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魔法書を作る人  作者: いくさや
妖精編
114/238

101 崩壊魔法

数日もあけてしまい申し訳ありません。

シズ君の無双タイム、始まります。

 101


 土の壁のせいで暗くなったな。

 明かり代わりにこれはどうだろう。


「とりあえず、一杯いっとく?」


 50倍の『流星雨』を降らせる。

 我ながらいい結界だ。流星雨で地面が無事なのは初めてだ。

 魔神も普通に耐えている。さすがに弾幕は避けられないけど、この威力なら耐えられるか。

 防御が堅い。


「いい飲みっぷりだね、じゃあもう一杯」


 光の雨が降り注ぐ中で50倍の『流星雨・集束鏡』を発動。

 光爆を更に塗りつぶす烈光が魔神を貫いた。

 と思ったのに鎌の1本で切り裂いてる!

 光の柱が中央からふたつに割れて結界ごと地面を削っていく。


 いや、過信はいけないと改めて思う。まさか『流星雨・集束鏡』に対処できるとは思っていなかった。崩壊魔法の件といい、気を引き締めないと。

 でも、鎌が完全に溶解してなくなっている。


 まあ、それはそれとして。


「駆けつけ三杯って言うよね?」


 僕は光に隠れて魔神の背後に回り込んでいた。

 隙だらけの背中に白木の杖を突きこむ。

 同時に杖の先端に巻きつけた魔造紙を発動。


「いけ。『闇景金剛矛』」


 100倍合成魔法。

 闇の属性、強化の付与、召喚の金属。

 杖の周辺から影が膨れ上がり、僕の動作に連動して鋭く伸びた。


 不意打ちに対して咄嗟に鎌で防ごうとした魔神の反応は大したものだ。

 だけど、影の刃は滑らかな動きで鎌を躱すと、そのまま無防備に晒された魔神の肩口を切り飛ばした。

 切断力を強化された形状自在の影の刃。それを100倍強化した僕が振るえば鱗の防御なんて意味を為さない。


 そのまま首を刈ろうとしたけど、それより早く3本の鎌が襲い掛かってきた。

 100倍強化の動きなら余裕で躱せる。って、ぎりぎり狙いすぎた!髪の毛がちょっと切れちゃったよ!

 影の刃で鎌を受け止めると、じりじりと切り裂かれてしまった。ここは素直に後退。刹那で元の位置まで戻る。

 うん。やっぱり、あの鎌の切断力は格別だな。『流星雨・集束鏡』もだし、影の刃もちょっと切られてしまった。


 さて、肩ごと腕を1本潰したけど、元から溶けた鎌がついていた腕だったから結局は腕1本潰したのは変わらない。

 あ、また逃げようとしている。

 今までよりもさらに速い動きで魔神が背を向けて走り出す。


 いやだなあ。

 高々、頑丈な窪地を作るだけに300倍の魔力で合成魔法を使わないよ?


 杖で地面を突く。

 途端に魔神の逃走経路を防ぐように土の壁が伸びた。

 サイドに回ろうとしても無駄無駄無駄。壁はどこまでも縦に横にと伸びていくからね。抵抗してもいいけど、四方八方を取り囲んでしまっちゃうよ?

 ……なかなか諦めないなあ。


「えい!」


 周辺一帯から無数の土の柱を魔神に向けて突き上げる。

 一気に1000本ぐらい。

 全域から殴打された魔神があっちこっちに吹き飛ばされている。3次元ピンボールみたいだけど、単純に制御が間に合わなくて数に任せて殴っているだけだ。

 段々と制御のコツがつかめてきたので、本来の目的通り落ちる場所を僕の方へと誘導して地面に落とす。


 改めて周囲に土壁を発生させると、魔神はやっと逃走を諦めた。

 鎌で斬りつけても軽く先端が刺さるだけ。周辺を囲った壁と同じ硬度なんだから、破壊なんてできないよ。


 合成魔法『峻厳霊峰』は範囲内の大地を自在に操る魔法。

 別名『大魔王からは逃げられない』だ。

 魔神は直接的な師匠の仇だ。逃がすなんてとんでもない。

 一片残らず消し飛ばすに決まってるだろ。


「もーいいかい?」


 魔神の判断は迅速だった。

 一直線に僕へと向かってくる。

 逃げられない上に、離れれば超破壊の魔法。

 となれば唯一、僕を害しえる鎌での殺害しか生き残る術はない。


 3本の鎌が別々の角度とタイミングで襲い掛かってきた。

 影の刃ならすぐに切り裂かれたりしないので、受け、流し、躱す。

 3人の兵士に襲われたような感じだ。互いが互いの隙を補う連携は反撃の糸口が掴めそうにない。

 普通なら。


 舐められたものだ。

 確かに体術で武王に勝てない。強化の扱いは一瞬でリエナに抜かれた。

 それでも現時点の僕は人類でもトップレベルにいるんだ。


 影の刃で1本を止め、2本目は刃の腹を殴って弾き、3本目も肘と膝で挟んで封じる。

 魔神が追撃を放つよりも早く、片足で跳び上がり前蹴りを顎に炸裂させた。普通の人間なら頭から上が消し飛ぶ威力。魔神の首が人間ではありえない角度に折れ曲がった。

 鎌からも力が抜け落ちる。

 やった?そんなわけない。


「死んだふりとか、油断するわけないだろ」


 容赦なく影の刃を振り下ろす。

 数百メートルもの長さに伸びた黒い幕が落ちた。

 脱力から反撃に移ろうとしていた魔神の腕を切り飛ばす。


(寸前でうまく躱したな)


 横っ飛びに跳んで唐竹割りだけは逃れたか。

 後ろに下がっていたらまっぷたつだったのに。運がいいのか勘がいいのか。

 でも、鎌はあと2本。


 こちらも影の刃が消失する。効果時間に問題ありだな。

 いくら魔力をこめても召喚系は苦手だ。不器用な人間に絵画スキルを求めないでほしい。


 さて、そろそろメインにいこうか。

 魔力を凝縮。

 100倍、200倍、300倍。

 これぐらいか。

 紅緋の閃光が右の拳を包み込んだ。


「この手は何も掴めない。

 形は解け、影は溶け、大気に霞む。

 荒野に慟哭の涙が落ちる」


 崩壊魔法。


「未踏の絶掌」


 今までの広範囲を覆う『常世の猛毒』でダメなら凝縮すればどうだろう?

 費やされた魔力も密度も段違いのこれに魔神は耐えられるのか。


 ゆっくりと弧を描くように歩きだす。

 実は100倍強化中は普通に動く方が難しいけど、なんとかできた。

 魔神を囲うように回り込む軌道で進む。

 一定のペースで、一定のリズムで、一定の歩幅で。

 やがて歩みを少しだけ遅くした。注視していても気づけるかどうかの僅かな違い。

 その流れから一転して瞬時に魔神への間合いを詰める。ただでさえ目にも追えない100倍強化の移動にフェイントまで混ぜれば反応さえ不可能だ。


 魔神の横を1秒以下の瞬間で駆け抜け、後から発生した衝撃波が魔神を地面に叩きつける。

 その魔神からまた1本の腕が消失していた。

 擦れ違った時に触れたのだけど、うまくいったようだ。まるっきり手応えがなかったから実際に魔神の状態を見ないと自信が持てなかった。


「問題はこれも効果時間かな」


 凝縮していた魔力が霧散する。

 300倍も使って1分ももたないとは。効率が悪いな。

 威力は申し分ないけど、一長一短か。


「っと、切り替えが早いな」


 魔神が残った最後の鎌を振るってくる。

 先程までの4本腕の時より動きに無理がない。なんというか、無駄がなくなったというか。本来のあるべき型になったというべきか。

一流の剣士といえる技量だった。


 それでも100倍強化を施した僕には遠く及ばない。

 敢えて至近で躱しながら呪文詠唱を開始する。


「星々が踊る。

 形は解け、影は溶け、大気に霞む。

 孤独の踊り手」


 今度は周囲に魔力凝縮。

 100倍だけど、数は5個。


 崩壊魔法。


「漂流する星屑」


 僕の周辺を漂う緋色の球体が出来上がる。

 それぞれが『常世の猛毒』を凝縮した崩壊魔法だ。

 触れた物を削り、抉る、攻防一体の魔法。


 至近の間合いで戦っていた魔神が躱せる道理はない。

 手足と腹部を消し飛ばされて宙を泳ぎ、そのまま地面に落ちた。


 さて、だいぶ削ったかな。

 仇とはいえ嬲る趣味はない。

 そして、窮鼠を警戒しないような無謀な教えは受けていない。


 不用心に近づかずにこの場からとどめを刺そう。

 緋色の魔力を展開して『常世の猛毒』を発動。


 魔神が段々と形を失っていく。

 分厚い鱗が消えていく。

 密度がとんでもないので1度では無理か。

 逆に鱗以外の傷口からは抵抗なく消えていくな。

 既に魔神は絶命していると思うが、前回の轍を踏むつもりはないので完全消滅まで徹底的に崩壊魔法だ。

 8割ほどの鱗が消失して再度『常世の猛毒』を発動させようとして気づく。


 鱗の下。

 魔神の頭部。

 隠れていた顔。


 カマキリでも、寄生虫でも、小鱗竜でもない。


「……………………………………人間?」


 2つの目。

 ひとつの鼻と口。

 武骨な顔つきの男。


 人間の顔をしていた。

またも新詠唱。

溢れる中二臭にご注意ください。

そして、当たり前ですが幼女にはなりません。

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