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魔法書を作る人  作者: いくさや
後日譚

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後日譚37 両親へ 

意外な人がいっぱいしゃべる。

 後日譚37


 さて、村の外からのお客様はこれぐらいだ。


 ……少なくないよ。

 友達、いるよ。

 ただ、ちょっと地位が高すぎて気楽に動けなかったり、限られた人にしか生還を伝えてないから呼べないんだよ。

 学園時代に知り合った人だっているんだから。今、どうしているか知らないけど。


 まあ、お付きの人とかも含めれば来客数はさりげに三十人を超えている。

 それに村の人はほとんどが参加するから寂しいなんてない。

 ラクヒエ村ぐらいの村だと結婚するにしても式は身内だけとか、そもそも式をしないという場合が多いのだけど、僕たちは特別という事で大々的に準備してくれていた。

 年に一度の収穫祭と同じノリみたいだ。


 いや、僕も詳細は伏せられていて知らないのだけど、おじいちゃんが張り切っているのを目撃しているから、なんとなく察することができる。

 王様から半ば押しつけられるように渡された、三年前の戦いの報酬を使い切る勢いだとか。

 思い返してみれば兄と姉の結婚の時もおじいちゃんは奮発していた。

 お金の出所とか考えてなかったけど、おじいちゃんの実績を垣間見た今となれば、その時に得た報酬などなのだろう。


 感謝しているけど、自分のために使ってほしいとも思う。

 とはいえ、嬉々として準備しているおじいちゃんを見ると止める気にはならない。

 ここはありがたく受け取ろう。


「シズ、それどうすんだ?」


 付添いのラクが尋ねる『それ』とは、僕の手にする品々のことだ。

 一部を除き、平民が、というか普通の人が目にすることもないラインナップ。本来ならここでラクに預けて、蟻塚(新居)に届けてもらう手はずだった。


「持って行ってもらえると助かるけど」

「……どうやって?」


 彫像とか、台車に乗っていても裏山まで持っていくだけで一仕事じゃないか。

 その他の品々もちょっと一般人が持ち運ぶには覚悟が必要になるものばかりだ。気が引けるラクの気持ちもよくわかる。


「ん」「お」


 不意に空から何かが舞い降りてきた。

 振り返れば大鷲から人(色違いの僕)に変身したリゼルだ。

 いつも通りしかめっ面で見上げてくると、小さく呟く。


「……よう」


 今回、魔人たちは式に参加しない。

 僕も村の人たちも誘ったのだけど、まだ自分たちがいては気が休まらないだろうと固辞されてしまった。

 自由に姿を変えられるリゼルや、比較的人に近い見た目のテトラは問題ないだろうけど、皆がいかないのに自分たちだけ参加したくないと、今日はあちらに残っているはずだった。


「なんだ、様子を見に来てくれたの?」

「ちげえよ。たまたまだよ。通りかかったんだよ。そしたら大変そうだから手伝ってやろうって思ったんだよ」


 たまたま村の上を飛んでいたんだ、と指摘しない方がいいかな。

 からかって拗ねられても困る。申し出自体はありがたい。


「頼める?」

「し、仕方ねえな。持ってってやるよ」


 俯き気味に答えるリゼルだけど、口元が嬉しそうに笑ってるの見えてるから。うん。これは僕でもわかる。どんどんツンデレが悪化しているみたいだ。

 しかし、そこは魔人。荷物を載せた台車を危なげなく引っ張っていってくれた。

 そろそろ、弟子になるって言ってくれてもいいんじゃないかな?




 客の出迎えが終われば婿の仕事は次に移る。


 まずは実家に挨拶。

 次に花嫁の実家に挨拶に行き、花嫁を迎えに行く。

 そして、場所を移して結婚式場へ。見届け人の前で結婚の宣誓。

 後はお祭りと変わらない。広場で宴会コースだ。


 ラクと別れ、実家を前にして色々と感慨に浸る。

 基本、結婚を機に子供は実家を出ることになるので、ここが僕の家ではなくなるわけだ。

 小さい頃は色々とあった。

 前世を思い出したのもここ、リエナと初めて出会ったのもここだった。


 そして、数々の黒歴史がここで紡がれたのだ。


「早く挨拶しないと!」


 人生、切り替えが大切だ。

 井戸や窓を見るだけでも、連想ゲームみたいに転生したばかりの頃のやらかした記憶が蘇りそうになって血の気が引いた。

 早速、家に入る。


「……シズ、顔色が悪いぞ。どうした?」

「ちょっと古傷が、ね」


 無口なお父さんが心配する程度に酷い顔色みたいだ。

 最後の敵は自分自身とは。まったく油断も隙もあったものじゃない。


 段々と髪に白が混じり始めたお父さんのロイドは、お母さんよりも少し年上だからもう五十歳になる。

 狩人という割と肉体派な仕事を何十年と続けているのに、見た目はわりとロマンスグレーの紳士然としていて、今日みたいに髭を剃って、仕立てのいい服を着ると貴族、とまではいかないまでも村人に見えなくなる。


 隣に寄り添うお母さん、テナはもうすぐ五十歳だというのにほとんど見た目が昔と変わらない。うん。気持ち、ちょっと、ほんの少し、ちょっっっっっぴり、歳を取った気がしないでもないでもないけど、こんなの誤差の範囲だろう。

 おかげで一見するとお父さんがとんでもないロリコン野郎に見えてしまっているのだけど、村の人間にそのことを指摘するような人はいない。


 いや、余計なことは考えるな。

 この見た目の対比は事故みたいなものだ。


「大きくなったな」

「本当にね」


 両親から改めて言われると照れてしまう。


「色々と面倒ばかりかけてごめん」

「シズは子供たちの中でも勝手に育っていった感じだったがな」

「小さい頃はおとなしくて心配だったけど、元気に大きくなってくれてよかったわ」


 いや、その大きくなってからの方が色々と面倒を掛けたと思うんだけどな。始祖とか、行方不明とか、魔人村とか。

 どうやら二人にとっては幼少期の僕の方が印象深いらしい。

 確かに村を出てからは、たまにやり取りする手紙程度では実感しづらいかもしれない。そりゃあ、自分の子供が世界を救ったとか、スケールが違いすぎる。


「手は掛からなかったわよ。でも、時々変になっちゃうのは……」

「ごめん。それはもう勘弁して!」


 ナチュラルに僕の急所を貫こうとするお母さんを止める。これだから天才は。

 顔を青くする僕に、さっきの顔色の悪さの原因を見たのか、お父さんは苦笑を挟んで、真剣な顔つきで僕を見つめてくる。


「テナ、シズにお茶を」

「はーい」


 お母さんの姿が台所に消えるまで待って、お父さんは口を開いた。


「シズ」

「はい」


 ただならぬ様子に僕もまた居住まいを正して、向き合う。


「これは父としてではなく、一人の男としての助言だ」


 その言葉に自然と気が引き締まる。

 父から一人の男として認めてもらったのだと。

 視線がぶつかり合い、お父さんは良い覚悟だというように小さく頷いた。


「結婚後のことだ。流れに逆らうな」


 ……うん?

 なにやら武術の奥義みたいなことを言われてしまったけど、どう受け止めればいいのだろうか。激流を制するのは静水、みたいな?

 首を傾げる僕にお父さんは顔を寄せて、声を潜めた。


「知っての通りテナはああいう女性だ」


 ああって、まあ、うん。お母さんは結構独特だよね。

 戦闘能力が高すぎるせいか、一般女性と価値観が色々と乖離している。

 たとえば典型的な女性向け小説でのシーンを想像してほしい。悪漢に襲われたところを主人公ヒーローに助けられる場面。

 普通の女性なら頼れる男性の姿にときめいたりするのだろう。

 しかし、お母さんの場合だと助けられても『手際が悪いなー』程度の感想が関の山だろう。というか、そもそも絡まれたところで助勢が出待ちしている間に返り討ちだ。


「リエナも似たところがあるだろう?」


 そうだろうか?

 確かに師弟だけあって同じ槍使いで、天才肌で、強い。

 感性というか、価値観などが独特で、マイペースなところも似ている。

 けど、それぐらいじゃないかな。

 リエナは猫妖精の血筋のせいか、色々とそれっぽい言動が多い。


「リエナって結構、独占欲強いけど、お母さんは……」

「お前は知らんだろうが、妻としてのテナはかなり嫉妬深いぞ?」

「………」


 知りたくなかった、そんなお母さんの女の顔なんて。

 まあ、子供に対するそれと、旦那に対するそれが違うというのはあり得る話かもしれない。

 それにしてもお父さんとこんなに長く、腹を割って話すのは初めてだな。


「つまり、なにが言いたいかというとだな」

「うん」

「お前は尻に敷かれる」


 断言された。

 男として認めてもらった直後に、男として情けないことを言われたのに、憤るどころか否定の言葉も思いつかない。

 何故かと言われれば自分でもそんな想像ができていたからだ。


 いや、どんなに情けないと言われても、リエナにじーっと見られてしまえば僕はもうアウト。それだけで詰んでしまうのに、それが上目づかいでツーアウト、涙目でスリーアウト、にゃあと泣かれたらゲームセットだ。

 主導権なんて夢のまた夢。夫婦喧嘩にもならないじゃないの?


「大丈夫だ。彼女たちのような人は自然と正解を掴み取る。その流れに逆らおうとすると不幸が寄ってくるんだ」


 なんとなく、納得できてしまった。

 できてしまった段階で反論の言葉は意味を為さないだろう。


「つまり……」

「仲良くやれ、と?」


 わかっていればいいと頷いて、お父さんは元の姿勢に戻った。


「二人とも、お話は終わった?」


 丁度、お母さんがお茶を入れて戻ってきた。


「ああ」

「何をお話ししてたの?」

「うん。夫婦生活についてちょっと」


 お茶を飲みながら、それとなく二人を観察する。

 湯飲みを傾けるお父さんを、ニコニコと幸せそうに見ているお母さん。

 うーむ。一見するとごく普通の夫婦に見えるんだけど……。


 うん。でも、両親の、というより先人のアドバイスだ。参考にさせてもらおう。

 二人の前に立って、深く頭を下げた。


「お父さん、お母さん、今日までお世話になりました」

お母さんが色んな意味で強すぎて、出番のなかったお父さん。

まともな台詞がこれとは……。

でも、その事実こそが彼のセリフを裏づけしてるような?


さて、リエナさんがスタンバイしてますよ。

どんな服にしましょうか?

ご意見募集中。期間は次の話が投稿されるまで(多分来週)。感想欄に書いてください。

色とかドレスのタイプとか。現代日本の形式に従うもよし、異世界というご都合主義に身を任せるも良しです。

一応、いくさやも考えてはおりますが、こっちの方がいいなーと思ったら採用させてください。

お待ちしております。


それと活動報告に二巻のリエナさんのラフを載せました。先週の師匠もおりますので、よろしければご覧ください。

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