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魔法書を作る人  作者: いくさや
少年編
16/238

番外1 耳のきもち

学園編を期待していた方、申し訳ありません。

番外編になります。

他の人から見たシズ君をご覧ください。

 番外1


 わたしの頭の上には耳がある。

 ふつうの人は頭の横。

 わたしの耳はピンってとがっていて、毛もふさふさで、よく聞こえるんだけど、ぴくぴく動いておちつかない。

 あと、聞きたくないことも聞こえる。

 わたしは父さんと母さんの子供じゃないって。

 このことを話すと母さんは泣きそうな顔になる。だから、もう言わない。

 わたしが外に出るといやなことばかり聞こえる気がしたからいつもはおうちにいる。

 わたしのおじいさんは村長っていって、おうちにはたくさん本がある。

 お気に入りはいろんなどうぶつの本。ずかんって言うんだって。

 見たことも聞いたこともない生き物がいっぱいでおもしろい。

 でも、本当はお外で走ったりするのが好き。

 つかれるけど、むねがドキドキして、息があつくなって、耳もビンビンになる。

 お日さまが出てると他の人がいるから夜にないしょで外に行くの。

 みんな夜はよく見えないっていうけどわたしはちゃんと見えるもの。お月さまが出てればだけど。

 それがわたしの1日。

 しずかで、つまんない、いつものこと。


「リエナ、来なさい」


 ある日、おじいさんにつれられて外に行った。

 お昼に外へ行くときはローブを着ていく。しっぽはズボンの下に入れて、耳はフードでかくすの。

 おじいさんはわたしの手を引いて歩いていく。

 村の人と会うとおじいさんはあいさつされている。わたしはとなりでぎゅっとおじいさんの手をにぎってうつむいた。

 たまに声をかけられるけど、首をふるぐらいしかできない。

 もうずっとおうちで父さんと母さんとおじいさんとしか話してないから、他の人とどうやって話せばいいのかわからなかった。

 やっぱり、外はこわい。

 おじいさんはどこかのおうちの前で止まった。


「リエナ、ここにいなさい。少し待って、帰りたくなったら帰っていいからね」

「?」


 おじいさんはおうちの方にもどっちゃった。

 ここになにがあるんだろう?

 ふしぎに思っていると、だれかが走ってきた。だれにも会いたくないからおうちの横にかくれた。

 走ってきたのはわたしと同じぐらいのとしの男の子だった。

 金色のかみと青い目。村の人と同じふつうの子供。でも、あんまりひやけしてない。外であそばないのかな?

 でも、いま走ってた。おいかけっこ?ひとりで?じゃあ、かけっこ?ひとりで?

 なんだか、他の子とちがう。


「しょうがくせいは最高だぜ!」


 びっくりして影から出ちゃった。

 草をふんだ音で男の子が振り返った。

 おどろいてる?こまってる?

 しょうがくせいってなんだろ?

 ふしぎ。なんか、変。

 男の子はなにか話しかけてくるけど、それよりひとりで色んな顔をしているのがおもしろい。

 へんじをしなかったから、男の子がだまっちゃった。


「ねえ」

「ぶつぶつ」

「ねえ」

「ぶつぶつ」


 顔が赤くなったり青くなったりおもしろい。

 でも、しらんっぷりはひどい。だから。男の子の手をひっぱった。


「な、ななにゃに?」


 変な声。

 あと顔がおもしろい。目があちこち動いてる。

 なんで遠くのほうを見てるんだろ?なにかあるの?……ないよ?


 男の子は魔法使いのとっくんをしてるんだって教えてくれた。

 魔法使いって長老さんみたいな人だよね。この子は長老さんになりたいのかな?

 おもしろいってほんとかな?

 また顔の色がおかしくなってるから、ちょっとぬれてる男の子の手をひっぱった。


「わたしも、やる」


 男の子はすごかった。

 ついてこれるか?なんて言うからぜったい負けないって思ったのに勝てなかった。

 わたしは昔から足が速くて子供の中だと1番だったのに。とちゅうからどんどん速くなってぬけなかった。

 男の子はさいごに石につまずいて転んじゃって痛そうだったけど。

 鼻があるか心配してたから教えてあげたら安心してた。

 けがしちゃったから今日のとっくんは終わりかな。今日は帰ろう。


 次の日も負けちゃった。

 朝、会った時はおどろいたり、あわてたり、くやしそうにしたり、ニヤニヤしたり、まっしろになったり、まじめになったり、色んな顔をしてたけど、走ったらすごいのも昨日と同じだった。

 ちょっとだけ先に行けたと思ったのにすぐにぬかれて、がんばって走ったのに追いつけなかった。

 わたしより足が速い子がいるなんて知らなかった。


 お昼は過ぎたけど今日は転ばなかったから続きができる。

 男の子はおうちに入れてくれた。なんかすごいソワソワしてたけど、おうちの中にいたお姉さんがどこかに走っていっちゃうのを見たら落ちついたみたい。

 どこに行っちゃたんだろうね?

 まりょくのとっくんはダメダメだった。

 すぐに赤いのが消えちゃう。

 男の子はすごい。ずっとずっと赤いままで消えないんだもん。でも、大変みたい。すごいくるしそうにしてた。あと字がへたっぴ。

 男の子はお昼寝してしまった。お休みの時間みたい。

 あんなにいっぱい変な顔をしてたのに、ねてるときはしずかだった。ちょっとほっぺとかおでことか、はなのてっぺんとかさわったのに起きない。


 わたしはねむくなかったから男の子が起きるのをまっていた。

 そういえば他のおうちに入ったの初めてだ。

 さっきのお姉さんはまだ帰ってこないみたい。

 のど、かわいたな。

 ちょっと水もらっちゃおう。

 だいどころかな?あ、この中だ。


「届かない」


 しかたないから思いっきって跳びついた。

 きゃあ!たおれちゃった!水お水!あ、あ、ああ……びしょびしょ。

 耳がしょぼんとしちゃった。失敗。おうちの水が入ったつぼなら大丈夫なのに。

 がんばってたおれちゃったつぼを元に戻した。うう。つかれた、でも、なおさないと。

 外にいどがあるんだよね?

 いどは近くにあった、前に母さんがやってたのをまねして水をおけに入れたけど、ちょっとしか持ちあがらなかった。


 すごい大変だった。

 つぼに届かないからとなりのへやにあったいすを使おうとしたら他のいすまでたおしちゃった。そしたらおけもたおれて水をこぼした。

 だいどころにあったよごれた布でふくけど、ぜんぶなくならなかった。

 じゃあ先につぼに水を入れることにしていすをひっぱったらつくえに頭がぶつかって痛かった。

 つくえもたおれちゃった。

 たいへんなことになっちゃった。

 それでもなんとかいすをはこんで、もう一度いどに行って、またもどってきて、ようやくつぼに水を入れられた。

 でも、前に行きすぎたのがダメだった。

 ころん、とつぼに落ちる。

 びっくりして頭の中がまっしろになっちゃった。

 せまい。くらい。つめたい。やだ。

 出れない。どうして?足をバタバタしてみたけど、今度はたおれてくれない。

 こわい。やだ。どうしよう。このままわたし死んじゃうの?耳がぱたんとふせてしまう。

 あ、水が。鼻に入っちゃった。くるしい。手をのばしたら水から出れた。 あ、でもうでがプルプルする。

 あれ。外で声がした?

 あ、なんかけっちゃった。

 なに?足が、足、だれかつかんでる!

 急にひっぱられた。そうしたらくらいのがなくなって、外に出られた。

 苦しくてゴホゴホとしてたら、目の前に男の子がいた。


「よくがんばったね。えらかったよ。もうだいじょうぶだから。安心して」


 わ、わたし助かったんだ。

 この子が助けてくれたんだ。

 よかった。ありがとう。

 あれ?声がうまく出ない。


 なんとかありがとうを言おうと男の子を見た時、気づいた。

 あれ?どこ見てるの?

 わたしの、上?

 そういえば耳が空気にあたってる。フードが取れてる!

 やだ。

 またあの顔をされる。

 変な顔。

 くさい虫を見つけた時みたいな顔。

 嫌な顔。

 この子にあんな顔されたくないって思った。

 それでもなにもないのもこわくて、男の子の顔を見る。

 やっぱり変な顔をしてた。

 でも、男の子の変な顔はすっっごいキラキラした目をしていて、たからものでも見つけたみたいな顔をしていた。


 その後、男の子が大きな声でさけんだりしたからついにげてしまった。

 男の子のおうちをとびだして走る。

 顔があつい。

 むねがぽかぽかする。

 どうしたんだろう?

 わたしも変な顔をしてるのかな?

 なんか、やだ、

 父さんにも母さんにも見られたくない。

 でも、体はこうふんしていて止まらない。


 そうしてわたしはあついのがなくなるまで走りつづけた。

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