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魔法書を作る人  作者: いくさや
バジス編

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断章11 テナート地峡

昨日、ある方からPVという存在を教えていただきました。

他の作者さんがたまに「〇〇PV達成」と書いていた意味がようやく理解できました。

 断章11


「膠着してもうたな」


 バジス南方。

 テナート地峡。

 一面に広がる草原があった。

 そこには数えようとする気さえ起きなくなるほど大量の魔物が待ち構えていた。

 対して儂らはここまで道なき道を進み、待ち伏せを打ち払い、満足な休みさえ取れない疲労困憊の状況。

 そうして開かれた戦端。


 背後は焦土と化していた。


 草原なんて残っておらん。

 もう土なのか灰なのか炭なのか。

 焼かれ、流され、飛ばされ、潰され、焦がされ、凍りつかされ、貫かれ、飲み込まれ。

 たったの8枚。

 極大魔法でもないただの上級魔法で地形が変わってしまった。

 見渡す限り草木1本残っていない。


 魔物ども?とっくに消し炭になっておるよ。


 ブランでも見たがシズの魔法はすごい。

 確かに凄まじい魔力の成長であったが、まさか始祖にまでなるとは思いもしなかった。

 果たして始祖であったから魔力を得たのか、魔力を持っていたから始祖になり得たのか。シズはその辺りを調べておるようだが、まさか行方知れずになるとは。


「こんなところで足踏みするぐらいならシズを探しに行きたいんだが」

「おいおい。孫が可愛いのはわかったから。戦場で呆けるなよ」


 前を見据えたまま隣のロイが声をかけてくる。


「誰がボケだ。朝飯食ったかもわからんのはお前だろ」

「誰がボケだ。耳遠くなってんじゃねえか。いいのかよ。こんな爺に魔法使わせて。もうバインダー取り上げとけよ」

「別段、バインダーを国に返却するのに異論はないがな。それも全部終わってからだの」

「はああ、若いのが頑張れよな。根性なしばかりかよ」

「うちの孫は始祖だがの!そんじょそこらの若造とは格が違うわ!」

「おま、その若造にうちの孫娘も入れたな!?ふざけんな!うちのトトナは最高だかんな!?儂を見ると転びそうになりながら抱き着いてきて『おじいちゃん大好きー』って言ってくれんだぞ!ありゃ天使にちげえねえ!」

「はん!5年もすりゃ『じじ、臭い』とか言われるというのに。幸せな爺だ」

「うちのトトナを侮辱するか!?お前こそ呼び出されてすぐに旅立たれてもう半年も会ってねえんだろ!」


 あ、やばい。

 死にたくなった。

 魔の森で魔物どもに囲まれ、魔造紙も尽きかけた時より絶望しそう。


 そうなのか。

 シズは儂を避けているのか?

 村では会えるのは学校の時ぐらい。

 王都に呼ばれれば教官役。

 ブランから戻れば儂の居ぬうちに1日で旅立たれ。

 いや、儂の贈った筆を愛用しているではないか!魔の森ではあの筆で命を救われたとも言っておったし、新しい筆は今でも使ってくれている!ヘソクリを使い果たして友に頼んで逸品に仕上げた甲斐があるというものだ!

 ああ。だが、ガレンが言っていた。

 孫にとって祖父母など便利な財布でしかないと。

 まさか、シズもそうなのか?

 儂など便利な筆をくれるうざい爺と思っているのか?


「そんな。シズが、シズが。いや、それでシズが喜んでくれるなら儂は財布でも」

「わりい。言いすぎたみたいだ」

「いや、儂も悪かった。すまん」


 肩を叩いてくるロイと謝り合う。

 そうしているのが隙だとでも思ったのか、1体の魔人が襲い掛かってきた。


 見もせんままロイがバインダーから上級の火属性魔法を放つ。

 それに合わせて儂も上級の風属性魔法で火炎竜巻に仕立て上げた。

 纏わりつく火を払っているためか風に押し戻される。


「ただの極大魔法ではダメージにもならんか」

「少し隙を突いた程度じゃダメだな」


 再びの睨み合い。

 膠着した戦場。


 待ち構えていた魔物は屠った。

 実際のところ、ここまで進軍した速度に対して消耗は少ない。

 不意打ちはリエナが完全に潰した。

 襲撃する魔物を吹き飛ばすため道は勝手にできた。


 途中、武王戦死の報にブラン兵はかなり動揺したが、今は静かな闘志を燃やしている。

 ヴェルという武王の弟の言葉が大きい。


『我々は言われたのだ。頼んだと。しっかりやれと。ブランの兵は人類の守護者。その生き様をあの人は体現した。命を落とす最期の瞬間までだ。我らがその背を追わずになんとする。総員、守護の盾としてあれ』


 声を荒げるわけではない。

 だが、声に込められた熱量は本物だった。

 そういう熱は志ある者には伝播する。


 正直、その場で魔物に向かって突貫という暴走もあり得ると警戒していたが、ブラン兵は暴発することなく着実に戦果を挙げている。

 良い兵だ。

 うちの国の騎士や軍人どもに見習わせたい。


 そうして魔物の第1陣を殲滅させて、進軍したところで今に至る。


 あちらも魔物の数で攻める愚は悟ったのか。

 地峡の半ばで待っていたのは少数精鋭だった。


 5体の魔神。

 ここまではいい。

 良くないが、いい。

 通常であれば絶望的な数字だが、こちらにはまだシズの魔造紙がある。

 とんでもない身体強化の付与魔法を使ったリエナならば1人でも撃破できる。


 問題は魔神を率いる存在。


「ん!」


 リエナの豪槍を平然と受けた。

 衝撃波が爆風のように四方に流れる。

 槍を握り、リエナを捕えようと手を伸ばしてくる。

 その前にいくつもの魔法が敵の顔面を襲い、リエナは拘束が緩んだ一瞬で槍を抜き取った。

 逃すまいと前に出た腕を槍で打ち払い、至近距離から雷の属性魔法を3発同時に放つ。


 雷撃が終わらぬうちにリエナは距離を取る。

 更なる追撃はなかった。


 再び戦場に静けさが戻る。


 魔神を率いるもの。

 粘性を帯びた液体。

 全身を覆う堅牢な鱗。

 その下には丈夫な毛皮。

 多関節を持つ4つ足。

 加えて周囲には鱗粉のような粉。


 5種魔神。


 4種までいたのだから5種もあり得るとは思っておったが。

 ちとこれはきついぞ。


「あのお嬢ちゃんの攻撃が効かないとはな」


 持ちえる種族特性5種の内、4つは守備に関した特性に違いない。

 リエナの槍術がまるで効果がない。

 魔法も同じだ。足止めどころから目くらまし程度。


 性質が悪いことに硬い上に足が速い。

 ブランの原書持ちと協力して5体の魔神を先に倒そうとするとリエナを振り切って守りに戻ってくる。

 まとめてシズ製の魔法をくらわせても5種魔神に防がれる。

 かといって総員で5種を狙えば、魔神たちは後ろの部隊を襲うだろう。

 おまけに魔神の中には原書持ちがいる。趣味の悪いことに回復の下級原書。多少のダメージではすぐに回復されるわけだ。


 そうしてリエナと5種の打ち合いに周囲が援護をしつつ、儂らと魔神の睨み合い。

 膠着状態の出来上がりだ。


(まずいの)


 儂らと魔族の違い。

 魔造紙だ。

 数に限りがある。

 通常の魔造紙であれば倒した魔物を素材に作成することもできるが、魔神を仕留めるに足る威力を持つのはシズのものだけ。

 5000枚という膨大な枚数ではあるが、本当に威力があるものは限られておる。

 まして全てが攻撃手段ではない。回復や結界なども多く含まれている。

 バランスを考えたのだろう。

 威力に関しては魔法士の実力を考えた以上に、不特定多数に配布されることを恐れたのか。

 無理もない。

 貴族の貪欲さと悪意に触れれば不信も芽生える。


 もし、この魔造紙が尽きれば終わりだ。

 リエナでは対抗できなくなる。

 応援が間に合えばよいが、バジス側の拠点も、竜の隠れ里も魔族の襲撃を受けているそうだ。

 覚悟の上とはいえ、完全に分断されてしまった。

 手配した援軍を期待するのは厳しかろう。


「あの防御を突破できると思うか?」


 儂らぐらいの歳にもなればそれぐらいの状況把握は簡単だ。

 ロイの問いに苦く笑う。


「見たところ4層。周囲の粉、粘液、鱗、毛皮。それぞれが元より高い防御力を持っている上に、特化した性能もあるようだの。力技だけで抜くのは難しいだろう」

「あー。そうだよな。どうする?」

「……覚悟はできておるか?」

「若いのに任すわけにもいかんだろ。何人か声をかけておく」

「そうしてくれ」


 さて、仕事と行くか。

明日から別の店に異動となり毎日の更新が厳しくなると思われます。

申し訳ありません。


あと間違って「テナート陸峡」と書いていましたが「テナート地峡」が正解です。気づいたところは直しましたが、まだあるかもしれません。

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