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魔法書を作る人  作者: いくさや
バジス編

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断章2 撤退戦

 断章2


 長老さんじゃなくなった、セズおじいさん。

 馬上なのに右手には短めの槍。左手には剣を持ってかっこいい。

 お馬さんもお利口さん。目が合うとビクッてして頭を寄せてきたから撫でてあげる。いいこ、いいこ。


「ふむ。聞きたいことは山ほどあるが、そんな場合じゃあるまい。連れの人たちは……樹妖精かの。まさか、助勢に来てくれたのか?」

「ん。でも、今はダメみたい」

「こんな墜落して平気なリエナの方がすごいんだぞ?」


 そうなの?

 シズと一緒ならいつもこんな感じだけど。ぎゅーんって楽しいよ?


「しかし、シズはどこだ?一緒じゃないのか?」

「シズは……」


 うまく言えなかった。

 説明すると長くなっちゃう。耳も後ろに倒れちゃう。


「……何か、あったんだな?」


 セズおじいさんは何か耐えるみたいに空を仰いで息を吐いた。

 あう。怖い目。


「おい、セズ!のんびり話し込んでじゃねえよ!」

「そっちの飛竜が吹っ飛ばした魔物どもがまたすぐにくんぞ!」

「わかっておるわ!余力のある奴は倒れてる者を後ろに乗せてやれ!もう十分押し返した!一度退くぞ!遊撃の入れ替えを本陣に合図だ!よし、乗せたな。本陣まで一直線で走るぞ!」


 おじいさんたちがたくさんやってきた。

 皆、強そう。確か、学園にお手伝いできてくれた人たち?

 セズおじいさんの指示に文句を言いながらもどんどん作業を終わらせていく。動けない樹妖精さんを馬に乗せていく。


「飛竜は?」

「……さすがに乗らんぞ」

「頑張った。置いてけない」

「困ったの。いや、大丈夫じゃ。迎えが来た」


 途中でわたしも気づいた。

 本陣から大きな竜が飛んでくる。ルインだ。

 すぐにこっちまで来ると、後ろ足で飛竜を掴んで持ち上げちゃった。

 本当は小さいのになかなかやる。


「じいさんはどうする?」

「儂は殿だ。リエナはどうする?」

「手伝う。ルイン、そっちの箱も持って行って」

「うん……。わかった」


 なんか、ちょっとおびえてる。

 どうしたんだろ?

 まあいいや。


 とにかく、助けに来たのにお世話になっちゃったらダメ。

 バインダーから50倍の強化付与の魔造紙を発動。

 戦場に目を向ければ辺りにはすごい数の魔物。わたしたちが落ちた時にすごい吹き飛んだけど、外側にいたのがこっちに向かってきてる。

 周りはほとんど敵だらけ。


「撤退開始!総員、一気に走り抜けるぞ!正面のみ打ち払え!殿は儂が務める!前だけ見て走れっ!」


 セズおじいさんの大きな声で他の人たちが馬を走らせた。

 その最後にセズおじいさんとわたし。


「乗らんでいいのか?」

「ん。わたしはどうすればいい?」

「……大丈夫そうだな。左右からの寄せが速いな。右翼、任せてもよいか?」

「任せて」


 右側。

 狼とか虎とか足の速いのが来てる。

 このままだと追いつかれちゃう、かな?


「行く」


 大きい人と比べたらこんなの怖くない。

 まっすぐに直進。

 先頭の狼――疾狼に狙いを定めて、ちょっと乱暴に着地。

 地面と一緒に魔物が吹っ飛んだ。

 でも、後ろのがすぐに来るのもわかってる。

 だから、足を止めて、思いっきり、ぐっと力を入れて槍を振り払う。


 強化された一閃が魔物の群れを斬り飛ばした。


 穂先をびゅんってすると遠くまで斬れるんだよ?

 思ってたよりたくさん斬れたけど。シズのくれた新しい穂先のおかげかな?さすが、シズはすごい。


 ん、すっきり。

 ……奥から大きいのが出てきた。

 あれ、疾狼の魔王?


「来ちゃダメ」


 あんなに大きいのに足が速い。

 まだ遠くにいるけど、このままだと皆に追いついちゃう。

 だから、こっちから行こう。


「ん」


 タン、タン、タンって地面を蹴る。

 途中にいた魔物は強く踏んだときの衝撃で吹き飛ぶから大丈夫。

 疾狼の魔王がわたしに気づいて前足で踏み潰そうとしてくる。

 でも、遅いよ?


「ん!」


 大きな体の下を走り抜けながら、槍を4回振った。

 前に伸びてきた右前足の先を斬り上げて、横に抜けようとした左前足を斬り下ろして、まだ走ろうとする左後ろ足を横に薙いで、蹴ろうとして来た右後ろ足を振り返りながら斬り飛ばす。


 仲間を巻き込んで転がった疾狼の魔王。

 まだ、動こうとしてる。

 周りもまだ魔物がいっぱい。

 ちょっと遠くまで来たから平気だよね?

 バインダーからシズの魔造紙を取り出す。


「ん。『焼雷煉獄』」


 20倍の合成魔法。

 雷の属性魔法。範囲拡張の付与魔法。結界の法則魔法。


 辺り一帯。見渡す限りに小さな雷の球が空から降ってくる。

 手のひらに乗るぐらい小さいけど、ひとつひとつが属性魔法の上級の雷。

 魔物が埋め尽くしていた平原が金色の光に包まれた。

 そして、ひとつが魔王の大きな体に触れる。


 雷の連鎖。

 波紋みたいに広がる。

 すべての雷の球が弾けた。


 ピカって光って、すごい大きいな破裂する音がした。

 耳を伏せていてもうるさいぐらい。

 まぶしくて閉じてた目を開けると、もう周りには真っ黒になった魔物と地面しかなくなっていた。

 もうこっち側はいないね?


「ん。もどろ」


 来た方向を見る。

 左側と後ろからも魔物は来てたけどどうなってるだろ?


「あ、すごい」


 左側の魔物は大混乱。

 前の方の魔物が足を怪我しちゃって倒れてるし、その次は煙がひどくて前が見えなくなってる。結果、倒れた魔物にぶつかって、次の魔物もどんどん倒れている。壁みたい。

 うまい。あれじゃ、ちょっと追いつけない。


 後ろから追いかけてきてた魔物はなんか一列になってる。

 あ、横から出ようとした魔物がまとめて風でバラバラになった。

 だから、真っ直ぐ前に行くしかないんだ。


「シ・ズ・は……」


 セズおじいさんの声が聞こえた。

 あ、シズのことだからこんなに遠くでも聞こえるんだ。不思議。

 最後尾にいたセズおじいさんが馬首を返す。一列になった魔物に向けて槍を投げる構え。


「ど・う・し・た・ん・だああああああああああああああああああああああああっ!!」


 すごい絶叫。耳がキーンってした。

 左手の剣が腰のバインダーに当てられる。


「ぬんっ!」


 槍の一投。

 空高く上がって、山なりの軌道で魔物の列の先頭に落ちていく。


 でも、ただの槍じゃなくなってる。

 風の属性魔法『風・乱刃』だ。

 風の刃が竜巻みたいに吹き荒れる魔法。

 それも普通じゃない。2枚分?バインダーの中の魔造紙を2枚も同時に使ったの?

 あ、違う。


 落ちた槍から風の刃と一緒に炎が巻き上がった。

 炎の竜巻がたくさんの魔物を飲み込んで、巻き上げていく。

 竜巻はそのまま進んで、一列になっていた魔物をどんどん倒していった。


 セズおじいさんは3枚の魔造紙を同時に使ったんだ。

 わたしもバインダーに入ったままでも魔造紙は使えるけど、1枚だけだよ。

 それに今の極大魔法だよね?

 あんな少しの時間でできるなんてすごい!


 セズおじいさんが成果を確認して皆を追って走り出した。

 わたしもそっちに合流。


「すごい」

「いや、リエナの方が大変なことになっておらんか?儂は足止めばかりだが、そっちは全滅しとるだろ」


 わたしがすごいんじゃない。シズの魔法がすごいの。

 途中からブランの兵隊さんが魔物に向かっていった。

 セズおじいさんたちと交代で戦っているんだって。

 安心して本陣のテントにわたしたちは到着した。

 1番大きなテントの前には武王がいた。


「おう、嬢ちゃんか。とんでもねえ魔法が見えたから始祖かと思ったぞ」

「ん。久しぶり」

「で、始祖はどうした?一緒じゃねえのか?あと、あのフラフラしてるのは樹妖精だよな。なにがどうなってる?」

「……私が説明しよう」


 あ、センさんが起きたみたい。まだ顔が青いけど平気?

 うん。大丈夫みたい。

 よかった。あまり説明とか上手じゃないから安心した。

撤退なのにかなりの魔物を蹂躙している2人。

おじいちゃんの魔法は単発はたいしたことないけど、使い方がうまいおかげで集団相手にすると輝きます。

そんな人がシズの魔造紙を持ったりすると……。

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