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魔法書を作る人  作者: いくさや
バジス編

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断章6 拠点確保

 断章6


 両脇から打ち付けてくる腕。

 上に跳んだら牙で噛まれちゃいそうだから下。

 地面すれすれまで屈んで腕を避けて、次に踏み潰そうと持ち上がった足の下を潜りぬける。


 後ろに回り込んで背中を斬りつけるけど、翼で防がれた。

 翼も固い。それに4つも頭があるから死角がない。

 なら、見えてもダメなようにすればいい。

 バインダーから魔造紙を取り出す。


「ん。『縛鎖界――断崖郷』」


 内側から出れなくなる結界の魔法。

 シズのすごい頑丈な奴。あまり広くないぶん、硬くなってる。

 これでどこだって足場になるよね?


「いくよ?」


 地面だけじゃなくて半球状の結界も足場に跳ぶ。

 縦・横・斜めにあっちこっち。

 たくさんの目で追いかけてきてるけど、あっちが両手を振っている間にこっちは3往復ぐらいできるから間に合わないよ。

 すれ違うたびに槍で斬りつける。

 突きだと引っかかるからちょっとずつ。


 でも、結界が段々とひびだらけになってきた。もっと強い結界じゃないとダメだったみたい。

 ……わたしは重くないからね?

 あ、割れちゃった。


 勢い余ってずっと後ろに飛んでっちゃう。

 ちょっと乱暴に地面を削って止まる。途中で色んな魔物が吹き飛んだけど無視。

 血だらけになった魔神が虫の翅をすごい動かしてる。

 何か黒い粉がたくさん出てきた。


 あれ、危ない。

 勢いが止まるまでに出しておいた魔造紙を発動。


「ん。『雷・閃穿・竜墜槍』」


 辺りにたくさんの雷が出てきて大きな槍になる。

 どっちも撃ち合う準備は万端。

 黒い粉に包まれた魔神と睨み合う。

 たくさんの目でわたしが動き出すのを見極めようとしてる。


 そしたら足元から影が広がって魔神を包み込んだ。なんかお水も入ってるみたい。すっごい力で押し潰してる。

 リラがタイミングを計って、ミラが原書を使ったんだね。

 けど、魔神は力任せに魔法を吹き飛ばしちゃった。

 やっぱり力が強い。あの腕で叩かれたら強化だけじゃ防げないと思う。

 でも、出て来るってわかってたよ?


「……ばっちり」


 タイミングを合わせて槍はもう投げてる。

 闇から脱出した魔神の眼前には雷の槍が迫っていた。絶対に避けられない位置。

 狼の頭に当たって、突き刺さった。

 水で濡れてるから雷がよく通る。

 魔神の声にならない絶叫が響いた。


 あ、違う。絶叫じゃない。咆哮だ。

 雷に焼かれながらわたしに突撃してくる。

 途中で大きく跳び上がって長い腕をしならせて襲ってきた。

 雷が残ってるからギリギリで避けたり、受けたりしたら危ないかも。


 大きく離れておく。

 魔神は黒い煙に包まれてる。

 雷で焼けたから?

 でも、あまり焦げてるように見えないよ。

 違う。あれ、黒い粉だ!

 走りながら出してたんだ!

 魔神の背中の翼が開いて、変な風が吹き出す。

 さっきよりもたくさん出ている黒い粉がわたしと大きな人を囲んだ。


 嫌な、感じ。

 どこかでカチって音と一緒に火花が散って、黒い粉が爆発した。


 押し寄せてくる火と熱風。

 周り全部からぶつかってくる音と衝撃。

 強化の付与魔法の守りを抜けて叩かれたみたい。

 ミラとリラは大丈夫かな?

 心配。でも、あっちは離れてたから黒い粉も少なかったと思う。


 目がチカチカして良く見えない。耳も大きな音でうまく聞こえない。

 でも、そのおかげで魔神の襲撃に気づけた。

 すごい圧迫感が近づいて来てる。

 気配だけを頼りに煙の向こうから落ちてきた腕を躱した。

 お返しに虫の翅を片方斬り裂く。鳥の羽みたいに固くないみたいで刃が徹った。


 ……1度下がる?

 ううん。苦しいのは向こうも一緒。

 負けない!


「ん!」


 見えにくい目を凝らす。

 どこ?

 どんなに強くても弱点はある。

 無敵なんてない。そんなのシズだけ。

 あるはずなのに、いつもの感覚がなくて見つけられない。


「頭の付け根!コブみたいなやつ!」


 リラの声が遠くに聞こえた。

 頭がひとつなくなって、上からなら見えたんだ。

 リラ、いい感じ。今度、お魚あげる。


 振り返ろうとしてる魔神を槍の間合いに捕えた。

 槍の柄でバインダーを叩いてからたくさん突き出す。

 ほとんどが毛皮に弾かれるけど、いくつかが皮の下の肉に刺さる手応え。


 振るわれた腕を避けて、隙だらけの胸に全力の突き。

 穂先まで突き刺さったけど、抜けなくなった。

 槍を掴まれる。

 力比べじゃ勝てない。

 でも、それでいい。


 わたしは槍を放して、魔神の肩に跳び乗った。

 左手には乱突きの前に発動させた雷の球。

 正面の熊の口に放り込む。


 『雷・凝封・灼陥穽』

 凝縮した雷が炸裂する。

 雷の爆発が起きて熊の頭が焼け落ちた。

 本当は武器の先端で使う魔法だからわたしの手も焼けそう。

 痛い。でも、頑張る。


「にぃあああっ!」


 残った片腕で殴ろうとしたけど、魔神が暴れたせいで落とされた。

 足が滑ったように地面を転がる。

 魔神が踏みつけようと近づいてきた。


「ん。いい感じ」


 4つの頭が半分になって死角ができた。

 近くでわたし、遠くで大きな人で役割分担もした。

 捨て身で攻撃して注意を引けた。

 とどめの瞬間だから意識はもうこっちだけ。


(リラなら隙を見つけられるし、ミラならわたしの考えを読み取ってくれるよね?)


 影が魔神を覆った。

 頭上には投擲後の姿勢の大きな人。

 その力強い手で投げ放たれた雷光を纏う光の矢が、体の中心――4つ首の付け根を貫いた。

 2冊の原書の魔法を収束した1撃は確かに魔神の命に届く。


 魔神の体が大きく跳ねた。

 急所を貫かれ、内側から焼かれ。

 2度、3度と痙攣して、膝から崩れ落ちる。

 全身から煙が立ち昇って、ちょっといい匂いがした。


 でも、まだ。

 わたしは倒れた振りから起き上って、魔神に刺さったままだった槍を抜き取った。

 僅かに黒い粉が出始めていた虫の翅を根元から斬り落とす。

 油断なんかしないよ。


 着地した大きな人と一緒に離れると、黒いのが爆発して魔神の体を焼いた。

 さっきまであんなに硬くて焼けなかったのに死んじゃうと燃えるんだね。不思議。

 雷と爆発で真っ黒に焦げた魔神は倒れたまま動かない。


 ミラとリラを見上げる。

 2人もわたしを見ていた。

 おじいさんたちや遠くのブランの兵隊さんが歓声を上げる。


「……大勝利」

「お疲れ様ー」

「当ったり前よ!怖くなんてなかったわ!合図も何もないのに連携するのなんて余裕なんだからね!」


 リラがちょっとウルウル。

 大丈夫。リラはちゃんとできてた。

 普通のお魚じゃダメかな?大きいのさがそ。

 きっとご機嫌になるよ。


「みんなのー、お手伝いしましょうかー」

「ん。やる」

「……その前にリエナは怪我、治しなさいよ。痛そうじゃない。見てらんないでしょ!」

「ん。ありがと」


 わたしが左手の火傷を回復魔法を掛けている間に戦いは終わりそうになっていた。

 魔神がいなくなって魔物たちが怯えるようになってる。

 そんなのセズおじいさんの敵じゃない。

 途中から武王も混ざってすごい勢いで吹き飛ばしてた。

 武王もちゃんと強化の付与魔法は使えたみたいだね。大きな剣を振り回してすごい勢いで魔物が吹き飛んでく。

 いつからかあれだけしつこく襲い掛かってきた魔物たちが逃げ始めた。


 すぐに樹妖精さんたちが地面から木を生やす。

 北から南にまっすぐ。

 お互いの間を枝が埋めていって、外側には棘までついてた。


 その内側でブランの兵隊さんが大急ぎでテントの設営と、魔物の死体をどかしたりしている。

 何人かが樹妖精さんと相談して、柵の上に物見の台を作ってもらっていた。すぐに何人かが上って警戒を始めるのは立派だね。

 本当にあっという間に陣地ができていた。


 最初の作戦、成功。

樹妖精さんが大工さんすると半日で家が建ちます。木製限定ですが。


いっそのこと4種魔神との戦闘は飛ばしてしまおうかと思ったりもしたのですが、シズに虐殺された上に、今度は行間でやられてしまうのもあんまりだったので書きました。

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