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魔法書を作る人  作者: いくさや
後日譚

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160/238

後日譚15 国境にて

更新間隔が空いてしまいすいません。

頭痛とジャンプコミックの発売が……。

 後日譚15


 再びリエナを抱えての強化付与魔法ダッシュ。

 どうして僕の旅はのんびりできないのか、という命題について考えながら走り続けること一日。

 スレイアとブランの国境である渓谷に到着する。


 渓谷に建造された要塞の鉄扉は重く閉ざされていた。

 厳戒態勢。

 どうやら想像以上にブランの政情は不安定みたいだ。

 要塞そのものを跳び越えるのは簡単だけど、ブランと接するここで情報収集してみよう。

 僕はもちろん、リエナもローブのフードを被ってもらって顔を隠している。村で初めて出会った時のことを思い出してちょっと懐かしい。

 ちなみに、着ているのは樹妖精の里でもらったお揃いのローブだ。例の和服みたいな刺繍の為された独特の柄だった。


 さて、真正面から入ることなどできない。

 他のブランへ向かう商隊などが扉の前で止められている。

 通行止めの事情を説明しているようだ。

 中にはどうしてもブランに行きたいとオーバーアクション気味にアピールしている者もいた。

 だけど、要塞を警備する軍人たちの対応は変わらない。

 丁寧な物腰で、粘り強く説得している。

 変われば変わるものだ。以前までの軍なら強硬な手段に出ていただろうに。


「……ん。シズ、降ろして」


 不意にリエナが僕の腕の中から降りて、歩き出した。

 スタスタと迷いなく進む先は、今日のところはここでキャンプしようと決めた集団などに振る舞うための炊き出しを行っている場所だった。

 大きな鍋で大量のスープをかき混ぜている女性に近づいていく。


「クレア」

「ええ。わたくしに何か……え?」


 手を止めて、リエナをまじまじと見つめる女性。

 恥ずかしながら、僕は気づけなかった。

 ここにいるなんて知らなかったし、まさか大貴族の令嬢が炊き出しの手伝いをしているとは思わなかったし、三年で随分と印象が変わってもいた。

 ふわふわの銀髪は短く切っていて、お人形さんを連想させた可憐さは凛とした美しさに進化している。有能なキャリアウーマン。そんな印象だ。


「久しぶり」

「リエナさん!」


 驚いているクレアにリエナが小さく手を振ると、顔は見えないはずなのに一発で言い当てた。

 さすがは親友。声で分かったのかな。

 鍋を部下らしき人に任せて、駆け寄るなりリエナの両手を握りしめた。

 リエナもしっぽがゆっくり揺れているので、上機嫌そうだ。


「リエナさん! 本当に久しぶりですわね! 最後に会ってから二年も経ちましたものね。本当ならわたくしからリエナさんを訪ねたかったのですけど」

「いい。クレアは頑張ってる。それに、手紙もくれてた」

「ふふ。わたくしもリエナさんからのお手紙、楽しみにしてましたのよ。でも、最近はお返事が遅いなって心配してましたわ」

「ん。ちょっと旅してた」

「ええ。ええ。お父様から聞いてますわ。王都で色々と会ったそうですわね。ルネを守ってあげたのだとか。ルネさんはお元気でした? ああ、本当に懐かしいですわね。まるで学園時代に戻ったようですわ。あら、わたくしったらこんなところで話しこんじゃっていけませんわね。すぐに部屋を……」


 口を挟む間もなく話し始める二人を眺めていると、不意にクレアの視線が僕に向く。

 目を丸くして息を飲んだ。やはり、リエナと一緒にいると一発で見破られるなあ。


「やあ。クレア、久しぶ……」

「リエナさん!」


 先程よりも深い驚愕に囚われたのはわずか。

 素早くリエナの肩を掴んで、僕から距離を取る。


「まさか、こんなところに出てくるなんて……。目的はなにかしら?」

「え?」


 既にその手にはバインダーが握られていて、タクトのような杖を突きつけてくる。

 肩を抱きしめられたリエナは首を傾げて、厳しい表情のクレアを不思議そうに見ていた。

 僕も茫然とするしかない。


「シズを騙ってブランの人々を扇動するばかりか、リエナさんまで騙すなんて許せませんわ! リエナさんがどれだけシズの帰りを信じて待っているか知りもしないで!」


 あ、僕が偽者だって思われてる?

 ブランで実際に偽者を見たとか? 確かにこのタイミングで僕が現れたら偽者と勘違いしてしまうかもしれない。

 しかも、リエナを騙していたという冤罪までおまけつき。

 リラに続いてクレアもか。


「あー、クレア? 本物なんだけど、どういえば信じてもらえるのか……」

「白々しい! かわいそうに、リエナさん。騙されてはいけませんわ。シズの偽者がいますのよ。新たな国を建国するなんて言って、ブランで騒いでいますの。きっと、リエナさんを利用するつもりですわ!」


 建国って。偽者の奴、そんなことしようとしているのか。

 確かに始祖のネームバリューならついてくる人間も多いだろう。自衛の武力も完璧だ。

 後は領土さえ確保してしまえば夢物語じゃないところが煩わしい。

 図らずも偽者の目的がひとつ判明したけど、今は誤解を解く方が先決だ。

 とはいえ、僕がどんなに言葉を重ねても疑いを晴らすのは難しい。なにせ、最も確実な証明になる始祖の能力行使はできないのだから。

 ここはリエナに頼もうとアイコンタクト。


「ん。クレア、このシズは本物」

「リエナさん。寂しいのはわかりますが……」

「大丈夫。わたしは絶対にシズのことだけは間違えないから」


 それきりじっとクレアの目を見つめるリエナ。

 視線を交わすこと数秒。クレアが僕の方を窺ってくる。見られてもやっぱり証拠なんて提示できないから苦笑いするぐらいしかない。


「……確かに、偽者はもっと堂々としていましたわね」


 なんだか、偽者の方がかっこいいという情報が増えていくな。

 どんな始祖を演じているんだろう。


「本当に、シズ、なんですの?」

「あー、うん。心配させてゴメン。なんとか戻ってきたよ」


 信じてもらえるだろうか。

 クレアは杖とバインダーを収めて、つかつかと歩み寄ってくる。


「間違えてしまって、すいませんでしたわ」

「いや、僕もタイミングが悪かったし、気にしてないよ」

「ありがとうございますわ。それはそれとして。シズ、歯を食いしばりなさい」

「へ?」


 思いっきり平手打ちをくらった。

 手首のスナップの効いた、いいやつだったよ。これは頬に見事な紅葉ができたな。

 というか忠告を聞かずに呆けていたから口の中を切った。


「シズ! 三年もリエナさんを待たせて、何をしていますの! リエナさんがどれだけ辛い思いをしたかわかってます!?」

「は、はい。それについては、たいへん申し訳なく」

「もちろん、シズにも事情があったとは思いますが、だからといって許されるなんて思うのは間違いですわよ? こんなこと部外者のわたくしが言うことではないとわかっていますが、お節介は承知で言わせてもらいます。シズ、しっかりなさいな!」

「はい……」

「はっきり返事なさいな!」

「はいっ!」


 お説教タイムになってしまった。

 クレアの言うことは尤もなので反論のしようがない。

 特にリエナは本当につらかったりしても僕に言わないから、こうしてクレアが指摘してくれるのは助かる。

 クレアがこう言うのだから、きっと手紙のやり取りの中でリエナも相談したりしていたのだろう。

 知らず、リエナに甘えてしまっている部分を意識できた。

 五分近いお説教の後、不意に手を握り締められる。

 俯きがちだった視線を上げればクレアが優しく微笑んでいた。


「でも、シズにまた会えて嬉しいですわ」

「クレアはあまり驚かないね」

「信じていましたもの。帰ってくると」

「……改めて、ただいま」


 笑い合って、ようやく周囲の注目を集めていたことに気づく。

 顔を見られたわけではないけど、名前を何度も呼ばれたりしていたので、あまり長居しているのは良くなさそうだ。

 正体を隠したいというのもあるけど、今は偽者のことがあるから尚更だ。


「わたくしも色々とお話ししたいことがありますわ。とりあえず、中に行きましょう。すぐに部屋を用意させますわ」

「ごめん、助かる」

「いいえ。お二人には是非ともご相談したいことがありますの。来てくれたというのに一方的に頼ってしまうのは申し訳ないのですが」


 相談。

 やはり、偽者のことだろうか。

 それならこちらから聞きたいことだけど。


「お父様もすぐに呼びますわ」

「レイナードさん? ここに来てるの?」


 てっきり王都にいると思っていた。


「ええ。相談したいことというのが軍の不始末でして」


 表情を暗くするクレア。

 なんだか、嫌な予感がする。

 クレアは声をひそめて何があったか教えてくれた。


「実はシズから託された合成魔法のバインダーが一冊、盗まれてしまいましたの」


 それって、100倍の魔力凝縮を施した合成魔法のバインダー?

 核爆弾の制御を奪われた基地司令はきっとこんな気持ちなんだろうなと思ってしまった。

頭痛はバファりんのおかげでなんとかなりました。

バファりんの半分は優しさで出来ています。

残りの半分はツンです。

そう、バファりんはツンデレなんですよ!


「なによ、頭が痛いとか情けないわね!」

「ちゃんと体調管理できてないからでしょ!」

「社会人の自覚ないんじゃない!?」

「仕方ないわね。ほら、寝てなさいよ」

「違うわよ。そこじゃなくて、ここ。膝ぐらい貸してあげるわよ」

「早く良くならないと許さないんだからね」


みたいな。

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