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魔法書を作る人  作者: いくさや
妖精編

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104 答えへの1歩

 104


 誰か暗号解読のエキスパートを紹介してください。


 茹った頭を抱えてソファーに倒れ込む。

 すっかり慣れてしまった借り家のリビングで考えていた。

 例の走り書きだ。


 あの文章は全て『あの人』に関することなのは間違いない。

 そして、始祖たちが大事に思っていたこと、忘れられてしまったという部分から失伝の始祖とも呼ばれる第6始祖と連想するのが自然だろう。

 第6始祖の伝承が残っていない理由は想像してたよりハードな様子だったけど、この点は間違いないと思う。

 そういう意味では第6始祖を調べるための原書研究は狙い通りだった。


 問題はそこで語られている第6始祖のこと。


・始祖たちにとって大切な人だった。

・詳細については誰もが忘れてしまった。

・忘れた理由は不明。始祖でもわからない。

・また何もできないということは、始祖ですらできなかったことを成し遂げた。

・今でも世界を守っている、らしい。

・見つかったら殴られるようなことをした、かもしれない。


 第6始祖は何かを犠牲に世界を守ったのだろう。

 それも1度ではなく何度か。

 今もこうして人々が生きているのは第6始祖のおかげかもしれない。

 その代償に人々から記憶が失われたと考えるべきか。


 だとしても疑問がいくつか。

 人の記憶から存在が失われたとして人間1人の存在で世界規模の守護の代償となるのか?

 そして、その方法とは何か?守り方も、代償の払い方も。


「少しー、休んだ方がー、いいよー?」


 ミラがお茶を持ってきてくれた。

 今は食後の時間で休憩中だ。

 樹妖精の里は夜でも灯りに困らないので夜でも活動できる。

 基本的に日のある時間を中心に生活しているけど、その気になれば徹夜も問題ない。スレイアやブランでは光熱費の関係で夜になると強制終了だった。


「たまにはー、休まないとー、ダメよー」

「わかってはいるんだけどね」


 ミラから注意されるのも何度目だろうか。

 切りどころがないと際限なく続けてしまう悪い癖がすぐに出てしまう。これが極まると前世のような突然死エンド一択なのでストップをかけてくれる人がいてくれるのは本当に助かる。


 ここ数日、共同で文献を調べるミラはその辺りをすっかり把握していて、こうやって止めてくれていた。


 ちなみにリエナは最初からこういう方面では戦力外と割り切っていて後方支援に徹している。資料を探したり運んだり、整理整頓してくれたり、ときどき肩を揉んでくれたり。

 同じく戦力外と自己申告したリラはブラン派遣の指揮をするセンさんのお手伝いに回った。アルトリーア大陸での活動経験のある原書捜索隊は未経験者のフォローが必要になるのだろう。

 今は2人とも反対側のソファーで待機している。

 忠猫と忠犬じゃないんだから、そんな呼ばれるのを心待ちにしてないでいいのに。それとも競争してるの?


 受け取ったお茶を一口飲んで、それでも考えることは変わらない。


「結局は第6始祖がどうやって世界を守ったのかってところで行き詰るんだよな」


 わかりきっていたことだけど、失伝の始祖は妖精たちにも知られていなかった。

 走り書き通りなら偶然ではなく意図的に消されたことになるのだから当然だ。そんな漏れはあるまい。

 むしろ、わずかなりとも覚えていた始祖や、原書の走り書きがおかしいのか。


「そもそも始祖以上の守り方ってなんだよ」


 天変地異から地殻変動まで何でもござれの始祖たちだよ。

 それより上って星を割るぐらいのレベルじゃん。


「ちょっと、想像できないわね」

「ん。シズが1番」


 リエナ、その主張は関係ないから。

 対抗してないけどさ。

 まあ、破壊力なら負けないだろうけど。


 わけわからん。

 始祖以上の成果ってなんだ?

 始祖がやったことと言えば強烈無比な魔法で魔族の侵攻を撃退したことか。

 それを対症療法としたら、根治治療でもすればそれ以上の成果と呼べるだろう。つまり魔族の殲滅。

 だけど、現代でも魔族は生き残っているのだから、そういう方面ではないのだろう。


 他に何がある?

 というか始祖の方もおかしい。

 何もできないってなんだ?

 謙虚すぎだろ。

 お前らがいなかったら人類なんてとっくに全滅だぞ。種族特性を持たない人類なんて野生の獣と大差ないんだから。

 特に始祖の死後なんて模造魔法がなかったら詰んでた。

 それが何もできないって。


「……あれ?」


 何か引っかかった。

 あれだ。

 答えが目の前に吊るされているとわかっているのに目隠しされて見れない気分。

 誰かが僕を呼んでいるのはわかるけど、今は答えている余裕はない。ここで気づきの気配を手放せばもう答えに至れないような気がする。

 いや、錯覚だろうけど。でも、ここは集中するべき場面だ。


 さっき何を考えた?

 謙虚な始祖?

 何もできない?

 魔族を撃退したのに?

 何もできていない?

 始祖の手柄じゃない?

 いや、いくら1000年前でも功績者をそこまで間違いはしないだろう。

 始祖は確かに魔法を使った初めての人だ。

 それまでの人々は種族特性なんてなくて……あ、れ?


「ねえ、ミラ?人間の種族特性って魔法?」

「そうよ。魔力を持っているのは人間だけなんだから」

「……樹妖精の里で、種族特性を使えない妖精っている?」


 聞くまでもなく答えはわかっている。

 それでも確かめないわけにいかない。


「いないわ。得意、不得意。使う、使わないの個人差はあっても使えない妖精は1人もいないわよ」


 だよね。種族特性ってそういうものだ。

 その種族なら誰もが当たり前に持っている能力だから、そう呼ばれるんだ。

 でも、人間はどうだ?


「魔力を持ってる人って10人に1人の割合で、魔法レベルで使える人なんて僕の故郷には5人ぐらいしかいないんだけど、それでも種族特性って言えるの?」


 その場に沈黙が落ちる。

 どうして誰も気づかなかった。

 確かに魔力は人間しか持たないけど、人間なら誰でも持っているものでもない。

 ない人にはないんだ。

 個人差なんてレベルではなく。

 明確に有無がわかれる。

 そんなもの種族特性と呼ぶものか。

 じゃあ、この魔力は、魔法はなんなんだ?

 どうして僕たちは魔力なんて持っている?


「いや、違う。そもそもだ。そもそも、どうして始祖は突然、魔法が使えるようになったんだ?おかげで人類は救われた。それはいい。でも、絶滅しそうだったから覚醒したとか?なんの脈絡もなく?そんなわけない。自然界がそう人間に都合よくいくわけがない。なにかある。なにかないとおかしい。じゃあ、何が?」


 無意識に魔力を集中させていた。

 両手が赤い輝きを放っている。


 魔力。


 今まで何も考えずに使っていた。

 それが今は正体不明の現象に感じられる。


 或いは、この力は人類に備わった物ではないのかもしれない。

 いや、かもしれないどころか、元々はなかったと考えるべきじゃないか?

 だって、最初からあったのなら始祖が現れるまでやられっぱなしというのがおかしい。魔力があるなら魔法を使えたはずなのだから。

 待て。本当に、おかしい。

 この不自然さ。

 これは。


 知っている。

 僕は知っている。

 自然にあるまじき臭い。

 前世で当たり前になっていた科学。


 つまり、人工物の気配。


「魔力は……誰かが、作り出した?」


 誰か?そんなの決まっている。

 第6始祖。

 パズルのピースが綺麗にはまったような感覚に背筋が震えた。


 途端、両手の魔力が輝きを増す。

 赤から緋色、緋色から紅緋、紅緋から鮮紅……。


「シズ!?」

「違う!僕じゃない!勝手に魔力が!」


 僕の意志で制御できない。

 勝手に魔力が凝縮されていく。

 300倍どころじゃなかった。

 500倍、1000倍を超えても高まり続けている。

 僕自身ですら未知のレベルの超高圧縮魔力は既に僕の身長ほどにまで膨れ上がっていた。

 あまりの眩しさにもう目を開けていることさえ難しい。


 術式が為されるわけではない。

 こんな魔力が魔法になってしまえば取り返しのつかない事態になる。

 大森林が消滅?

 そんなもので済むものか。

 ソプラウトが完全に地上から失われるぞ!


 焦燥に駆られる僕の目の前。

 魔力球の前に何かが浮かび上がり、その影のおかげで目を開けられた。


(僕の、バインダー?)


 漆黒のバインダーが漂白されるように色を失っていく。

 代わりに浮かぶ赤い文字列。

 見たこともない術式。


『魔力量、確認。

 独自術式の所有、確認。

 第1禁忌への知的抵触、確認。

 模造魔法、根源術式――強制発動』


 抵抗どころか、悲鳴を上げる時間さえなかった。

 瞬間、赤い魔力が膨張して、1秒にも満たない間に収縮し、膨大な魔力が霧散する。

 瞼の向こうから光が失せたのに気付いて、ゆっくりと目を開けた。


「…………………………………………………………………………………………………え?」


 僕は闇しかない空間に放り出されていた。

後は番外を挟んで妖精編終了となります。


前述したバジス編ではシズ君、出てこないと思います。

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