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魔法書を作る人  作者: いくさや
バジス編
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断章12 年の功

お待たせして申し訳ありません。

新しい職場でもう死にそう。

 断章12


「リエナ、代われ!」


 5種魔神と睨み合うリエナにすれ違いざま叫ぶ。


「年の功に任せんか。リエナは向こうの魔神を各個撃破だ」


 5種魔神が拳を振り下ろしてくる。

 大きなハンマーのような拳。当たれば人も馬も簡単に潰されるだろう。

 体を傾けて、手綱を操ると、馬は進行方向を変えてくれた。良い馬だ。現役時代の愛馬の血統と聞いているが、なるほど。動きにも懐かしさを感じるところがある。

 おかげで辛うじて躱すことができた。

 そのまま後ろも振り返ることなく離れる。


 追撃を仕掛けてくるはずの5種魔神には横手からロイが魔法を仕掛け、注意を引く。

 その間に射程圏内からの離脱を果たせた。


 5種魔神には3人目のガレンが向かっている。

 顔面に放たれた魔法を邪魔そうに払っていた、その背中側。今度は足元の地面が泥みたいにぬかるんで、5種魔神がバランスを崩した。


 ガレンが振り返り様の横薙ぎを掻い潜って、更に背中側から4人目のホークが胴体へ風の槌を叩きつけた。

 直後に水流が正面から5種魔神の腹を襲う。

 5人目のディアを背に、儂は再び5種魔神へと正面から突撃。


 両手による打ち下ろし。

 けれど、精彩を欠いていた。

 ダメージが徹らないとしても度重なる周囲からの攻撃を意識していては攻撃の手も鈍ろう。

 跳ねるように馬を操り、置き土産に顔面へ風の打撃を叩き込む。


 そこからは組み合わせを変えながら連携を続ける。


 四方八方から。

 様々な距離で。角度で。魔法で。

 頭から足元まで。考える時間も与えずに。


 全力で翻弄する。


「……すぐ戻る」


 リエナがようやく決断してあちら側に回った。

 儂らが抜けた分を好機と思ったのか、5体の魔神が襲い掛かっていた。

 残りの連中とブランの原書持ちがうまく対応しているようだが、長くは持つまい。

 だが、リエナが加われば確実に勝てる。


(問題は足止めができるかどうかだな)


 連携の組み合わせはまだまだいくらでもある。

 多少、現役より時間が経っているが、既に血肉となった技能は失われはしない。数十年ぶりの戦場であっても十全に発揮している。


 問題は我々の気力体力であろうか。

 そこらの若造に負けてやる気はないが、いつまでも走り続けられるわけがない。

 単純に体力が尽きることも問題だが、それ以上にひとつのミスで破綻する現状にいくら手練れであっても気力は削られていく。

 儂らでさえその有様なのだから、いくら名馬であっても元より馬は繊細で臆病な生き物だ。この過酷な状況に耐えられなくなる時は近い。


 7度の連携を巡らせたところで動きが遅くなり始めた。

 防御に特化した5種魔神であっても、巨腕からの攻撃は受けることも許さない威力を秘めている。

 直撃こそ避けても散乱する礫で人馬共に細かい傷が増えてきた。

 致命的な失敗が起きるのも時間の問題か。

 5人全員がそれに気づいている。


 いずれ力尽きるとわかりきった時間稼ぎ。

 原書を持たない儂らが5種魔神の動きをしばし封じたのだから殊勲と言えるだろう。

 だが、まだ足りない。

 馬を走らせたまま声を上げる。


「儂らにも準騎士とはいえ仮にも騎士を名乗った矜持があろう!守るべき者に危機を残して逝くなど騎士の名折れ!時を稼ぐというのなら最後の1秒まで守りきるぞ!さあ、奴を躍らせろ!舞い狂わせろ!儂らのダンスに付き合わせるぞ!」


 5種魔神からすれば儂らなど蟻か蠅の程度であろうとも。

 小さき者にも通すべき意地がある。


 気炎を上げる最中、風の刃を連続して叩き込みつつもロイに視線を送る。

 人語を介さぬ魔族であっても声を上げれば悟られるかもしれない。

 連携を回しながらすれ違う度に目で合図を送り合う。


 死地において型通りの戦術など通らない。

 同士討ち回避のためとはいえ魔法名を叫ぶなど遊びが過ぎる。

 歌い上げるなら即興歌だ。


 さあ、歌え。

 魔法を交わせ。

 高音と低音を重ねるように。

 響き合う音を束ねるように。

 存分に声枯れるまで。


 老いぼれと侮るな。

 こちらには孫から託された魔造紙がある。

 20倍の魔力凝縮なる技術で書かれた超威力の魔造紙。


 3枚の魔造紙を同時発動。

 属性魔法『風・轟切・旋解塔』が発動し、巨大な竜巻が魔神を飲み込む。

 互いの竜巻が絡み合うように魔神を取り囲んだ。範囲を広げては意味がないのだ。

 どういう構造をしているのか。魔神は浮かび上がらずに大地に立ち続けていた。おそらく地中深くに根を張るように粘液上の部位を沈めているのだろう。

 5種魔神とその足元の地面を残したまま、周辺の土砂ばかりが巻き上がっていき、遂には巨大な窪地が出来上がってしまった。

 中心の魔神にダメージはない。平然としている。


 だが、それも想定の内。

 ディアが窪地の表面に薄い水の膜が発生させる。

 本来なら身に纏って炎による火傷を防ぐだけの魔法もシズの魔力にかかれば窪地を覆うレベルだ。

 無論、これで5種魔神が殺せるわけもない。


 それでもロイが次の魔法を続けて発動させる。

 属性魔法『光・照灼・焦眼星』という広範囲を光と熱で覆う魔法だ。

 シズの魔力によって直視も叶わぬ光量となっている。

 しかし、降り注ぐ光だけでは5種魔神にダメージは徹らない。


 だが、窪地の水が鏡面となって光を反射する。

 辺りに降り注ぐ光を集める。

 1点へ。

 窪地の中心に。

 莫大な光が高熱を伴い集約される。


 鉄であろうと溶け崩れる超高温。

 1度では終わらせずにホークが連続して発動させるほどの徹底ぶり。

 光と熱による飽和攻撃。


「……それでも効かんのか」


 光が失せた後。

 さらに深くなった窪地の中央。

 溶岩の池と化した大地に魔神は立っていた。


 鱗粉の密度が随分と薄れている。よく見れば粘液の大半が蒸発している。

 20倍の魔造紙による極大魔法。

 それでも5層の内の2層を削ったに過ぎない。


「これは無理かの」

「ああ。無理だな」

「どうすんだ?」

「あれしかねえな」


 4人で最後の1人に視線を集める。

 ガレンは既に魔造紙を空に向かって発動させていた。

 使われたのは難しい魔法ではない。

 属性魔法『土・集重・守獣壁』。

 周囲の土を集めて固めるだけの防御用魔法。

 結果、生み出されたのは……


 巨大な岩塊だった。


 ただ大きいだけの岩。

 小山ほどにも見える土くれ。

 シズの魔力で威力が上がろうとも魔法の性質までは変わらない。

 この魔法では集める量が上がるだけ。

 地上であればそのまま小山のような防壁が出来上がるのだろう。


 本来、この魔法を空に向かって放つのは愚の骨頂。

 しかし、上空には最初の竜巻で巻き上げられた大量の土砂があった。

 それこそ窪地が出来上がってしまうほど大量の土砂が。


 上空で拡散されていたものが1ヶ所に集まればどうなるか。

 答えはこの通りだ。


 無論、この魔法は土の壁を作るだけ。

 空に浮かべるような機能はない。

 重力に従って巨大な岩が落ちてくる。

 真下にいるのは無論、5種魔神。


 逃げようにも足場は溶岩の海で足を取られて、折角の四足も歩みは遅い。


 儂は5人を囲むように防御の結界を発動させる。

 直後、壮絶な追突音と共に魔神が押し潰された。


 衝撃と舞い上がる細かい砂ぼこりが晴れた後には窪地の端と、その中央に出来上がった小山が鎮座するだけだった。

 しんと静まり返った戦場に意地の悪い問いかけを送る。


「さて、防御に特化した魔神に這い出る技能はあるのかの?」


 おそらく装甲を砕けていない。

 あの魔神の堅牢さ。

 工夫で破ることなどできない。

 ならば、工夫するべきは打倒ではなく封縛だ。


 今までの戦いの中で5種魔神は徒手空拳しか使わなんだ。

 自力での脱出は困難を極めるのは間違いない。

 無論、切り札を秘めている可能性は高いが、身動きひとつ難しい土中で己を巻き込まずに放てる類なのか。


「んむ。時間稼ぎできたの」

「あちらも趨勢は決まったな」


 見やればリエナが魔神相手に獅子奮迅の活躍をしていた。

 誰もがこちらに注視していた中で容赦なく魔神を不意打って、1体の首を落とす。

 戦況が一方に傾けばあとは問題なかろう。

 超高速の槍さばきで動きを封じたところに原書使いが全頁解放で確実に1体ずつ倒していく。

 その間は他の連中が魔神の足止め。

 おそらく、足止めの中には死傷者も出ているのだろうがあれだけの敵と戦ったにしては驚くべき結果と言えるだろう。


「そろそろ休憩は終わりだな」


 馬の首を撫でてやると頼もしい嘶きが返ってきた。

 儂らが加われば少しでも犠牲が減るのだから見ている理由はない。


 さて、捨てずに済んだ命。

 次の戦場に行くとするかの。

おじいちゃん、死亡フラグをへし折りました。

倒せないなら土葬。

因縁がないとはいえ哀れな5種魔神。

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