後は長女が代表して答えた。


「獲ってきたの」

「獲ってきたって、どうやって?」

「わたし、おとり」

「あたし、おとり」

「私は魔法で倒した」

「……魔法、まだ教えてないんだけど」


 親として、教育者として、色々と叱らなければならないところだが、まずは話を全て聞いてからだ。


「魔法は誰が教えてくれたの?」

「セズおじいちゃん」


 父親は頭を抱えてしまった。

 文句を言おうにも、自身も無理を言って教えてもらっているのだ。どの口で言うと言うものだった。


「いつから習ってたの?」

「先月から」


 そこで首を傾げる。

 一月の修練では魔力量は知れている。せいぜい、基礎魔法程度を一枚か二枚だろう。とても熊を仕留めるほどの魔法を書けるとは思えない。

 お父さんの不思議そうな雰囲気を察して、長女は説明を続けた。どこか得意そうに。


「魔法ね。おじいちゃんみたいに二つうまく使うの」

「極大魔法!?」


 基礎魔法で極大魔法など、かの風神ですらなし得ていないというのに。

 僅か六歳にして、独学で成功させるとは末恐ろしすぎた。


「魔法は危ないから大人と一緒じゃないとダメだからね。約束できる?」

「「「ん」」」


 魔法のあれこれは色々な人と相談しようと心に決めて、話を元に戻す。


「それでこれはなんなのかな?」

「おみやげだよ!」

「狩り、お上手?」

「遊んでほしいの」


 どうやら猫の本能やら子供の願望が混ざった結果らしい。

 しかし、それだけならこのようなアピールはしないだろう。

 続きがあるのではと待っていると、三人が一斉に謝り始めた。


「お父さん、怖がっちゃってごめんなさい!」

「ごめんなしゃい!」

「ごめん、しゃい!」


 どうやら先日の一件で怖がって逃げてしまって、それで嫌われたのではと不安になってしまったようだ。


 お父さんも思い出す。

 妻の出産に合わせて仕事を前倒しにしたり、食材を獲りに行ったり、千枚近い回復魔法の魔造紙を用意したりと忙しく、子供たちの相手が疎かになっていたのではないかと。


 不安そうに見上げてくる三人をまとめて膝に載っける。


「よし。決めた。今日は一緒に遊ぼう!」

「……いいの?」

「もちろん!」


 頷いてみせると、三人はにゃ~とお父さんに飛びついた。




 おみやげの熊をベッドに運んだ事は、お母さんに怒られてしまったけれど、皆で仲良く頂きました。

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