表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法書を作る人  作者: いくさや
バジス編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

119/238

断章1 空の旅

 断章1


『魔族の侵攻を受けた。迎えを送る。至急救援を願う。 武王ディン』


 書き殴るような字で書かれた手紙。

 飛竜の足に括り付けられていたケースの中身はそれだけだった。


 シーヤの部屋に集まって皆で回し読む。短いからすぐに終わった。


「魔族の侵攻。攻め込むつもりが先制されちゃったみたいね」

「このタイミング、この前の魔神も」

「ええ。2面作戦だったのでしょう。正面からブランを襲い、一方ではソプラウトは4種魔神に制圧させて背後を衝く。成功していればひとたまりもなかったわ。魔族がこんな作戦を練るなんて聞いていなかったら信じられなかったかもしれないわね」


 シズがいてよかったね。

 半月ぐらい時間差があるのもそのせいなの?


「迎えというのはあの飛竜よね」


 これを届けてくれた飛竜は森の開けた場所で休んでる。

 最初はちょっと興奮してたけど、わたしと目が合ったら落ち着いたみたい。


「ん。行く」

「でも、あの飛竜に10人は無理よ」


 飛竜はルインほど大きくない。

 頑張って5人ぐらい?

 それにあまり重くなると疲れちゃうし遅くなる。

 でも、大丈夫。あれがある。


「これ、使う」

「バインダー?」

「ん。シズが用意した。100冊ある」


 5000枚の魔造紙。

 色んな魔法が入ってる。

 普段はあまりシズが使わないのも。

 属性とか回復とか強化付与とか。

 法則と召喚は苦手だからあまりない。法則の結界ぐらい。

 合成魔法は少しだけ。

 スレイアの騎士団にあげたのは危険すぎるって。

 こっちなら大陸がなくならないで済む。

 20倍とか50倍の魔力で書いたって言ってた。


「飛竜、強化すればすぐ」


 たぶん。

 ちゃんと飛べれば。

 50倍はダメかもだけど、20倍なら平気だよね?


「……原書12冊より、そっちの方がすごいんじゃないかしら」

「あまり人に渡したくないんだって」

「そうでしょうね。いい人でも魔が差してもおかしくないわよ」


 スレイアの嫌な感じの人とかが持ったら危ないって言ってた。

 でも、シズが見張ってたら大丈夫だと思う。

 シズは慎重。色んなことを考えてる。


「わかったわ。緊急事態ですし今は拙速を良しとしましょう。セン、旅装は破棄。戦支度に時間はかかるかしら?」

「すぐにでも」

「では、準備出来次第に広場へ」


 小さく頷いてセンが出ていく。

 シーヤがわたしたちに視線を移した。


「あなたたちもすぐに支度をなさい。この手紙を見る限り緊迫した状況みたいよ。特にリエナさんとリラは新しい武器を確認しておかないと」


 そうだった。

 槍の穂先を交換しないと。

 お願いしたらシーヤが鍛冶の人の所に連れて行ってくれた。

 小さいおじさんみたいな妖精さんがすぐに槍の穂先をつけてくれた。


 ついてきたリラと少し打ち合って確認する。

 ん。わたしはほとんど変わらないから問題ない。

 リラも折れちゃった木みたいな刀に合わせてあったみたいですぐに馴染んだ。

 3人分の荷物をまとめたミラがやってきて準備完了。


 手伝ってもらってシズのバインダーも運ぶ。

 樹妖精の人たちが木で籠を作った。これを飛竜に運んでもらえば大丈夫。


 見送りの人たちからシーヤが出てきた。


「セン。皆をお願い」

「承知」

「ミラ・リラ。気を付けて」

「はーい」「うん」

「リエナさん、シズ君のことはこちらでも調べておくわ」

「ん」


 短く言葉を交わして全員を見回す。


「我ら樹妖精、受けた恩を忘れることなどない!強者たちよ!存分に働き、恩人のために戦い抜きなさい!」

「「「応!」」」


 すごい、いい声。

 皆、気合満タン。


 籠に乗り込んだ。

 飛竜の目を見てお願いすると言うとおりにしてくれる。

 わたしだけは飛竜の頭の辺りに乗る。ここの方が指示しやすいから。

 最初は普通に上まで飛んでもらった。手を振る樹妖精の人たちに返事をしてお別れは終わり。

 飛竜がちょっとずつ森より高く上がっていく。


「ん。『封絶界――積鎧陣』と『刻現・早矢神式・瞬光』」


 いつもシズのを見てたから知ってる。

 シズの残したバインダーから20倍の結界で皆を包んで、20倍の速力強化付与魔法を発動。

 速く飛びたいだけだから速力強化だけでいいよね?


「ん。行って」


 咆哮を上げた飛竜が翼を羽ばたかせた。

 瞬間、世界が歪んだ。

 前から後ろに景色が流れていく。

 ん。ちょっと前のシズぐらい。ゆっくり気味?

 あ、失敗した。

 大きい河に入っちゃった。

 結界があるから大丈夫。溺れないよ。

 すぐに飛竜も上に戻ろうとした。

 でも、今度は上にいきすぎ。

 雲よりずっとずっと高いところに上がっちゃう。

 綺麗な景色……だけど、そんなのはあと。

 ちょっと飛竜もうまくできないみたい。


「ん」


 飛竜の首を両手で抱える。

 行きたい方にぐいっと首を向けるとちゃんとそっちに進んだ。

 ちょっと下。もすこし左。

 曲がっちゃダメ。このまま。

 いいこ。いい感じ。


 しばらくグイグイしてたら飛べるようになった。

 これで大丈夫。

 シズは見えないけど、ブランまで行けば武王の位置もわかると思う。

 とにかく、まずは北。


 そうしてわたしたちはブランに向けて飛んだ。

 飛竜が頑張ってくれたから1日も掛からなかったよ?


 大きな山を越えてブランに入る。

 段々と武王のいる場所がわかってきた。

 北東。

 アルトリーアとバジスがつながる所。

 たくさんの人と、たくさんの魔物が戦っている。

 魔物の方がすごい多い。魔の森の時よりもずっとずっといっぱい。


「急ぐ」


 ずいっと飛竜の首を前に倒す。

 ……ちょっと着地を失敗しちゃった。

 あんまり角度を急にしちゃうとダメだったみたい。

 ひゅーんって落ちていっちゃう。

 飛竜がちょっと涙目だった。

 ごめんね?


 結局、止まりきれなくて武王がいるテントを超えて不時着。

 地面をずっと削ってからようやく止まれた。

 飛竜ってすぐに止まれないんだね。

 でも、魔物がたくさんいるところに突っ込んだから大丈夫。


 飛竜は目を回しちゃってる。疲れたんだね。

 下に降りると籠に乗ってたセンもミラもリラも他の防人さんたちもヘロヘロだった。


(乗り物酔い?)


「ん。起きる。もう、ここは戦場」

「無理言わないで……」


 リラが青い顔で呟いたまま動かなくなっちゃった。

 どうしよう。周りは魔物だらけなんだけど。


「ん。全部、倒す」

「……リエナか?」


 槍を構えようとしたら声がした。

 びっくり。こんなに近寄られたのにどうして気づけなかったんだろ。

 振り返ると馬の上に知っている顔があった。


「長老さん?」

「そりゃあ、今はリエナの所のじいさんだよ」


 シズのおじいちゃん。

 そこに『風神』セズがいた。

飛竜さん、初めてのおつかいで涙目。

シズに劣らず周囲が人外なリエナさんも常識が通じなかったり。


次回はお休みになると思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ