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魔法書を作る人  作者: いくさや
テナート編
138/238

110 構成魔法

お待たせしました。

急性腸炎とか……。

2・3日ほど寝込んでいました。

 110


 唐突だけど種族特性の話をしよう。


 そもそも種族特性とは何か。

 様々な種族が持つ固有能力。

 その正体は種族に与えられた限定的な万象の理への権限だ。


 樹妖精は樹木を操る権限。

 猫妖精などの動物系妖精は感知。

 竜は鱗に触れるエネルギーを操作する権限。


 そんな中で魔族の種族特性は多岐にわたりすぎている。

 魔物の種別の豊富さもさるものながら、その種族ごとに違うという特性。

 明らかに僕たちの世界の理から外れた規格。


 となれば、その恩恵はどこからやってくるのか。


「え、ええ。どどどこか知らない、滅んで、な、なくなったいい異世界の、万象の理。そそ、それが、テナートにあるの」


 万象の理がこの世界だけのものとは限らない。

 他の世界にもあるのだろう。

 異世界の存在自体を僕が疑うわけがない。

 他でもない僕自身が異世界から訪れた存在なのだから。


 問題はその異世界が既に滅んでいること。

 滅亡の理由はわからないし問題ではない。

 ただ、その世界が諾と滅びを受け入れられずにこの世界に寄生していることが問題だった。


 ひとつの世界にふたつの理は有り得ない。

 当たり前だ。全く別ルールの法則が同時発生なんてすれば世界そのものが割れかねない。重なる部分、似通った部分はいい。だけど、反発すれば何が起きるか想像もできなかった。


 ふたつの理が主導権を争えばどうなるか。

 当然、元の理が優勢になる。

 今までその常識で成立していたのだから。

 この世界に根づいているものだ。馴染み方が違う。


 不利を知った異世界の理は強硬手段に出た。

 この世界が自分たちに馴染まないのなら、馴染むように作り変えればいい、と。

 己の内側にある情報――おそらく絶滅した知的生命体の魂とでも呼ぶべきものをこの世界に送り込んだ。

 最初はうまくいかなかっただろう。

 それが回数をこなしていくうちに段々と上達し始め、効率的に情報の強制送信――憑依とでも呼ぶべきか――が成功し始める。


「そして、魔物が生まれた」


 異世界の魂に体を奪われた生物は、この世界の理から外れてあちらの世界の理に基づいて存在するようになる。

 多くの種族特性を有するのは単純に手駒の違いだろう。

 なにせ世界ひとつ分の知的生命体の情報量だ。才能が不足することはあるまい。


「ま、魔物が、魔族が、かか、数を増やすと、そそそれだけ、あちらの領域が、ひひ、広くなるわ。テナートは、ももう、か完全にあっちに、なっているわ。だだ、だから、こちらの、生物は、あそこで、い生きていられない。いい、生きるには、あああっちの理に、しし、従わないと、ダメ」


 それが頭痛の正体。

 異世界の法則に常識がねじれ曲がるのだろう。

 そうして意識が弱くなり、抵抗が低くなったところに、異世界の魂が植え付けられて魔族化するわけか。


「あ、あたしは、そこを、お汚染領域、ってよよ呼んでるわ」


 適確だ。

 他世界の理に浸食されて染まりきった領域。

 つまり、大陸の魔族化。

 おそらく時間経過による自然な浄化は望めないだろう。

 こちらの理で同じだけの時間を費やして戻るかどうか。


「おお、汚染領域は、すすす少しずつ。広がってる。も、もう、バジスも、ああ危ない」

「……竜王、か」


 ルインから聞いていた竜王の話を思い出す。

 魔神にさらわれたのではない。

 寿命が尽きかけて意識が薄れた竜王が魔物化したと考えられる。

 汚染領域の範囲が広がり、強化されている証拠だった。

 或いはブランの前線も危ないのかもしれない。


 ルインから竜王の話を聞いていた時の武王とヴェルの反応を思い出す。

 あの2人は何か竜王の豹変に思い当たる節があったのではないか。

 となれば魔族化の経験があるかもしれない。人間たちの最前線で戦い続けるブランでなら前例があっても不思議ではない。

 僕たちに話さなかったのは箝口令を敷いていたからか。さすがに事が大きすぎて明確な根拠もなく軽々と口にできることではないからね。


「……嫌だな。人が魔族になるのもあるのか」


 万象の理の記録を辿っていくとブラン兵からの実例が出てくる。

 それなりの数だ。魔王や魔神になった例もある。

 ああ。ソプラウトで戦った4種魔神に含まれていた人の形跡はこれだったのか。

 記録には過去の武王まで含まれている。別に根拠があるわけじゃないけど、武王の因縁の相手もこのあたりなのかもしれない。


「じ、じじ、時間がないの」

「猶予まで1日?なに、それ」


 圧倒的に時間が足りない。

 第6始祖が焦るのも理解できた。

 ていうか、そんなに時間が無いなら無駄に冗談を挟むな。


「1000年も戦力をため込んでいたのは浸食に合わせた大攻勢でも仕掛けるつもりだったんだな」


 魔族化した人間――ブランでは魔人と呼んでいるのか――が増えたことで戦略的な作戦が増えたんだな。


 万象の理。

 ここだと知ろうと願えば知識を求めれば勝手に記録を知ることができる。

 世界の誕生から刻み続けてきた膨大な記録の集積所でもある。


「だ、だから、あああなたが、資格を、み、満たした時は、うう嬉しかったわ。も、もう、だだダメだって思ってた」

「それだ。結局、質問に答えてないじゃないか」


 第6始祖がどうして、どうやって、僕をここに呼んだのか。

 映像を見てもこの世界の歴史と魔族の正体がわかっただけで最初の質問の答えが出ていない。


「そそそんなの枕にき、決まってるじゃない。だ、だから、童貞はがっつい」

「今すぐ消えたくなかったら冗談は程々にしてよ?」


 時間ないだろ?

 透き通った笑顔で穏やかに忠告したら快く話してくれた。


「あ、あたしは、ここここに来て、し、真実を知って、いい異世界の理を、ど、どうにかしようと思って、ああ、新しく、まま魔法を、作って、そして、も模造魔法にも、る、ルールを加えたの」


 新しい魔法というのは僕の構成魔法のことだ。

 合成と崩壊を操る魔法。それは知っている。僕の魔法がこいつによって生み出されたものというのは色々と思うことがあるけど、今は流そう。

 だから、模造魔法の知識を検索する。


 始祖の作り出した魔法を記録した原書を再現することで万象の理に擬似的な接続を行う技術。

 万象の理に召喚する資格の確認及び、実行手段。


 後者が新しく加えられた部分か。

 新しい始祖ね。つまり、僕か。

 僕は知らずの内にその資格を満たしていたらしい。

 ここに来た時の光景を思い出す。


 魔力量――僕が満たせない量なら誰にも無理だ。

 独自術式――構成魔法のことだな。

 第1禁忌への知的接触――魔力が人造という疑いを持ったこと、かな。


 どれも心当たりがあった。


 つまり、世界の謎に気付いた始祖を召喚するための魔法。

 資格を満たすと全てのバインダーにあらかじめ仕込まれた根源術式が、持ち主自身の魔力によって強制発動されるわけだ。


「せ、1000年、あれば、つつ次の、始祖もうう、生まれるって、お思っていたのに、ぜんぜん、いいいなくて、どど、どうしようかと、お、思ったわ」


 第7始祖についても調べる。

 世間一般では師匠がそうだと思われているけど、実際は僕のことだ。


 構成魔法の担い手。

 初代始祖の死後、空座となった万象の理への接続権を全て受け継ぐ者。

 一定量以上の魔力で、新規の術式を描き、自らが始祖であることを自覚することで段階的に権限を得ていく。


 5人分の権限。

 なるほど。それなら初代始祖との火力差も頷ける。

 僕は単純に5倍の出力を持っているわけだ。

 はっきり言って構成魔法は他の魔法よりかなり高度な領域にある。それほどの権限がなければ稼働させることが難しいのだろう。


「……いや、待て。万象の理に干渉するのには、奇跡を得るには代償がいるはず」

「そそ、そうね。構成魔法は、ち、ちょっと大変だったわ」

「あんたの存在が消えたのはそのせいか」


 世界の構成を弄る魔法なんてデタラメだ。

 存在そのものどころか、その痕跡が犠牲になっても不思議ではなかった。


「そ、そのせいで、色々と、じ情報が、ああ、穴抜けになっちゃったのは、こ、困ったわ」


 残らなければおかしい様々な情報が不自然に失われてしまったのはそのせいか。

 1000年前の始祖の成り立ちや、模造魔法の真実、魔族の特性など、その全てに第6始祖は関っていた。

 後から失われたことで形骸だけが残ったのか。


 それでも始祖たちが彼女の面影を失わなかったのは万象の理への権限を持っていたためか。

 友人を想う心が起こした奇跡と考えるのは夢想が過ぎるか。


 ただ、実際に走り書きを見た者としては後者を推したい。

 気持ちがなければ、彼女を想って殴ってほしいなんて書かない。

あれは、頼ってほしかったのだと伝えてくれというメッセージだ。

 友人として彼女が自分を犠牲にすると知っていた始祖たちが、何もできなかった悔しさを込めた祈りだ。


 色々と納得していると第6始祖が居住まいを正した。

 今までの引きつった人馴れしていない歪な笑みではなく、真剣な顔で僕を見つめてくる。


「お願いがあるの」

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