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魔法書を作る人  作者: いくさや


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喪8 思い出してみよう③

お待たせしました。

今回こそ喪の続きです。

……待っていた人、いるのでしょうか?


おかげさまで50,000pt達成しました。

応援くださりありがとうございます!

やはり嬉しいものですね。

今まで「お気に入り登録して」「評価ポイント入れて」と言わない様にしておりましたが、49,998ptのまま五時間経過したときは「誰でもいいからあと2ptプリーズ!」と活動報告しようかと迷ったのも今ではいい思い出です。

 喪8


 その日も四人で出かけていた。

 既に薬草摘みは済んでいて、お昼ご飯の後、勉強会の時間。

 あたしはお昼寝しているヒーちゃんを膝枕しながら、拾った枝で地面に数式を書いていく。


「ここ、これは、ふ、古い国の、けけ計算の仕方なんだけど、べ、便利よ」


 エル君は普通に優秀で、反抗期はびっくりするぐらい優秀。

 時々、あたしがびっくりするぐらいの質問をしてきて驚くぐらい。

 二人とも四則演算は完璧。

 反抗期は数値のグラフ化とか、過去の数字からの予測とか、可能性の数字化とか考えていたりする。


「不定数、か。あー、じゃあ、こんな感じか?」


 反抗期が早速地面に数式を書いていく。

 ひは。これだから天才は。

 ひとつ教えたら勝手に発展させてしまうのだから。


「……この前、教えてもらった面積の表し方とか、簡単にならないか?」

「あ? ああ。こうして、こう、だな」


 二人して試行錯誤している。

 最近、あたしが教えることがどんどんなくなっている気がするわ。

 膝の上で『すぴー』と寝息を立てているヒーちゃんだけがあたしの癒しよ。


 平和だった。

 村の開拓は大変だけど、順調だし。

 国の諍いは続いているけど、責任の所在はこのままあやふやになりそうだし。

 だって、どっちも互いの言い分を認めないもの。動かぬ証拠でもない限りどうしようもないわ。

 一気に情勢が傾いていたら後からいくらでも勝った方が言い分を通せるけど、こうして膠着してくると正当性というのは重要になってくる。

 何故なら、周辺諸国が動くための口実になるから。

 自国にとって有用な方に助力するのに正義という文句は使い勝手がいい。その方が国民からの支持を得やすいし、戦う兵の士気も上がる。

 だから、両国とも自分の正当性を主張している。

 自国の味方を増やすため、敵国に味方しようとする国を牽制するため。


 戦争なんてしてる場合じゃないと思うけど。

 大陸の北方では未知の獣――魔物と呼ばれているらしい――によって酷い被害が出ているのだとか。既に小国がひとつ滅んだという噂まである。

 こうして開拓村が急ぎで増やされているのも、北からの流民を受け入れるためかもしれない。


 小国とはいえ、国が亡びるほどの獣害なんて考えられない。

 その魔物はどこから現れたのか、積極的に人間を襲うのは何故か、どういう特徴があるのか、色々と調べた方がいい気がする。


「でででで、も、ああ、あたし、くく薬師の、む、娘だし」


 正直、どうしようもない。

 実際にその魔物を見たこともないのだから。


「■■っち。怖い顔してるー」


 下から見上げる視線で目が合う。

 ヒーちゃんだ。

 でも、不思議。別に普通の顔のつもりなんだけど、怖い? あたしの普通の顔、怖いの?


「ヒーちゃん。ご、ごめんねえ。おお起こしちゃった?」

「ううん。起きた!」


 元気に起き上って、無意味にポーズをとる。

 若いわあ。ちょっとエキスくれないかしら。

 で、ヒーちゃんが起きると野郎二人が使い物にならなくなるのよね。そわそわしちゃって、それがばれないように意地張って、結局周りにはバレバレという。

 唯一、気が付かないヒーちゃんはあたしの手を引っ張ってきた。


「■■っち、そろそろ帰ろ?」

「どど、どうして?」


 いつもは夕方ぐらいまでお勉強会やヒーちゃんの山遊びに付き合っている。

 天気が崩れそうなのかと空を見ても、よくわからない。普通に雲はあるけど……。


「雨が降るの?」

「それも、だけど、なんか、変?」


 きょろきょろと辺りを見回しながら首を傾げるヒーちゃん。

 天気のことはあたしには判断できない。

 でも、勘のいいヒーちゃんがこういうのだから、大事を取って戻るべきかしら。

 雄二匹に視線を送ると頷かれた。まあ、この二人は基本的にヒーちゃんの意見に従っちゃうだろうし。余程、ダメなことなら注意するけど。


「じゃ、じゃあ、かか帰りましょ」


 薬草が山盛りになった籠をあたしが、空っぽになったバスケットをエレ君が持つ。

 ここから村まで子供の足だと一時間ぐらい。


 林が森と呼ばれるほどに深くなる直前の辺り。

 森じゃないと見つけられない薬草がたまに生えているから、定期的に来るようにしている。

 獣道とほとんど変わらない程度だけど、ちゃんと道もできているので余程暗くならない限りは迷う心配もない。

 来た道を戻ろうとした時だ。


「■■!」


 昼過ぎでも薄暗い林からあたしの名前を呼ぶ声がする。

 これが知らない声だったらホラーだったけど、幸い知っているので驚きはしたけど、怯えることはなかった。


「■■!」


 息を切らせて走ってきたのはショタ。

 途中で枝で切ったのか、肌の露出している顔や手に切り傷がある。

 そんなショタは相当焦っているのか、あたしの目の前まで全力ダッシュでやってきた。撥ねられるんじゃないのってハラハラしていると急停止。

 ぜえぜえと息を荒げながらあたしの顔を凝視してくる。

 これってもしかして……若い性の暴走!?


「ひ、ひは。な、なな、なによ?」

「良かった。■■。無事で。良かった」

「ぶぶ、無事?」


 いきなりの安否確認に首を傾げる他ない。

 詳細を聞きたいけど、ショタはあたしの肩に手を置いて、よかったよかったと繰り返すばかりで役に立たない。

 というか、ちょっと怖い。鼻息荒いし。

 とうとうヒーちゃん的に『危ないもの』判定を受けたのか、木の棒でべしっとお尻を叩かれてしまう始末。

 その頃になってショタの後ろから別の人が来た。


「つっくん?」


 細い道に難儀しながら歩いてくる大男。

 お尻を押さえて悶えているショタの姿に溜息を吐いていた。

 相手は無口なつっくんだけど、今のショタが復活するのを待つよりずっと話が早そうね。


「つっくん、なな、なにか、ああ、あったの?」


 頷いたつっくんが差し出してきたのは一枚の羊皮紙だった。

 そこには大きく似顔絵が描かれ、その人物の特徴を箇条書きにして記してある。


 リセリア・コルト・フィ・ディフェンド。

 ディフェンド王国第七王女。

 生きていれば十四歳。金髪。細身。当時の服装など、情報の羅列。


 スレイアとディフェンドの国境で行方不明になった事、その行方を捜している事、見つけた者には恩賞を与える事。

 そんな内容がスレイア王国から発令されていた。


「村長が、隣町で、渡されたんだ」


 あたしたちが読み込んでいる間にようやく復活したらしいショタが立ち上がった。

 真剣な眼差しであたしを見つめてくる。


「これ、■■なのか?」


 直接、尋ねてきたのはエレ君。

 反抗期はしかめっ面で似顔絵とあたしの顔を見比べている。

 ヒーちゃんはよくわかっていないのかポカンとしていた。


 はあ。本当に過去ってしつこい。

 昔の男の影と一緒なのね。昔の男とかいないけど。結婚予定だったエロ爺貴族はノーカウントよ!


 残念ながら、似顔絵はそっくりだった。

 後宮の奥、書庫に引き籠った『古紙姫』の人相を、敵国のスレイアがどうやって知り得たのか不思議だけど、今はそこは重要じゃないわね。

 確かなのは、ちょっととぼけるには無理があって、それ以上に大切な人たちに嘘を吐きたくないと思っている事。


 果たして、村の人はあたしをどうするつもりだろうか。

 当然、上からの命令に逆らうのは非常に危険だ。反逆罪、といかなくても開拓への助力を減らされたり、最悪の場合は失ってしまうかもしれない。

 対して、従えば相当の恩賞を期待できるだろう。それを非情とは言えない。開拓村の暮らしは楽ではない。収穫が減れば、冬を越せない家だって出る。恩賞さえあればそれが金貨にしろ、物資にしろ、免税にしろ、悲しい喪失を減らせるのだから。


 仕方ない。

 皆に嘘はつきたくないし、お世話になった村に迷惑はかけられない。

 スレイア王国があたしを探す目的は、戦争の正当性を得るためだろう。証言させるだけじゃない。ディフェンド王家の血筋を確保する意味もある。

 連れられて行っても酷い目にはあわない、といいんだけど……。


「そそ、そうよ。そそれ、あ、あたしなの」


 静まり返る。

 林や森も息を止めたような緊迫感。

 どれだけ時間が過ぎたのか、五人が互いに顔を見合わせる。

 どんな言葉が来るのか、ちょっと想像できない。

 騙していたとか思われるのは嫌だけど、隠し事をしていたのは事実だから、ちゃんと全部受け止めよう。

 そんな覚悟を固めたところで、誰かが息をもらした。


 ぷっ、と。


 途端に、堰切ったように笑いが巻き起こる。

 爆笑だった。

 エレ君も、ヒーちゃんも、つっくんも、ショタも、反抗期も。

 反抗期に至っては涙まで浮かべて笑い転げている。


 さすがにこれは想像できなかった。


「ちょ、ちょっと、みみ皆? ど、どうしちゃったの? ここ壊れた!?」


 問いかければ、代表してエレ君が涼しげに微笑む。


「なに。■■が面白い冗談・・・・・を言うから笑ってしまっただけだ」

「お前が姫とかねーわ。しかも、今の真顔。仕込みすぎだ」


 反抗期が涙を拭いながら起き上がる。

 ヒーちゃんはよくわかっていないのか、皆が笑っているから釣られて笑っているだけっぽいのだけど。


「ぼ、ぼひゅひゃ! ひめっふぇひんじるひょ!!」


 ショタは何が言いたいのか、笑いすぎて舌が回らないのかしら。両手を握りしめて、真っ赤になって何か言っているのだけど、ちっとも聞き取れない。

 つっくんに肩を叩かれて慰められている。

 あたしが理解できないでいるのを察したのか、エレ君が溜息を吐く。


「つまり、私たちはリセリア・コルト某など知らない。知っているのは薬師の娘、■■ということだ」

「そそ、そんな……わ、わかってるの? こここれ」


 あたしの言葉を冗談ということにして(本当に信じてもらえていない可能性もあったりするけど)、あたしの味方でいてくれると言っているのだ。

 露見した時、罰を受けるかもしれないのに。


「わかってるに決まってんだろ。馬鹿にしてんのか」

「ボク、わかんないけど、馬鹿かな?」

「―――っ!?」


 ヒーちゃんの無邪気な問いに反抗期が凝固する。

 反抗期選手、此処は綺麗な切り返しを期待したいところだけど、厳しい。厳しい展開よ。何も言えなくなっているわ。とりあえず、干乾びるまで脂汗を流してもヒーちゃんはわかってくれないわよ。


「助け合おう」


 つっくんが一言でまとめた。

 その一言で納得したのか、ヒーちゃんがあたしの手を握って見上げてくる。


「■■っち。いっしょがいいよ?」

「……そ、そそ、そうね。ヒーちゃんの、い、言う通りね」


 声が震えてしまったのを誤魔化して、ヒーちゃんを抱きしめる。


 本当に優しい人たち。

 要らないと、邪魔だと、言われていたあたしなんかを大切にしてくれる。

 あたしみたいなお荷物を抱えようとしてくれる。


 何があってもこの人たちだけは守ろう。

書くにあたって読み返したら、作者の想像を超えて名無しの騎士のおじさまがかっこよかった件について。

気が付くと男気が溢れてしまう……。


先週の「いつかのだれかたち(猫まみれ)」は来週にでも活動報告に移設します。

しばらく喪の中に紛れてしまいますが、見なかったことにしてください。

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