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魔法書を作る人  作者: いくさや
後日譚

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後日譚18 裏方

お店の前の自動販売機、リポビたんが売り切れた……。

遅くなってしまい申し訳ありません。

 後日譚18


「そっかあ。先生、大変だったんだな」

「もう『始祖様』って呼べないんだね。これからはシズくん、でいいかな?」


 学院長室でレイア姫とテュール学院長にこれまでの経緯を説明した。

 色々と語り合いたいことは多いものの、今はあまりのんびりしていられる状況でもないので後に回そう。

 新築の学院は慌ただしい様子だった。

 制服姿の生徒が走り回っているのが、室内からでも感じ取れる。

 ここに来る途中、廊下などで擦れ違った生徒たちの会話の切れ端を集めると、忙しさの理由は想像できた。

 彼らは遠征の準備をしている。


「二人とも、首都に行くの?」


 王族二人は顔を見合わせるけど、その表情は対照的だった。


「おう。国の危機だから、オレは当然、行くぞ」


 気合の入ったレイア姫の返答は想像通り。

 テュール学院長は思案顔だ。


「ボクは反対なんだけどね。いや、ボクらはいいけど、生徒はついていくべきじゃないよ。少なくとも選抜するべきかな」

「兄貴!」

「数をそろえればいいってものじゃないよ。生徒への指示はボクに任せる約束だろ?」

「う、うん」

「生徒たちの意欲は認めるさ。でも、ボク程度に遅れを取るようなレベルで戦場に出るのは認められないな」


 その辺りは兄妹間で議論を終えているのか、レイア姫は納得しないもののテュール学院長の言葉を認めた。

 というか、テュール学院長に遅れを取るとか、あれって選抜かなんかだったの?


 おそらく、奴の趣味と実益を兼ねた行動なのだろう。あんな襲撃が日常的に繰り広げられるのかと思うと、学院生に同情を禁じ得ない。

 まあ、鍛錬に身が入ることは間違いない。押し倒されたくなければ、撃退できるほどに腕を磨け、と。残念過ぎる教育方針だな。

 そんな内心は表に出さずに会話を続ける。


「生徒は行きたがってるの?」

「おう! 皆、国のために集った奴らばかりだからな!」

「学院長命令で止めることもできるけどね。下手に頭ごなしに止めると、勝手に抜け出して行きそうな子が多いんだよ。だから、明日、ボクたちも首都に行く。だけど、あちらの兵に合流するのは一部さ。ボクとレイア。それから優秀な生徒が数名だけかな。他の生徒は後方支援してもらうんだ」


 普段の言動が残念すぎて忘れそうになるけど、元々は優秀な人なんだよな、こいつ。

 手の届かないところで暴走されるより、手の内に入れたまま連れ歩くわけか。


「まったく、許せねえよ。先生の名前を騙るなんてよ!」

「二人はその偽者に会ったの?」

「いや、会ってないんだ。地方を回って賛同者を集めてたからね。首都やその周りの町は避けてたみたいだ」

「ま、オレはすぐに偽者だってわかったぜ。先生、建国とかいうタイプじゃねえからな。リエナ姐さんも一緒にいないって話だったし」

「うん。それは基本だね」


 段々と自分のアイデンティティが揺らぎそうだ。

 僕ってリエナの隣にいる人って認識なの?

 いや、リエナの隣にいることが許されているのは光栄なことだし、誰にも譲るつもりはないのだけど。ちょっと複雑な気持ちになる。


「二人はどうするつもりだい? ボクたちにわざわざ会いに来たんだ。物見遊山で来たわけではないのだろう?」


 いや、挨拶はしたかったから、何もなくても訪ねていただろうけど。

 それでも首都を後回しにして最優先にはしなかったかな。

 まず、というなら馬鹿な王様の墓参りぐらいしたかった。あっちの最後で面倒を掛けちゃったわけだし。土産に小妖精のお礼に手に入れた霊木の泉酒もあるし。

 結局、なんの挨拶もできていない。

 僕の武技の基本は師匠の教えが土台になっているけど、それを実戦で通用するレベルまで付き合ってくれたのだから、出来れば手合せで一泡吹かせて成長を見せたかった。

 その機会は失われ、もう二度とない。


 などと一人でしんみりした気分になるところじゃない。

 気が付けばリエナが僕の手を握ってくれていた。チラチラと窺ってくる心配そうな目に、手を握り返して応える。

 視線を戻せばレイア姫は真っ赤になって俯いていて、テュール王子はニターと笑っていた。

 何事かつっこまれる前に本題に戻ろう。


「もちろん、僕の偽者なんだから協力するために来たんだよ」

「お、おう。先生たちがいるなら、心強いな!」


 まだ顔の赤いレイア姫が僕たちの手元から目を逸らしつつ、声だけは元気にコメントする。

 あの小さな子が男女の関係を意識するようになるとは、時の流れを感じるね。


「あ、でも僕は表だって戦わないから、よろしく」

「え?」

「言ったでしょ。始祖としては名乗らないって」

「手伝ってくれないのか?」

「手伝うけど、裏方に徹するよ」


 納得いかないように渋面になるレイア姫。

 以前の僕との違和感があるのだろう。


「レイア姫。リエナから聞いたけど、武王になりたくて修行してるんだろ?」

「おう」

「僕の知っている武王はこういう時、手を貸してくれとは言っても、人任せにするような奴じゃないよ」

「……ん。そうだな。わるい。先生に押し付けるところだった。これはブランの問題だもんな。オレたちでどうにかしないとダメだよな」


 とは言いつつもやや浮かない表情。

 慕う相手から突き放されたようで悲しいのかもしれない。それとも単純に『先生』の活躍が見たかったのか。

 そんな陰気な空気をレイア姫は自ら頬を叩いて振り払った。


「よし! じゃあ、ちょっとオレは少し体を動かしてくるよ!」

「じゃあ、リエナも一緒に行って稽古つけてあげて」

「ん」

「先生は?」

「もう少し、打ち合わせをね。後で合流するよ」

「おう。早く来てくれよな! オレがどんだけ強くなったか見せてやるからな!」


 そう言ってレイア姫はリエナと一緒に出ていった。

 テュール学院長と二人きりという恐ろしいシチュエーションだけど、今はあまり危険な雰囲気ではなかった。今は真面目モードということか。


「妹は武王になれると思うかい?」

「華はあるね。それと落ち込んでも塞ぎこまないところとか武王には合ってるかもね」


 普通の王様と違って、武王に求められるのは戦いの先頭を突き進む在り方だ。

 苦境に在って尚、前を見据える必要がある。

 レイア姫は素質があるだろう。

 課題があるとすれば、今までは子供で、それに女子のため、戦陣に加わることがなかったことだろうか。

 しかも、今まで見続けてきた背中がアレ。あの背中に守られてきたのだ。甘えが残ってしまっている可能性はある。

 それも、きっかけひとつで変わると思うけどね。


「守られる側から、守りたいと願うようになれば大丈夫だよ」

「その見続けた背中に君も含まれているんじゃないかな?」


 だとしたら光栄だ。

 今度こそ話を戻そう。レイナードさんから預かっていた文を出す。


「で、これはスレイア側からの親書」

「ボクが見ていいのかい?」

「ヴェルが最適だろうけど、今はその余裕もないでしょ」


 ブランの首都側は状況を膠着させるので手一杯。打破する力がない。

 あの馬鹿なら真正面からぶち壊しに行ってただろうな。まあ、あの規格外と比べるのはかわいそうだ。


「ふむ。奪われたスレイア軍秘蔵の魔法書……召喚がメインの合成魔法。その詳細だね。状況によっては破壊しても問題にはしないって保証か」

「それと不完全ながらも崩壊魔法も使うって話だけど、その辺りの情報は?」

「大岩を消してみせたらしいけど……」


 しょぼ!

 大陸レベルで消滅させた僕を基準にしちゃダメだろうけど。大岩って。それが全力じゃない、よね?

 とはいえ、常人では対処不可能だ。防御結界を幾重に張れば耐えられるかもしれないけど、連発されれば終わる。


「合成魔法も100倍の魔力、あー、わりとシャレにならないレベルのことなんだけど、そんなのが凝縮されているから、使われれば首都どころかブランの国土、ほとんどが焦土になるよ」

「ちょっと、これは手に余るね」

「ああ、そっちの心配はいらない。そういう人外なのは、裏方が片づけるから」


 当然、僕が処理するしかない。

 テュール学院長が苦笑を浮かべて、肩をすくめた。


「それが『裏方』かい?」

「今回の事件でメインになるのは乗せられた人たちの目を覚ますことでしょ」


 解決するだけなら僕が本物の第八始祖だと名乗り上げれば済む。

 真偽の確認なんて、魔法の成果を比べれば一目瞭然だ。

 まあ、お互いに模造魔法でなければ使えないのだから、どちらも偽者なのだけど。


 それを今回はレイア姫に担ってもらう。

 元武王の実子で、むさ苦しい男どもの中で見目麗しい少女は見栄えもいい。

 これが兵を相手にするなら話は変わるけど、相手はブランの民といえども一般人が多数なのだから、レイア姫の方が親しみやすいだろう。


「さあ、レイア姫との約束もあるし、手早く打ち合わせしようか?」

エスかっぷさん。

お料理が得意なお姉さん。

彼女はいつだって美味しい料理を用意してくれます。

具合が悪い時は、たくさん食べて、いーっぱい栄養を取って、治しましょ?

添い寝? 当然のオプションですよ?


……疲れた。休みたい。仕事、辞めたい。

せめて1日15時間拘束は何とかして……。

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