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魔法書を作る人  作者: いくさや
バジス編

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123/238

断章5 先陣

 断章5


「ん。『流星雨』」


 シズの好きな魔法。

 光の雨。

 きれいだよね?

 ちょっと危ないけど。


 潮が引いて突撃してきた魔物が空から降ってきた光に飲み込まれていなくなった。

 地面がジュージューしてるけど、何人かが土の属性魔法で埋めてくれる。


 後ろで待ってた武王たちは変な顔してた。


「1人で戦争できるな」

「昨日までの苦労はなんだったのでしょうか」

「魔の森が消えるわけだの」


 シズがすごいのは当たり前。

 でも、魔物も諦めない。すぐに次の群れがこっちに渡ってこようとしてる。


「リエナ、露払いは任せて大将首を狙うんだ。できるか?」

「ん。やる」


 セズおじいさんたちが一足先に馬を走らせる。

 岩場だったけど、さっきの土魔法のおかげで馬でも大丈夫みたい。

 後ろにいるミラとリラに振り返る。


「いい?」

「もちろんよ。やってやるわよ」「おー。がんばろー」


 ミラは大きな包みを持っている。12冊の原書。バラバラに使うのも考えたけど、低級の原書じゃ魔神は倒し切れないから。

 それにこれは妖精の持ち物。使うのはミラでいいと思う。


 武王たちはセズおじいさんが討ち漏らした魔物を倒しながら進むみたい。

 センさんと他の樹妖精はそっちと一緒。向こうの魔物を押し返したらすぐに拠点を作ってもらう作戦。


「いこ」


 2人を抱えて、セズおじいさんたちの後ろについて行く。

 強化したままゆっくり走るのはちょっと大変。


 今日は虫みたいな魔物が多い。

 でも、セズおじいさんが魔法で中央を吹き飛ばした。

 渦巻いた風が何度も群れを裂いて、最後は空から空気の塊が落ちて炸裂する。すっごい風が吹いて魔物が吹き飛んだ。

 多分、極大魔法だと思う。わたしの知らないやつだ。


 出来上がった道を他のおじいさんたちが武器と魔法で広げていく。

 セズおじいさんの魔法でフラフラなところを襲われて、魔物はほとんど反撃もできないで倒れていった。

 わたしはそこを通るだけだからラクチン。


 もうアルトリーアとバジスの真ん中まで来たと思う。

 それでもまだ魔物はやってくる。少しも減らないし、怯えない。

 仲間を乗り越えて襲い掛かってくる。


「きりがないの」


 大きな群れをセズおじいさんがまた極大魔法で吹き飛ばした。

 そこから立て続けに2つの竜巻を起こすけど、何故か海の方で発生する。海水を巻き上げながら魔物の方に向かって行った。

 でも、魔物に近づく頃には効果が終わって消えちゃう。失敗?


「おい。セズの野郎、派手にやる気だぞ!」

「結界、急げ!」

「嬢ちゃん、ここで待ってな。絶対に前に出るなよ」


 おじいさんたちが慌てて止まった。二重で結界を張って、セズおじいさんを見てる。

 魔物の群れの中に1人だけ残ったセズおじいさんはバインダーに槍を当てて、その槍を空に向かって掲げた。

 そしたら空からキラキラが降ってきた。

 いっぱい。見渡す限りに。

 まるで雪みたい。だけど、違う。

 これ、雪よりも薄くて鋭い氷。


 魔物たちが苦しんでる。

 あ、体の中に入っちゃったんだ!

 怖い。あれ、怖い!

 あんなの吸っちゃったら……。

 しっぽがきゅってなっちゃう。


 セズおじいさんの小さな声が聞こえた。


「固有極大魔法『旋風・氷塵・乱舞・枯死・連結式=絶景風花』」


 冷たい死の風が吹いた。

 粉みたいに小さい氷の刃が魔物に向かって吹き荒れる。

 どんなに防御しても意味がない。

 柔らかいところから切れていくし、傷口からも刃が入っていくし、目を開ければ目を、息をするだけで肺を傷つけていく。


 幾億の薄氷が溶けて消えた後は静か。

 数千の魔物が冷たく息絶えていた。


「……すごい」


 見惚れちゃった。

 ひとつひとつの魔法ならそこまですごくない。普通よりいいぐらい。

 でも、制御とか使い方とかがすごすぎ!


「丸くなったと思っていたらこれだよ」

「敵相手にゃあ容赦ねえからな」

「お前らくっちゃべってる暇があったら足を動かさんか!」


 セズおじいちゃんが怒鳴って突撃が再開する。

 もう前にはほとんど魔物がいない。

 でも、魔物の死体が邪魔になって馬は走りづらそう。


「リエナ!」

「ん。先に行く。ミラ、いい?」


 ミラが包みを開いて、原書を足元に落とした。

 その原書を地面から生えてきた木が受け止めて配置していく。

 実験の時よりずっと準備が早い。


「わたしたちに力を貸して。『原書、全頁解放。基部に召喚・人型。下級結界と同時に強度付与を発動。その他の原書は励起状態で待機』」


 赤い光に包まれた大きな人が立ち上がった。

 肩に乗ったミラとリラが手を振っている。準備万端。


「このまま直進。左手に見える大きな岩の向こう側に魔神がいるわよ!」

「ん!」


 リラに頷いて走る。

 岩場を抜けて、バジスに到着。

 行く先を邪魔する魔物を走ったまま薙ぎ払った。

 もう、わたしも見えてる。


 4種魔神。

 熊と狼と鳥と何かの虫の頭がある。

 大きな体は厚い毛皮に包まれている。

 長い腕は立っているのに地面に届きそう。太い手足の先に長くて鋭い爪がある。

 背中から鳥の羽が1対と虫の翅が1対。


 かなり速く走ってるけど、気づかれてる。

 吼えて威嚇してくるけど、怖くなんかない。


「……邪魔」


 振り下ろされる剛腕。

 刀みたいな鋭利な4本爪。

 空気ごと抉るみたいで吹き飛ばされそう。


 速い。でも、見えてる。

 腕の下を掻い潜って、そのまますれ違いながら脇腹を薙ぐ。

 けど、毛皮が硬くて弾かれた。まるで金属みたい。

 でも、槍の衝撃で魔神もよろめいてる。


「リエナ!」


 リラの声。横に思いっきり飛び退く。

 すぐにミラの声が続いた。


「火と土の属性原書、同時発動!」


 赤く燃える砲弾が魔神を吹き飛ばした。

 魔神ごと後ろの魔物を巻き込みながら進んで、最後は溶岩の粒となって爆発する。


 周りの魔物はセズおじいさんたちに任せる。

 大丈夫。心配することなんてひとつもない。


 大きい人と並んで魔神を睨みつけた。

 倒れていた魔神がゆっくりと起き上る。

 少し毛皮が焦げているけどダメージはないみたい。


「薙熊の腕力。鋼狼の毛皮かしら。鳥と虫はわからないけど、目に見える攻撃ではない可能性が高いわ。気を付けて」


 ミラが教えてくれる。

 頼もしい。


 わたしはシズを守りたい。

 シズは最強で、無敵で、1番。

 どんどん強くなっていっちゃう。

 だから、こんな奴に負けてなんかやらない。


 息を吸って、吐く。

 熱い吐息。

 とくん、とくんって聞こえる心臓の音。

 いい感じ。

 ちゃんと集中してる。


 50倍の強化付与を解除。

 バインダーに入ったまま魔造紙を発動させる。


「ん。『刻現・武神式・剛健』」


 100倍強化付与魔法。


 緋色の輝き。

 ちょっとフワフワするけど平気。

 50倍の時といっしょ。

 きゅって動いて、ふわって下りて、ひゅんって振るんだね。

 毛皮は固いけど、毛並みに逆らわないで、隙間を通すの。

 ほら、斬れた。


 後ろで魔神が悲鳴を上げてる。

 その脇腹には深い傷ができている。

 槍をびゅって振ったら地面が裂けちゃった。ちょっと失敗。


「ん。いくよ?」

いまいち影が薄かった極大魔法。

普通は個人が固有で開発できるものではありませんが、中には規格外が使ったりします。

おじいちゃんはあまりに凶悪なため開発後に封印しました。

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