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魔法書を作る人  作者: いくさや
学園編
20/238

16 旅立ち

 16


「ばっかじゃないの?」


 大事なことだから2回言ったよ?


「だが、しかし」

「だがもしかしもかかしもないって。言う相手が違うでしょ?いつから僕はリエナのお父さんになったんだよ。村長代理はあっち。村長の隣で話してるダンディなおじさま……って、おじさん超こっち見てるんだけど!あ、リエナですか?ご飯?ちゃんと食べてましたよ。お酒?飲ませた?いやいやいや!明日早いんですから!え?後で話がある?はあ、わかりました。なんで、睨むんだろう……。気に障ることしちゃったかなあ。って、違うよ!告白だよ。相手が違うだろ!第一、そういう話は上を通さないで本人に言ってよ!」


 途中からおじさんのアイコンタクトにジェスチャーで答えてたら話がそれた。

 今はリエナのことだろう。


「いや、実は全員、リエナに告白しているんだ」

「はあ?はあ……ああ」


 驚いてみたけど別に不思議ではないのか。

 リエナは村では昔から明らかに別格な美少女なのに加えて、この4年で幼さが薄れている。美少女と美人の間っていえばいいのかな。その上、猫耳としっぽまであるのだから惚れるのは不思議ではない。

 皆で遊んでいたころはそういう感情はあまりなかっただろうけど、大人の仲間入りをして、そろそろ所帯を持つことまで考えだしたらそういうこともある。

 仕事に就くのが早いように結婚も早い。

 一般的に15歳ぐらいが適齢期だといわれている。

 去年、お姉ちゃんが結婚した時は本気で泣いた。すっっごい迷惑をかけただけに幸せになってほしい。


「それで全員ふられた」

「そうなんだ」

「ああ。『やだ』って言われた」

「……そうなんだ」


 バッサリいかれたな。リエナらしいけど。

 でも、それなら結論は出てる。気持ちの整理はつかないかもしれないけど、時間をかけて諦めるか再度チャレンジするかするしかないのでは?

 いや、恋愛経験0の僕が指摘するのも虚しいけど。

 ああ、そういう意味では告白をしたというだけすごいな。


「だが、そう簡単に折り合いがついたりしないだろ?」

「そうか。そうだね。人の気持ちなんて簡単に変わらないもんね」


 ちょっと友達甲斐のないこと考えていた。

 もっと親身になって話を聞くべきだ。


「ああ。だから、お前に頼んだ」

「いや、それはわからない」


 話が飛びすぎだ。どうして僕が出てくる。


「まあ、リエナが僕に懐いているのは知っているけど、これはそんな甘いやつじゃないよ?4年前の事件の恩返しとか、最初にできた友達だからとかだし。ラクたちが僕に遠慮するものでもないって……ごがっ」


 脇腹にリエナの貫手が突き刺さっていた。

 いや、なんで暴力ふるうの?

 リエナはそっぽを向いて答えてくれない。しっぽが小刻みに揺れているから怒っているのはわかるんだけど。

 世の中には耳としっぽだけじゃ計れない深淵がある。

 僕たちを凪いだ湖面みたいな目で見てたラクが話を戻す。


「シズ。お前がそういうのはわかっていた。というかいつもそう言ってたし」

「なら、どうして?」

「簡単だ。リエナが『もう一度告白するならシズを倒してからにして』と言ったからだ」

「リエナさん!?」


 おい。こら。こっちを向け。目を合わせろ。そう。そうだ。目を見て話そ?僕とお話しよ?


「なんで部外者を巻き込むのかな?」

「告白、面倒」

「面倒って」


 本人たちを目の前に淡々と残酷なことを。

 でも、リエナの耳としっぽを見る限り額面通り受け止められないか。しょぼんとしてるもんね。

 もしかして断るのが心苦しいのかな。

 ほとんど無表情なリエナだけど、僕がラクたちのことを大切な友人と思っているように、彼女も村の友人たちを得難い絆だと思っている。

 なら、何度も好意を無下にするのはつらいだろう。


(で、困って僕を頼ったのか)


 矢面に立たされる身としてはたまらないけど、最初の友人としては信頼に応えるか。

 何だか変な板ばさみだなあ。まあ、ここは穏便に。


「話は分かったよ。けどここは」

「いや、わかってもらえたならそれでもう大丈夫だ」


 あれえ?

 目の前にいた友達が凶戦士になっているよ?

 その隆起した筋肉はなにかな?

 口から洩れる熱い息はなにかな?

 狼みたいに血走った眼はなにかな?

 ちょっとした赤ずきんちゃん気分です。

 ラクは爆音みたいな大声で咆えた。


「お前ら!準備はいいか!」

『応!』

「俺らの女神を奪った不届き者には!?」

『鉄槌を!』

「俺たちの拳は!?」

『正義の一撃!』

「よし!……狩るぞ!」

『死ねええええええっ!』


 お前らはいつから戦士になった!?


 襲い掛かってくる少年たちから全力で逃走する。

 リエナの背後を回るようにして奴らの初撃を封殺し、生まれた数秒の間に包囲網を突破した。


「はっ!足で僕に勝てると思ったの?伊達に5年も走り続けてないんだよ!」

「逃がすな!追え!」

「今だ!囲め!」


 伏兵だと!?本気すぎだろ!

 ぐう、逃走経路を限定された。狩りの技術を使いやがったな。

 あ、みなさん。イベントじゃないから歓声とかいりませんから。笛とか太鼓とか鳴らさないでもらえませんでしょうか?


「お前だけずるいんだ!」

「そうだ!変なことばっか言ってたくせに!」

「俺、最初の頃『俺に構うと後悔するぜ』とか言われた!」

「俺も!『月に代わってしおくぞ!』とかなんなの!?」

「僕は『我は世界樹。我が声を聞け』って。木がしゃべるってなんだろ?」

「猫耳を返せえええええっ!」

「しっぽは譲らねえぞおおおおおっ!」


 黒歴史発表会とかお前らの方がずるいわ!

 あと最後の2人。お前ら猫耳ファンクラブな。わかってるからな?覚えてろよ?


「私もシズが『殺せえええええええ』って叫んだ時はどうしようかと思ったなあ」


 どこかから聞こえたお姉ちゃんの声に膝から崩れ落ちそうになった。


 その節は大変、ご迷惑をおかけしましたあっ!


 もうないから!あれはないから!

 あの時は前世の記憶が目覚めたばかりで、冷静だった気がしているだけで全然落ち着いてなかったからなんだよ!……たぶん。半分ぐらいは。

 今はちゃんと皆に注意してもらって修正できてるでしょ!?もうまともになってるでしょ!?……たまにそこはかとなく漏れるけど。

 それよりこれはなにかな?

 逃げれば逃げるほど過去の所業が皆の前で開陳される拷問なのかな?

 黒歴史には触れないってマナー知らないの?


 ああ。皆、イキイキとしてるなあ。

 なんで僕だけ逃げてんだろ?

 ふふ。ふふふ。


 足を止めろ。

 拳を握りしめろ。

 小細工はいらない。

 征くは敵陣、前進のみ。

 ただこの熱い志を抱いて戦え!


「こうなりゃとことんやってやらあっ!ぜんいんまとめてかかってこいやあっ!」


 ま、10秒でもみくちゃにされましたけどね?


 わかってるよ。

 悪意なんてないって。

 騒いで悲しいのを吹っ飛ばしてくれてんだろ?

 この世界は突然の別れだって珍しくない。

 魔物はいるし、貴族の気まぐれで不幸が起きることもある。

 幸い、ラクヒエ村は平和な地域だったからそういう現実は遠かった。

 だけど、確かにあるんだ。

 だから、別れは明るく笑っていきたいもんね。


 あれ?

 結構、本気で殴ってない?

 痛い!本気パンチはいってる!

 5回に1回ぐらい本気だよ!殺気がこもってるって!

 あれ?村長代理、何時からご参戦されていたのでしょうか?あの、石を握って殴るのは大変危険な行為だと愚考する次第なのですが……。


 結局、最後はまとめてリエナとお母さんに鎮圧されました。


 そうして祭りは騒動のまま終わりを告げた。


 翌日、僕たちは皆に見送られて王都へ出発した。

 商人のおじさんの馬車から故郷の姿が見えなくなるまで僕たちは心に焼きつけていた。


 全身打撲で僕は寝たままだったけどね。

 あれ……本当に冗談だったんだよね、ラク?

ちょっとだけ成長したシズ君。

オタクネタ以外に支えになるものができて少しまともに。

とはいえ、まだまだ問題は残っているので成長してもらわないといけませんが。

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