後日譚33 匠の業
後日譚33
村の魔人への判断は保留になった。
いくら長閑なラクヒエ村でも魔族への根源的な拒絶はある。
なんでも二つ返事で『了承』とはいかない。
とはいえ、僕の頼みを頭ごなしに否定するのも違うと思ってくれた結果が保留。実際に交流してみて判断する、と。
実際に触れ合う前から拒絶しないでくれるだけで嬉しい。
さすが、どうしようもなかった子供の頃の僕を受け入れてくれた村だ。うん。自分で言うと悲しくなってくるね。事実だけにどうしようもないけど。
こう村全体の考え方が平和なのに理由がある。
なにせ、この村に世界屈指の実力者が四人もいるのだ。今さら魔人が暴れました、で慌てふためく必要なんてどこにもない。
この四人がその気になったら、数日で世界を滅ぼしてしまえるという事実は気づいたら負けだと思う。
閑話休題。
肝心の住まいについて村長たち村の代表者に考えを告げる。
「まあ、私たちがとやかく言う場所ではないが……」
考え込む村長たち。
提案したのは裏山だ。
詳細も決めている。かつて僕が術式崩壊を起こした場所。
「あの辺りならわかりやすいでしょ」
「しかし、あそこまで奥地だと開拓も難しいぞ」
狩人の代表としてラクが発言する。
最初から手伝うことを前提に話してくれているのが、らしいなと思った。本当に面倒見がいい。
「大丈夫。それも考えがあるんだ」
「……本当に大丈夫か?」
僕は自信を持って請け負う。
なんだかラクは不安そうな目を向けて来るけど、失敬な。ちゃんと色々と考えているんだから任せてほしい。
ここは百聞は一見に如かず。やってみせよう。
「これからちょっと行って、用意してくるよ」
数年ぶりに訪れたそこは周囲から浮いていた。
一見して植生が薄い。
この数年で少しずつ森の中に取り込まれそうになっていても、破壊の爪痕が完全に消え去ることはなかったようだ。
一度は更地になりかけたのだから、それも当然か。
思えば僕の魔法はここから始まったんだよな。
手痛い失敗だったけど、今になって思えばあれが僕の始祖への一歩目だったわけだ。
感慨深い。
でも、史書にもこの失敗が残されるかもしれないんだよな。
僕は望んじゃいけいけど、歴史に名前が残るのはもう確定してしまっているから必然だ。
感慨深い(泣)。
「まあ、やることを片付けよう」
「ん」
唯一の同行者であるリエナだけど、今回はやることがないので見学してもらう。
取り出したるは漆黒のバインダー。
この作業のために中身は特別に用意してある。
「いけ。『常世の猛毒』」
深紅の領域が展開。
森の一角が深紅の半球に飲まれて、木々が消滅していく。
ついでに雑草なども消滅させて、範囲内に突如として放り出された野生の獣が慌てて逃げ出して行った。
彼らの住処を奪ってしまうのは申し訳ないなと考えていたら、リエナがこちらに向かってきた猪を一撃で仕留めてしまった。
狩人の手伝いをしていたリエナにとっては獲物以外の何物でもないのか。
「ん」
「あー、ありがとう?」
……まあ、村の食卓に並ぶ動物たちのことを考えても仕方ない。せめて、命の尊さを忘れないように心を込めて「いただきます」「ごちそうさま」を言おう。
そうして出来上がるのが、正真正銘の更地。
でも、まだまだ。
リエナに離れてもらってから続行。バインダーから今度は二枚の魔造紙を取り出す。
「いけ。『武神式・剛健』」
慣れた作業で身体強化し、その場で遥か上空まで跳び上がる。
跳躍の頂点に達する直前に用意していたもう一枚を杖で叩く。
「と『支天柱』」
武器の召喚魔法と強化の付与魔法による合成魔法。
生み出されるのは数十メートルもある槍だ。
最早、人間では『持つ』という発想すら出てこない程の巨大な威容を誇るそれを槍と呼んでいいのか疑問だけど、形状だけならば槍なのは間違いない。
文字通り、柱と言った方が納得できるだろうけど。
で、それを両手で掴んで、
「よいっしょおっ!」
地面へと投擲する。
その速度、既に常人には視認も不可能な領域。
裏山に轟音が響き、地面が揺れた。
音速を超えた結果、衝撃波が後から辺りに拡散して消える。
でも、僕は作業続行だ。
「いけ。『螺旋鋼矢』」
重力加速を超越して地面に深く突き刺さった槍(?)を中心に、十本の矢を突き立てる。
イメージは長方形。四隅とその中間に八本。
残りの二本は槍と並んで真ん中の辺りに。
成果を空中から確認して、槍の根元に着地する。
刺さり具合を確かめれば、どれも地中深くまで沈み込んでいた。
「うん。割と真っ直ぐ刺さったね」
「ちょっとだけ傾いてる」
「え? こっち?」
リエナに指摘されて角度を微調整。
「これ、柱?」
「そうだよ。どうせ建てるなら、丈夫な方がいいからね」
これから魔人たちの生活に様々な厄介が降りかかるのは避けようがない。
なら、せめてその生活基盤になる住処ぐらいは安全なものにしてやりたいじゃないか。
その点、僕の魔法で生み出した素材なら心配ない。
あと、立派な家を用意してあげたら尊敬されて、弟子になるというのではなんて下心もあったりする。
調整に満足できたところで次の作業へ移る。
というか、これでほぼ完成の予定だ。
魔法による建築。
実にスピーディで安価な画期的建築法が確立するのだ。
「いけ。『峻厳霊峰』」
ソプラウト大陸で三種魔神と戦う舞台を用意するために使った合成魔法。
あの時のように三百倍なんて魔力量的にも、魔筆的にもできないけれど、五十倍なら大丈夫だ。
それに、今回はあの時ほどの範囲は不要だし。
強度の点は心配ない。三種魔神の鎌でさえ斬れなかった実績がある。
「さあ。イメージしろ、僕」
僕のイメージに合わせて地面が動く。
まずは出来たばかりの支柱をコーティング。続けて、十本の柱も同じく包んで、円柱に仕立て上げる。
……ちょっと、不恰好になったな。いや、大丈夫だ。後から調整すればいい。
気を取り直して、土台を作る。
最終的に板張りなどで加工するけど、土台は大切だ。
……まっすぐ。……平らに。難しい。なんか、全体的に傾いている気が……。微妙にデコボコもあるけど、うん。大丈夫だろう。頑丈なら。
ほら、最後に調整すればいいんだし。
もう一度、気を取り直して壁面に取り掛かる。
細かい仕切りは最後でいいとして、まずは外壁から。柱の間を土の壁で埋めていく。
う、うん? 厚さを、均等に、あ、穴ができちゃった。いや、違う。穴が開いたんじゃない! 窓を作ったんだ!
いいんだよ! 最後に微調整するんだからさ!
なんだか、リエナの視線に湿度が混ざっているような。
僕の内心が見透かされている気がする。
いや、単純に僕自身の引け目がそう思わせているだけなんだろうけど。
大丈夫だ。僕は最後までやりきってみせる!
そうして悪戦苦闘すること三十分。
三階建ての建物が出来上がった。
「………」
いや、嘘はいけない。
正しく表現するなら『建物らしき何か』が出来上がったというべきだろう。
全体的に歪んでいる。
太さ・厚さ・長さから、面の凸凹に、傾斜の角度まで。
見ていると何だか気分が悪くなってくる。
視覚効果に訴えかける類の罠と言われれば納得してしまいそうだった。
うん。
無理に例えるなら……。
「……蟻塚?」
リエナの一言で僕は膝を突いて、崩れ落ちた。
自分の不器用さを計算に入れ忘れるとは。
この後、建物は崩壊魔法でちょっとずつ削って、なんとか人が住めるようにしました。
こうして後世で『愚者の学び舎』と呼ばれることになる、史上最硬の要塞が出来上がったのだった。
久々の更新ペースだけど、今回だけだよ!
書籍の情報は公式サイトの更新に合わせますので、もう少々お待ちください。




