番外2 しっぽのきもち
番外2
ここ、どこ?
いつのまにかわたしは川の近くにいた。
走って走って走りつづけて、急に地面がなくなって足とおしりが痛いと思ったらここにいた。
こんなのはじめてでなにがなんだかわからない。
まっしろだった頭がやっともとにもどった感じ。
目の前に川。足元は小石だらけ。後ろはちょっと高い土のかべ。その上は木がたくさんあるから森みたい。ラクヒエ村の近くにこんなところがあったんだ。
村の近くにあったくだものがついてた木とはぜんぜんちがう。
もしかしたら、ここは村の後ろにある山なのかもしれない。
おうちの本で山はこんな感じって書いてあった。
さっきまでお昼だったのにもう空が暗くなっている。
夜でもよく見えるわたしだけど、今日はお月さまが出てないから少し先ぐらいしか見えなかった。
早く、帰らないと。
よく覚えてないけど、あそこから落ちたんだよね?
すわったまま後ろを見るとおしりに着いた土と同じ色の土が見えた。
がんばってのぼろうとしたけどうまくいかない。土が落ちて少し上がったてもすぐにすべっちゃう。
何回もがんばったのにダメだった、
耳もしっぽもがっかりしてしまう。
川で手をあらっていたら、くーとおなかがなった。
おなかへった。
ますます耳としっぽがしょぼんとしてしまう。
おうちに帰りたいな。
ここにいても帰れない。
よーく耳をすましてみたけど、色んな虫とかどうぶつの音しかしない。聞きなれない音たちがちょっとこわい。
「父さん……。母さん……。おじいさん……」
だれもいない。
他によべる人もいない。
あ、さっきの男の子……名前、しらない。
どうして聞かなかったんだろう。
きっといつも1人だったから。話し方をわすれちゃったんだ。
ありがとうも言えなかった。すごい、かなしい。
「帰りたい」
じっとしてるのもこわくて歩く。
川のまわりは石ばかりでしっかり歩けなかった。
どれだけ歩いたのかわからないけど、石だらけの中でポツンとあった小さな木まで来たところで休むことにした。
もう辺りはまっくらでわたしでもよく見えない。
ローブをぎゅっとにぎって木によりかかる。
泣かない。
泣いたらダメ。
鼻のおくがスンといたくなって、ひざに顔をあてたまま眠ろうとした。
つかれているのにうまくねれなかった。何度も起きて、眠って、起きてしまう。
気が付いたら辺りが明るくなっていて、朝になったんだってわかった。
ぼうっとする頭でよろよろと川に行って顔をあらった。水も飲んだら少しだけ眠いのがなくなった。
あ、魚!
わたしは川を泳ぐ魚を見つけてとびついた。
後から考えたらつかまえても食べ方がわからないのに、魚を見たらかってに動いちゃったからしょうがない。
ぐっしょり頭からぬれてしまった。
ローブをしぼって、ねていたところの木にひっかける。
おなか、くーくーする。
もう1日、なにも食べてない。
「あ」
なにかないかなって探してて気づいた。
土のかべから木の根っこが出てる。あそこなら上に行けるかも。
さっそく、根っこにのぼったけどびくともしない。これならだいじょうぶ。木のぼりはたまに1人でやってたからかんたんだった。
上は草と木ばかり。
やっぱり知らない場所。
あれ?なんの音だろ?
耳がぴくぴく動いた。
草の向こうからなにか変な音がする。
ずうううううううううう、すうううううううううううううう、ずうううううううううう。
聞いたことない。
なんだろ。村にはこんな音なかった。
でも、だれかいるのかも。
行ってみよう!
草に入ろうとしたら手がいたかった。たいへんだけどちょっとずつ足でふんで音のする方に行く。
ずっと、音に向かって歩いた。
あ、まぶしい!
急に明るくなって目がちかちかする。びっくりして目をつぶっちゃった。
そのまま音の方に行ったらガクンってしたと思って目を開けたら下になにもなくなっていた。しっぽがボンとふくらむ。
ぼすん、と。
ふんわりした感じでちゃくちした。
下にあったのはみどり色の土と草。
見上げると昨日の土のかべよりずっと高いかべがあった。
わたし、また落ちちゃったんだ……。
ここは根っことかもないからのぼれない。
がっかりしてると急に後ろでびゅうんとすごい音がして、
ずしいいいいん
足の下がゆれた。
びっくりして耳としっぽの毛がさかだった。
ちょっとずつ後ろを見ると、木みたいに太いなにかが持ち上がって、向こうの方にふりまわされた。
また、重い音がしてゆれた。
こわい。
ここはあれが落ちてくるかも。あっち。あっちなら届かないよね?
手と足をついたままちょっと高くなっている辺りに行った。
そこでわたしはどこにいるのかわかった。
これ、大好きなどうぶつの本の後ろの方にのってた。絵もあったからまちがいない!
こうかく竜。
まもの。
山にいるどうぶつとはちがうあぶない生き物。
ぜったいに近づいちゃいけないって父さんが言ってた!
聞こえてた音はこの竜の息だったんだ!
耳としっぽがこわいこわいとふるえてる。
さっきのはしっぽだったんだ。あんなのに当たっちゃたらぐちゃってなっちゃう。
ぎゃくの方を見たらしっぽみたいに長い首があって、その先っちょに大きいとかげみたいな頭があった。
こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい!!!
こうらからでてる草をつかんだまま動けない、
こわくてなにもできない。
そうやってどれぐらいふるえてたんだろう。
竜の息の音のなかに聞いたことのある声がした。
あの男の子だ!
勝手に耳が立って、しっぽが動いてしまった。
すごい!名前を知らないからよべなかったのに、わたしを見つけてくれた!
どうしてだろう、あんなにこわかったのに今はへいき。
男の子はなにかぶつぶつ言いながら草でひもを作ってくれた。見たい?なにを見たいんだろう?わたしの耳でもよく聞こえなかったけど、なにか気になってるみたい。
男の子はひもを投げてくれた。
かべの上で男の子がいろいろとおどったり、小さな声でしゃべってる。なにかいいことがあったのかな?
あ、このひもをこうらにひっかけてって言ってるんだ。
わたしは男の子の言うとおりがんばった。ひもが向こうとつながって、言われたみたいにのぼろうとやってみた。
半分ぐらいまで来て、もう少しだって思った時、大きな音がしてひもがゆれた。
また、こわいがきた。
「もどって!早く!」
なにがなんだかわからないけど男の子の言うとおりにした。
のぼるのはたいへんだったけど戻るのはかんたんだった。ひもをすべったらすぐにこうらにもどった。
ひもが竜の口にくわえられてる。さっきまでわたしがいたところだ。
その後は、男の子までこっちにきちゃった。なんだかわからないけどひもをひっぱったのはよかったみたい。
男の子はいろいろとうごきまわっていた。
あと竜のことを聞かれたので知ってることを教えた。ちゃんと話せているか不安だったけど男の子はうなずいていた。よかった。
やっぱり男の子はあれこれと変な顔をしていたけど、パンをくれたり、休ませてくれたりした。
あと、名前を教えてくれた。
シズっていうんだって!
わたしもリエナって言えた。うれしい!
手を出されたけど、なんだろう?
手を乗っけたらぎゅってにぎられて、ほっとした。これで良かったんだ。
昨日はぜんぜんねれなかったのに、今の方がいやな感じなのに、シズがいてくれたから眠れそうだった。
でも、その前にシズをちらりと見てびっくりした。
シズは苦しそうだった。つらそうだった。こわがっていた。
さっきまで笑ったりしてたのに。
がまんしてたの?
シズはへいきなんだって思ってた。
でも、ちがったんだ。
わたしみたいにこわいんだ。
それなのに、来てくれたの?
助けてくれようとしているの?
むねがあつい。
もう目を閉じてもねむれなかった。
わたしが起きてると気づいたらまた笑ってくれた。シズは、すごい。
わたしもがんばらないと。シズに休んでって言ったけど苦しそうに笑うだけ。やさしい。
(あ、もう、ダメ)
ズボンの中のしっぽがピンと立っちゃって少しいたい。
すきまから外に出す。
シズはびっくりしてた。あ、しっぽも見られちゃった。
でも、ぜんぜんいやがったりしなかった。ちょっとうれしそうだった。
でも、どうしてシズはこうらをたたいたんだろう?
手がいたそうで心配していたら、赤くなってる手で頭をなでてくれた。
あ、母さんが教えてくれたんだ。けがした時はなめるんだよね?
シズの手をつかまえてペロリと舌をあてる。
シズの鼻から血が出てびっくりした。
耳もしっぽもきゅってした。
これ、だれ?
内心さえ黙っていれば急にまともに見える主人公。
2話で終わらせるつもりでしたが入りきりませんでした。
3話目で終わらせます。




