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魔法書を作る人  作者: いくさや
テナート編
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106 殲滅

 106


 あまりに自分勝手な僕にキレたリエナが攻撃してきたのかと思ったよ。


 『三千世界の終焉』内の物はある程度把握できる。おかげで何かが投げられたと思って振り返れば目の前には高速で飛来する杖。

 真剣白羽どりみたいにキャッチできたのは偶然に近い。

 危なく額を撃ち抜かれるところだった。

 どこのゴ〇ゴだ。


 なんて恨みに思うなんてとんでもない。

 樹妖精の里に置き去りにしてしまった白木の杖を持ってきてくれていたとは。

 やはり、これを手にしていると安心感が違う。

 急いでいたとはいえ所在を確認せずに出発した僕は愚かと言わざるを得ない。


 聞こえないとは思いつつもリエナにお礼を言って、走り始める。



 テナート大陸は外側から消え始めている。

 ただの草木はとっくに消え去り、荒野が広がるだけの光景になっていた。

 地面だけは質量の問題から消失速度が遅い。

 感覚頼りの数字だけど、このペースだと大陸の完全消滅まで10時間ぐらい掛かりそうだ。


 魔族の姿もない。

 魔物では崩壊魔法に抵抗できない。

 魔王であっても消えるまで少しタイムラグがある程度。

 ただの魔神でも長くは持つまい。

 3種以上の魔神だけがようやく生き残れる。

 感知で読み取るにまだそれなりの数がいるようだ。


「片っ端から倒していくのも時間が掛かるか」


 一か所にまとまってくれているなら簡単だったのに。

 いくら100倍強化とはいえ、大陸ひとつとなると回るだけで時間が掛かってしまう。

 初めて知ったけど、テナート大陸って他の大陸より大きいみたいだ。

 兎角、時間がない。

 猶予は半日。


 今のテナート大陸に普通の人間は入ることもできない。

 僕だって崩壊魔法で強引に相殺しているから無事だけど、魔法が終わってしまえばこのままではいられなくなってしまう。

 だけど、半日というタイムリミットは魔法の効果時間ではない。

 汚染がテナートを超えて広がり始めるまでの制限時間だ。


 最終目的地は既に把握している。

 テナート大陸の中心。

 そこに着いたらもう集中するしかないだろうから、邪魔が入らないよう生き残った魔神の撃破から始めるべきか。


 走る最中によろよろと近づいてくる魔神を見つけた。

 既に半死半生の有様だけど、それでも僕に立ち向かってくるとは見上げた根性だ。


「この手は何も掴めない。

 形は解け、影は溶け、大気に霞む。

 荒野に慟哭の涙が落ちる」


 だからといって見逃すわけにはいかない。


「未踏の絶掌」


 すれ違いざまに手刀で袈裟がけに斬り捨てる。

 斜めに両断された魔神は崩れ落ち、そのまま赫い世界に飲まれて消えた。


 もう近くに魔神の生き残りはいないようなので、一気に跳躍する。

 雲を掠めて到着したのはテナートの北部に位置する山の頂上付近。

 山の一部が着地の衝撃で崩れるけど、数時間後には消滅する運命なので細かいことは気にしないでいいだろう。

 本来ならこんなところでなくても魔法は発動できるけど、イメージに視覚という要素は無視できない比重がある。


 ここからなら想像しやすい。


「さくっと全滅させるよ」


 改めて山頂に移動し、白木の杖を刺して支えとする。

 魔法に集中するあまり、強風に流されて転落とかしたくないから。


 感知が曖昧なのでピンポイント狙撃とはいかないけど、大威力で辺り一帯消し飛ばせば結果は一緒だ。

 大威力は精密射撃を兼ねるっていうよね?

 元からテナート大陸は消滅させる算段なので、周辺被害などを考えないでいいから助かる。


「地平に根づくもの。

 天蓋を覆う枝葉。

 生命の祝福。

 其は不倶戴天を前に堕ちる。

 葉は刃。

 枝は矢。

 花は禍。

 幹は艦。

 形は解け、影は溶け、大気に霞む。

 芽吹け、畸形世界樹」


 高山の頭頂から雲を超えるほどの赫い光が立ち昇る。

 光の柱を幹と見立てれば、雲上で拡散する姿はまさに大樹。

 テナートの全天が覆い隠された。

 樹妖精の里の大樹をイメージに生み出された光の樹木は、しかしあのような見る者を魅了するような神々しさは欠片もなく、ひたすらに畏怖を撒き散らす凶悪を宿していた。

 赫い輝きが明滅し、次第に枝葉の先端に集まり始める。

 僕が感知する生き残った魔神の頭上に。

 まるで赫い実が生るように。

 崩壊の果実が落ちる。


「落涙する天網」


 一斉に落ちた。

 赫い果実は地面に触れると同時に膨れ上がる。

 超濃度の消滅空間は生存どころか存在すらも許さない。


 残るのは底も覗けない深度の大穴だけだろう。

 『三千世界の終焉』が感知しうる範囲にもう魔神の気配はなかった。


「魔族殲滅完了」


 人類の長い戦いはこうして終わった。

 完。


(なら簡単だったのにね)


 溜息をもらす。

 これだけ派手にやってようやく前哨戦が終わっただけなのだ。



 以前から疑問があった。

 始祖として自覚した時。

 既存の魔法より桁外れの威力を持つ魔法。

 こんな魔法を使える人間が1000年前には5人もいたのだ。あ、1人は除外で。


 人類を守る?

 そんなの余裕過ぎる。

 軽く魔族を殲滅できるだろ。

 どうして皆殺しにしなかった?


 そんな疑問。

 単純に僕が5人いたと考えればわかりやすいか。

 テナート大陸どころか世界を滅ぼさないか心配しないといけないレベル。


(まあ、そこは僕も誤解していたんだけど)


 ともかく、5人も始祖がいて魔族を殲滅させられないわけがないのだ。

 それが僕にテナートへ突撃する迷いになった。

 何かあるのではないか、と。


(さて、第6始祖との約束を果たしに行くか)


 白木の杖を抜いて、跳躍ひとつでテナートの中心へ向かった。

 そのわずかな時間で思い出すのは第6始祖のこと。

 強制転移の後のこと。



 樹妖精の里から得体の知れない空間に放り出された僕を待っていたのは第6始祖と呼ばれていた誰かだった。

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