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魔法書を作る人  作者: いくさや
バジス編
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断章4 前夜

 断章4


 夜になって戦場は落ち着いた。

 道が海に沈んで魔物が来れなくなったから。

 バジスの兵隊さんが残ってたのを一気に倒してた。魔王とかもいたみたいだけど大丈夫みたい。


 おかげで落ち着いて作戦会議ができる。


「まずはバジスに拠点を確保します」


 机の上に広げられたおっきな地図を皆で見る。

 バジスは三日月みたいな形。

 東と南が先っちょで、南東は弧を描いた砂浜。北西は山脈ばかり。


「無論、まずはバジスの東端」


 東の先に赤い石を置く。

 魔物たちが押し寄せる向こう岸。


「間違いなく魔神がおる」

「当然、魔物も押し寄せてくるだろうな」


 こっちが重要だと思うなら向こうも大事に守る。

 そういえば今日の魔物の群れには魔王がいたけど魔神はいなかったっけ。

 どうしてだろ?


「魔神、倒す」

「拠点確保は任せてもらおう」


 わたしが手を上げるとセンさんも前に出た。


「我々なら種族特性がある」

「植物操作か。木製だと火に弱いだろ」

「近くは海だ。水ならいくらでも使える」

「塩水はいいのですか?」

「海辺の植物も扱える」


 いくつかの確認がされて採用された。

 わたしのは?

 しっぽがユラユラしちゃう。


「いや、睨むなよ、嬢ちゃん。わかったわかった。先陣は譲る。その代り、きっちり勝てよ?」

「ん。ありがと」

「他は援護と魔物の排除だ。セズの爺さん、嬢ちゃんと一緒に行けるか?」

「構わんが、向こうまではどうするのかの?」

「ブランで道は作る。ルイン、手伝えよ」

「おう」

「ん。これ、使って」


 ルインに運んでもらった木箱からバインダーを出す。


「そういやなんか持ってきてたな。バインダーか?」

「シズが書いた魔造紙5000枚」


 あれ?静かになっちゃった。

 眠いの?お腹すいたの?

 ルインはお腹が痛いの?うずくまって震えてる。


「……始祖はバジスを消滅させる気か?」

「大丈夫。色々あるから」


 ちゃんと何が入ってるかメモがついてて便利。

 20倍とか50倍はちょっとわかりづらいからわたしが説明する。シズが使った魔法だからなんとなくわかる。

 本当に危ないのは少しだけ。


「……手当たり次第に炸裂させるだけでも魔物が全滅するのでは?」

「その代わりバジスは荒野になるだろうな」

「さすがシズだの。大したもんだ」

「ん。シズは最強」

「しかし、この魔造紙を持った者が魔人化すれば大変なことになるのでは?」


 センさんの一言でまた静かになっちゃった。

 さすがシズ。どこにいても皆が注目。


「……諸刃過ぎますね」

「とはいえ、使わんのも悪手だの。魔物ども、いくら倒しても湧いてきおるぞ」


 そう。

 夜は道が海で沈んじゃうからこっちまで来てる魔物を倒せばいいけど、向こう側にはまだまだたくさんいる。

 今はそんなに遠くまでわからないけど、数えきれないぐらいいっぱいいるのはわかる。


「リスクの分散のためバインダーのまま配らず、魔造紙ごとに渡しましょう」

「分散しすぎてもまずいだろ。まずは主力が確保。残りを隊長クラスに数枚ずつ渡すってところか?」

「そうですな。バインダー丸ごと持った者が魔人化するのは避けつつ、魔人化したとしても対処しきれる程度の分量にするのが妥当かの」

「俺、いらない。怖い。丸焼きになる」

「あー、ルーは原書があるからいいか。よし、ここにいるメンツと後は原書持ちの連中。それと爺さんの仲間たちで使えそうなのを分けるぞ。やっぱり俺は強化だな。1度使ってみたかったんだよ」

「強化の付与魔法は余程の使い手以外は無理でしょう。兄さんとリエナさんぐらいですか?」

「儂は風の属性魔法かの。おお。シズの魔造紙。孫からのプレゼント……」


 武王がちょっと楽しそうに魔造紙を眺めて、ヴェルが無駄遣いしないようくぎを刺したり、セズおじいさんが宝物みたいに握りしめたりしてた。

 あれこれと決めていると入口にいた兵士さんが入ってきた。


「会議中申し訳ない。こちらの方々がお話があると」

「ちょっとー、いいかしらー?」

「ミラ。リラもか。どうした?」


 兵士さんが言い終わる前にミラがテントに入ってきた。リラはミラの後ろから武王とかを睨んでる。

 あ、人間が嫌なんだっけ。忘れてた。でも、ミラに手を引っ張られるとおとなしくついてくるみたい。


「リラちゃんがー、向こうのー、様子わかるってー」

「マジか!」


 食いついた武王にリラがそっぽ向く。


「……木がある辺りだけよ。悪い?」

「悪くねえよ。十分ありがてえ。ルーたちに様子を見てもらおうにも妨害されててな。あっちの様子がわからなかったんだよ。オラ、姉ちゃん。そんなとこいねえでこっち来い。わかる限りでいいから地図に書いてくれ」

「……こういう人もいるのね」


 武王と駆け引きとかムダ。どうせ難しいこと考えてない。

 ミラが手を放しても、リラはわたしたちがいる机までやってきた。


「向こう側はもう見渡す限り魔物ばっかり。種類もバラバラ。数えきれないの。でも、暴れたりもしないでじっとしてるわね」

「魔王はいるか?」

「いるわ。でも、もっとまずいのもいる」

「魔神だな。予想通りか」


 やっぱりいるよね。

 こっちまで攻めてこないのはなんでだろ?

 あ、もしかして。


「……ソプラウトの魔神が来るの、待ってる?」

「その可能性が高いでしょうね。後背を突かれて動揺したところを一気に攻める手はずだったのでしょう」


 待ってても来ないのにね。

 なら、こっちから攻めるだけ。


「ソプラウトに来たのと同じ感じの魔人よ。なんか、頭が4つぐらいある。きもい」


 4種魔神。

 シズの崩壊魔法でも消しきれなかった魔神。


「いきなりか」

「要所となれば当然でしょう」

「ん。倒せばいい」

「じゃあー、わたしもー、お手伝いするわー」


 ミラがおーと手を上げる。


「ミラ!?なに言ってんのよ!」

「だってー、皆の研究がー、負けたままじゃダメでしょー?」

「しょうがないじゃない。元々、3種の魔神相手に考えてたんだから」

「しょうがないからー、負けていいわけじゃないよー」


 ミラはいつもほんわかしてるし、今も同じ話し方だけど、目だけは決意に満ちてる。

 そうだよね。皆で頑張って原書の研究したのにダメだったからって諦められない。


「ミラも一緒に行く?」

「うん。おねえちゃん、はりきっちゃうよー」

「遠足みたいに言わないでよ!?」

「リラちゃんはー?」

「ああ、もう!いいわよ!いくわよ!手伝うわよ!そのために来たんだから!あいつが戻ってきても仕事なんてないんだからね!」


 リラも元気。


「……勝手に決めてますけど」

「いいのでは?先程のリエナの戦いぶりを見るに勝機は十分あると思いますぞ」

「どうせ連携を試す時間もねえ。波長の合う奴で戦った方がいい。どうせ始祖の魔法なんだ。下手に囲んだら巻き込まれんぞ」


 さすがセズおじいさんと武王。わかってる。

 明日は忙しくなりそう。

 頑張るよ。

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