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魔法書を作る人  作者: いくさや
バジス編
131/238

断章13 頭痛

 断章13


 テナート地峡。

 バジスとテナートの中間地点。

 わたしたちはそこで足止めされてる。


 テナートの制圧は進んだ。

 竜の隠れ里には竜たちが戻って、空から襲われないように警戒している。

 大陸の各地に潜んでいた魔族はリラが見つけて、ブランの兵隊さんと一緒に倒してきた。

 もうただの魔物しかいない。


 ブランの原書を持ってる人。

 ミラやリラに、センさんとか樹妖精のほとんど。

 セズおじいさんたち。

 そして、わたし。


 武王がいなくなっちゃったのはしっぽがきゅってしちゃうけど、そういうのは武王も好きじゃないってヴェルが言ってた。

 だから、きゅってなるぶんは頑張って動く。


 ルインは空を守っているからいない。

 止めないとずっと戦い続けるってヴェルが困っていた。


 とにかく、ここにはいっぱい強い人がいる。

 シズ程じゃないけど。でも、すごい強い。


 なのに、前に進めない。

 もう3日も。

 変。

 絶対に変。


 夜。

 外はうるさい。

 戦いの音がしているから。


 篝火と月の灯りに照らされた地峡。

 今はそこに樹妖精の人たちが頑張って作った獣除けの柵が伸びている。

 すごい長い距離だけど。大きな魔物じゃなきゃ壊せない頑丈な木で、海から反対の海まで繋がった守備の要。


 そのひとつ。

 物見台になっている木を登る。

 柵の向こう側からは魔物が押し寄せてきていた。

 魔王とか魔神はいない。

 だけど、何千という魔物が次々と襲ってくる。

 柵の向こう側でセズおじいさんたちが数を減らして、ここまで辿り着いたのはブラン兵が柵の上から倒す形。


 ブラン兵の中で所在なく立ち尽くしているリラを見つける。


「どう?」

「リエナ。もう出てきたの?あなたほとんど寝てないでしょ」


 心配そうに怒ってくるリラ。

 でも、最近はちゃんと寝れないからいい。


「ん。大丈夫」

「大丈夫なわけないじゃない。あんなに戦っているのに全然休めてないんだから」

「へいき。それより、どう?」

「……ダメ。やっぱり見えないわ」


 リラが首を振った。

 ずっとテナートの様子を探ろうとしているみたいだけど、何も伝わってこないんだって。

 植物がないなんておかしい。

 でも、わからない。

 これだけの魔物が押し寄せてくる理由がわからない。


「魔物の数が異常よ。もう何十万と倒してるはずなのに!」


 涙目のリラ。

 そう。変な理由のひとつ。

 魔物がすごい数。


 まとめてきてくれたら簡単なのに、数千ぐらいの数の集団が次々にやってくるから進めなくなっちゃった。


「それに頭が痛くなるし!」


 変な理由、そのに。

 様子を見ようとわたしが先に行ったけど、少し進んだだけで頭が痛くなっちゃった。

 走るなんてできなくて、慌ててここまで戻ってきた。

 ここら辺だとわたしはたまに頭が痛くなるぐらいだけど、リラも同じみたい。他の人は何もないみたいだから不思議。


 そうして、3日も同じところにいることになっちゃった。

 もう昨日から皆、あまり休んでもいない。

 仮眠から起きたら戦って、食事をしたら仮眠して戦っての繰り返し。


 外の魔物たちを倒しきったセズおじいさんたちが戻ってきた

 樹妖精の人が木を操作して出入り口を作る。

 おじいさんたちと交代でブランの人たちが外に出ていった。


「南西!魔物の集団よ!……ミラ、聞こえる?東の柵が壊されそう。すぐに向かって!」


 テナートはわからなくても近くは何とかなるみたい。

 リラの警告にブランの兵隊さんが頼もしい声を上げて走り始める。

 ミラやセンさんが指揮している樹妖精の人たちは柵の防衛と修繕であちこちを走り回っていた。


 柵の中では馬から下りたおじいさんたちが座り込んでしまっていた。

 わたしは物見台の上から飛び降りる。


「……だいじょうぶ?」

「まだまだ、と言いたいところだがの」


 鼻先を寄せてくる馬の首を撫でながら、セズおじいさんが苦笑する。

 いつも元気な顔にも疲れが見えた。


「すまんが、誰か魔造紙の素材を持ってきてくれ」


 セズおじいさんが声をかけると若いブランの人が走って持ってきてくれた。

 倒した魔物から手に入る素材はたくさんある。

 それを使って魔造紙を補充するの。

 わたしも作ってる。回復と雷の属性魔法ばかりだけど。

 ブランの人はあまりうまく作れないみたい。


「もう少し休んでもいいと思う」

「そうしたいところではあるが、シズの魔造紙も残り少なくなっておる。仕方あるまい」


 5000枚もあった魔造紙だけど、ここまでの激戦で消耗していた。

 対処しきれない数の魔物が来たら使ってしまう。

 柵が壊されたら修理までの間、結界を使ってしまう。

 重傷の人が増えてきたから魔人化させないためにも回復魔法を使ってしまう。


 連戦続きに睡眠不足。

 ミスも増えてきてる。

 自分たちの魔造紙でどうにかできるなら温存しないとダメ。


 もうセズおじいさんは筆に魔力を込めて術式を書き始めていた。

 邪魔しちゃいけないからちょっと離れる。

 おじいさんたちは少し具合が悪そう。

 わたしがこっちに来る前から戦い続けてるんだから当たり前。


 皆、疲れてる。

 わたしもちょっとフラフラ。

 足の奥が重い。骨が鉄の棒になったみたい。

 イメージしたように体が動かせなくて戸惑うことが増えた。

 時々、変な耳鳴りもする。


「でも、頑張らないと」


 声に出しながらも改めて思う。

 シズがいたらって。

 シズならどんな魔物も魔神も相手じゃない。


 だけど、シズはいない。

 まだ、帰ってこない。


 だから、わたしが頑張る。

 シズがするはずだったことは全部わたしがやってしまう。

 それならシズが戻ってきた時に後悔したりしないよね。

 『僕がいれば』なんて落ち込んだりしないよね?


「ん」


 後ろ。

 バジスの方から何かが来てる?

 大きい。そこそこ速い。

 それに知っている感じがする。

 疲れてるせいか調子が悪くてちゃんとわからない。


「あっちから何か来てる」


 丁度、魔造紙を完成させたセズおじいさんがわたしの指すを方角を見るけど、普通の人には見えないよね?

 わたしも意識を観察に向ける。


 暗い夜の闇の向こう側。

 月明かりを僅かに反射させる影。

 4足の巨体。


 知っている形。

 耳としっぽが立った。


「5種魔神……」

「なんと!?」


 セズおじいさんたちが土の下に埋めた5種魔神だ。

 全体的に土で汚れて、鱗粉とか粘液はないみたいだけど、鱗とかは前と変わっていない。

 すごい怒ってるみたいで真っ直ぐにこっちに向かってる。


「独力で出れる状態ではなかったはずだが」

「魔物が手伝ったとか?」

「……ないとは言い切れんが、ぬう。窒息もせなんだとは」

「どうするよ?また埋めるのか?」

「難しかろう。同じ手が通じるとは思えん。大人しく待ってくれるはずもなし。なんとか海にでも沈めてみるか」


 頼もしいけど、おじいさんたちの顔色は良くない。

 戻ってきたばかりだし、もうシズの魔造紙も少ないから。

 あの時みたいにはできないかも。


「わたしが戦う」


 1度槍を振って、そのまま返事は待たずに走り始める。

 100倍の強化付与魔法。

 最後の1枚。20倍とか50倍はまだあるけど、100倍のはもうない。

 ここで出し惜しみしてたらいけない。

 あれを止められるのはわたしだけなんだから。


 テントの近くで戦ったら巻き込んでしまう。

 陣地の外まで走るとすぐに魔神が見えた。

 怒涛の勢いで止まる気配が少しもない。このままわたしを跳ね飛ばす気だ。お互いに走っているから接敵までもう数秒。

 バインダーから魔造紙を取り出し、発動させる。


(あれ?)


 体に纏う輝きが淡い。

 赤の閃光に程遠い赤色。

 扱いに困るほどの力も湧いてこない。


 疑問が頭を埋めている間に魔神が来る。

 刻み込まれた習性で自然と体は動いてくれた。

 向かって左下に沈み込みながらの薙ぎ払い。


「…………あ」


 だけど、簡単に吹き飛ばされた。

 ぐるぐる回りながら空中に浮きあがる。

 流れ去る視界の片隅で魔神が強引に足を止めたのが見える。


 足を掴まれた。

 景色が前に向かって走り始める。

 何が起きたのかわからない。

 気が付けばずっと空高くを飛んでいた。

 遅れて投げられたんだと気づく。


 数秒の後、背中から地面に激突した。

 全身がしびれて受け身も取れない。

 ゴロゴロと地面を転がって、たまたま仰向けで倒れた形で止まる。


 見上げた空には月があった。

 そして、月を背に空から降ってくる魔神の姿が見えた。

 まっすぐにわたしに向かう軌道。


 あの巨体で潰されたらどうなるんだろう?

 100倍の強化なら耐えられたかもしれない。

 だけど、今のはダメ。


 わかった。

 使う魔造紙を間違えたんだ。

 これは20倍の。

 馬鹿みたいで、笑っちゃうような、でも致命的な、ミス。

 でも、そんなつまらないことで人は死ぬ。


 あと数秒の時間。

 体はちっとも動いてくれない。

 ザザザと耳鳴りがして、バインダーの魔造紙を発動させる集中力もない。


 誰かが叫んでいる。

 誰かが走っている。

 でも、間に合わないのはみんなわかってる。


 あれこれと色んなことを考えて、どうしようもない瞬間になって、最後に呟いたのは一言だけだった。


「シズ、ごめ――――」

「歯ぁ食いしばれえええっ!!!」


 聞きなれた声。

 意味のわからない台詞と一緒に何かが突っ込んだ。


 5種魔神のおなかに・・・・

 両足を揃えたきれいな飛び蹴りが突き刺さった。


(おなか、がら空き……)


 横からの不意打ちに魔神が水切り石みたいにふっとんでいった。

 5種魔神ごと吹き飛んでいった何かが、すぐにひと跳びでわたしの近くに着地した。


「あ……」


 金色の髪の、少し背の低い男の子。

 誰よりも強くて、誰よりも優しくて、誰よりも好きな人。


 今はわたしの知らない服を着ている。

 知っている雰囲気より少し違ってもいる。

 だけど、そんなの関係ない。


(でも、わたしは知ってる)


 耳鳴りで不鮮明だった視界に色が、あらゆる感覚に彩りが戻っていた。

 その感覚が間違いないと伝えてくる。


「シズ!」

お待たせしました。

主人公、唐突に帰還。

そして、いきなりの(物理的に)シリアスブレイク。

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