109 魔力
109
魔族は滅ぼせない?
今の映像を見るに倒すだけなら始祖にはできた。
僕にだって可能だろう。初代始祖より火力に勝る僕なら1人でもできる。
でも、根絶することはできなかった。
1000年前に実証されてしまっている。
『あたしはまた考えた。魔族はなんなのかと』
テナート大陸を拡大した地図に切り替わる。
白地図が同心円状に色分けされたものに加えて2色の点が置かれていく。おそらく魔物の分布図。点は魔王と魔神の目撃場所か?
他にも魔物の解剖図や系統樹の研究など。
中には世界各地の伝承からの類推などまで含まれている。
かなり多角的に調査したことが伺えた。
『そして、エレ君が発見してくれた。ただの動物が魔物に変わる光景を』
エレ君?ああ、エレメンタルのことかな。
動物が魔物となるのは不思議ではない。
どんな魔物も元となった生物の痕跡があるのは見ればわかることだ。それぞれの種族特性も関連づいたものだし。
アニメやゲームなら魔力の有無とかで変わるのだろうけど、この世界の魔力持ちは魔族ではなくて人間だ。
となれば、生物を魔物にする要因とは何か。
『なにかの影響を受けて生物は魔物になる。おそらくテナート大陸で受ける頭痛もそれのせいだと推察できた。だから、始祖たちはテナート大陸に近づかないように指示を出したわ』
あ、その辺りは現代に伝わってない。
かなり重要事項なのに1000年で忘れるものなのか?
魔族殲滅にしても不自然に情報が途切れてしまっている印象がある。
『この時点ではあたしもその何かを特定することはできなかったわ。わかるのはいくつか』
魔物の分布図が浮き上がる。
『魔物化の原因はテナートの中心』
綺麗な同心円だからその推察は正しいだろう。
魔物化の影響でそこを調べることができないのは痛恨事だけど。
『影響力は距離に反比例する』
これも前述の図から予想できる。
『魔物化は物理的な接触を必要としない』
むしろ目に見えるものなら助かったのに。
躱すなり防ぐなりできるから。
細菌などで見えないだけの可能性もあるから決めつけは危険だけど。
テナートに近づくと起きるという頭痛のことを合わせて考えれば音波とか精神波的なイメージになるのは理解できる。ミスリードでないことを祈ろう。
『魔族化の影響力は少しずつ強くなっている』
最初は問題なく進めたテナート大陸に入れなくなったのだから当然だ。
範囲と強度が増しているのはわかる。
『問題は魔族が時間経過と共に勢力を戻して、他の大陸まで侵略していくこと。始祖がいる間はいいけど、始祖だって魔法を使う以外はただの人間だから。いずれ寿命が尽きる』
それは、そうだ。
1度は魔族を殲滅したのだって始祖の功績。
その始祖がいなくなり、再び魔族が数を増やせばどうなるのか。
想像するのは容易い。
『だから、あたしは模造魔法を作った』
おい、またさらりと。
第6始祖の魔法が模造魔法?
模造魔法は始祖の使っていた原書を再現するために作られた技術じゃないのか?
いや、始祖が原書なしでも魔法を使えるのは僕自身が証明しているから、原書の存在そのものが誤りか。
あれ?今さらな疑問だけど、原書ってなんのためにあるの?
だって、始祖には必要ないじゃん。
必要ない物をどうしてわざわざ作る?
完全に模造魔法のための代物になってるよ。
原書再現のための模造魔法じゃなくて。
模造魔法のための原書作成みたいな。
前提が崩れた。
これもおかしい。1000年という年月は確かに様々な真実を歪めてしまう長さだけど、ここまで重要な事柄を変節させてしまうわけがない。
1000年過ぎても変わらないものだってある。
『始祖がいなくなった後も負けないように。始祖だけの魔法を他の人にも使えるようにするために』
確かに劣化は激しくとも魔法の恩恵は計り知れない。模造魔法がなければ人間は1000年間も侵略から生き延びれなかっただろう。
『問題はそのための燃料』
そう。
まだ人間に魔力はなかったのだ。
模造魔法のシステムはいい。
5人の始祖が万象の理に刻んだ魔法の劣化コピー。
既に万象の理へのプロセスは始祖たちによって為されている。既存の使い回しと聞くとイメージが悪いけど、万象の理を扱うに際しては効率がよくなっているぐらいだ。
だけど、魔力がなければノートに書いた落書きにすぎない。
魔法として成立させるためのエネルギーが必要になる。
始祖の権限と替わる何かが。
その魔力をどうやって生み出した?
『そして、あたしはあたしを代償に魔力を生み出すことにした』
ああ。
こいつは言っていた。
何かを得れば同じだけの何かを失う
万象の理、到達者の全てを魔力に変換した?
当たり前に使っていた魔力。
それはこいつの犠牲の上に生み出されていた?
おかげで人類は1000年の延命に成功した。
強制されたわけでもなく、自主的な行動だった。
誰が責められることではない。
こいつを含めてだ。
むしろ、褒め称えられるべき偉業なのかもしれない。
だけど、それを始祖たちはどう思っただろうか。
こんな残念喪女を友達と思っていた幼馴染たちは。
1人で決めて、1人でやってしまったこいつを。
そんなふうに決めさせてしまった自分たちを。
始祖を生み出した時と同じ笑みを浮かべる第6始祖。
まるで自分が代償となったことを後悔するでもなく、僕に苦々しい思いをさせてしまったことを申し訳なく思っているような彼女。
ああ、ぶん殴ってくれという気持ちはよく分かった。
「任せろ」
「ななななんで、こ、こっちを見て、笑ってるの!?も、もしかし、これ、これがししし、視姦なの!?ああ、あたしの時代、きききちゃった!?」
永遠にこねえよ。
新たな衝動が生まれたけど、それも込めて任せておけ。
そうしている間に映像は終わりを迎える。
始祖たちがそれぞれの死を迎えて、ご丁寧にエンディングロールまで流れ始める。
いや、名前のところは全部が第6始祖の一択だけど。
無駄に荘厳な音楽を用意しているのが苛立たしい。
ともあれ、まずは優先するべきことがある。
「いくつか聞いてもいい?」
「え、ええ。どどどどうぞ」
ナレーションの後にこの噛みっぷりを見ると何故か聞いている方が情けない気分になってしまう。
いっそのこと箱にでも詰めてやろうか。
「人によって魔力の容量が違うのは?」
「たた、単純に、あ、あたしとの、しし、親和性よ。なな、なんで落ち込むの!?」
だって、世界で1番魔力の高い僕こそがこの喪女と親和性が高いとか。
なんて残酷な真実なんだ。
聞かなければよかった。
「……魔力を生んだから忘れられたの?」
「ちち、違うわ。だ、だって、そこで、忘れちゃったら、み、皆が、げげ原書を作ってくれないじゃない。こ、ここにいるのは、そそそのせいだけど」
やっぱり原書は模造魔法のために書かれたものだったか。
しかし、この段階では第6始祖の存在は消えていなかった?
それはつまり、まだこいつが何かを生み出したということだ。
体の自由を失い、体そのものを失い、存在さえも犠牲にしてまで何を生み出した?
いや、それより先に聞いておこう。
「魔族の正体は?1000年前の時点ではわからなかったと言っていただろ。じゃあ、それは今ならわかっているってことなんじゃないのか?」
なによりここは万象の理。
この世界の全てを司る場所。
調べようとしてわからないことなどあるはずがない。
「え、ええ。わわかっているわ。ままま、魔族の正体、そそれは。ななんと!おおお驚くべきことに!」
「異世界の理」
勿体つけてうざかったので答えを先回りした。
いや、聞くまでもなく僕だってここにいるのだから調べるなんて簡単だ。
語り役として譲られた途端に調子に乗るのが悪い。
「せいかーい」
がっくりと肩を落とした第6始祖が力なく呟いた。
説明回が続いて申し訳ありません。
執筆に集中できないー。
僕、宝くじが当たったら仕事を辞めるんだ……。




