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魔法書を作る人  作者: いくさや
ねこねこねこ
202/238

ひみつのかご

以前、活動方向に書いたSSです。

既読の方はすいません。

 かごがある。


 大きなかごだった。

 高さはさほどでもないものの、広さはかなりある。

 洗濯物を取り込むときにでも使うのだろう。

 そこはかとなくお日様の香りとぬくもりを感じさせるかご。


 本来なら乾きたての衣服が積まれているだろうそこには何もない。

 からっぽだ。

 片づけ忘れたのか、日差しの差す窓際に置かれている。


「なー」


 そこに小さい少女が通りかかった。

 どこかに行くあてもなかったのだろう。

 最近はお母さんが寝てばかりだから退屈なのだ。

 ぼんやりと散歩の途中にかごを見つける。


 とても魅力的だった。

 抗うなんて考えも浮かばない。

 誘われるようにふらふらと足が向かう。


「なー」


 気が付けばかごの中。

 少女は真ん中で丸くなる。

 手足を小さく折りたたんで。

 猫耳を伏せて、しっぽを抱きしめるように。


 あったかいお日様に小さくあくび。


 少女が眠りに落ちるまで一分もかからなかっただろう。




「にゃ」


 しばらくして少し大きい少女がやってくる。

 どうやら先程の少女を探していたのか、かごの中ですやすやと眠る妹にほっと安心して胸をなでおろしている。

 お母さんが大変だから妹のお世話は自分がやらなければいけないのだ。

 お父さんのおみやげのお菓子に夢中になって気づくのが遅れてしまったのは失敗だけど。


 妹を起こそうとして、彼女も気づいてしまった。

 妹が眠るそのかごの魅力に。


 少女より年上といえどもまだまだ子供。

 元気いっぱいに動き回って、疲れたら眠るのがお仕事。

 そんな彼女にそのかごは素晴らしすぎた。

 大きさといい、日当たりといい、ばっちり。

 こんなのを見たからには入らないとダメに決まっていた。


「にゃ」


 気が付けばかごの中の子猫が増えていた。

 妹の頭を抱きかかえるようにして眠っている。

 しっぽを妹が甘噛みしているのも気にしないで、すーすー寝息を立てていた。




「にゃあ」


 お手伝いしたのに失敗してしまった。

 かごを置きっぱなしにしてしまったのだ。

 ゆるゆうる、ふわふわにたたんだお洋服をお父さんに持ってもらって、片付けに来た。


 もうすぐ弟が生まれるからお姉ちゃんなわたしは頑張るの! としっぽをピンと立てている。


 そうしてかごを見れば二人の妹が気持ち良さそうに眠っていた。

 仲良くお互いのしっぽをくわえている。


 入りたい。


 素直な気持ちにしっぽがふらふらする。

 ダメダメと頭をふって、思い直す。


 わたしはお姉ちゃん。

 負けたりしない。

 立派なレディなんだから。

 ちゃんとルネさんみたいな素敵な女性になるんだもん!


 だけど、このかごはとっても良くて、がまんすると耳がぺたんとしてしまう。

 ちょうどいい隙間があるの。

 わたしのために用意されたみたいな隙間が。

 ここに入ってと言っている。


 なんて考えていたのは最初だけ。

 葛藤している間に体は勝手に動いて、かごに入っていた。


「にゃあ」


 入ってしまえば結果は決まっている。

 ポカポカ陽気に連れられて、夢の世界に一直線だった。




 しばらくしていつまで待っても帰ってこない娘を探して父親がやってくる。

 娘たちのあまりに気持ち良さそうな姿に苦笑いして、持たされたままだった洗濯物からタオルを広げて、かごにかける。


「おやすみ」


 娘がお手伝いするはずだった家事に取り組むのだった。




 一時間後、遊びに来た生徒たちがその姿に歓声を上げて起こしてしまい、驚いた娘たちにひっかかれるのはまた別の話。

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