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魔法書を作る人  作者: いくさや
妖精編

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113/238

100 下拵え

連続投稿になっております。

このひとつ前にも1話番外が入っています。

よろしければそちらもご覧ください。

 100


 思うことがある。


 始祖となってから魔力が枯渇することがなくなった。

 限界がどこにあるかわからない。もう魔力が増えているのか止まっているのかも判別できない状態だ。

 感覚的にはなんというかもう成長云々じゃなくてカンストしてるような気がするんだよな。魔力の限界値に到達している気がする。それもただの限界じゃなくて、池とか湖とかじゃなくて海レベルの容量で。


 そんな有り余ってるけど、使いどころが難しい魔力。

 模造魔法では100倍を超えるとおじいちゃんプレゼントの筆もやばい雰囲気なので作ることもできないけど、構成魔法にはその制限がない。合成でも崩壊でもどこまでも魔力を凝縮することが可能だ。


 とはいえ、僕は合成魔法の始祖としての立場を師匠に託している。

 人前で詠唱による合成魔法は使えない。

 事情を知っているのはごくごく少数だ。


 別に今までは使う必要がなかった。

 例えば50倍の凝縮。ふたつぐらいを合成した魔法なら原書レベルだけど、みっつを混ぜたもの……特に強化付与を絡めると天変地異クラスになってしまう。

 崩壊魔法なんて凶悪すぎて模造魔法にさえできないぐらいだし。

 今まで危ない目にも遭ったけど、手持ちのカードでもなんとかなったし。


 それに周囲への被害が大きすぎるのも問題だった。

 魔の森は深部が完全に更地。王都では王宮を消滅させて大穴。ブランの近くには湖ができてしまった。

 僕は環境破壊が趣味ではない。


「はは」


 だけど、いま目の前には崩壊魔法にさえ耐えた魔神がいる。

 人類どころか、この世界に生きる魔族以外の脅威。

 恐ろしい存在だ。


 こんな台詞は不謹慎だと罵られても仕方ない。

 でも、敢えて言おう。


「よく来てくれたね!」


 地面を吹き飛ばしながら全力・・で接近。

 慌てて振るわれた4本の鎌を掻い潜って、地面を砕きながら肘撃で吹き飛ばす。

 水切り石みたいに吹き飛んでいく魔神を追撃はしない。

 間違ってもリエナと巨人の戦いの邪魔にならないように調整しただけだから必要がない。


 魔神はすぐに起き上った。

 武王みたいな内部に衝撃を伝える技はものにできてないからね。鱗が割れたぐらいか。

 魔神は背中から大量の卵を生み出していく。すぐに孵化した小鱗竜が草木や地面に食いついて大きくなっていく。

 それらを魔神は次々と捕食。受けた傷を癒すに留まらず装甲の厚みを増していく。


 それも見送った。

 僕にもやることがある。


 指先に魔力を集中させる。

 属性魔法や回復魔法や付与魔法と違って、法則魔法と召喚魔法は図式が重要になる。不器用な僕は苦手だ。効果対象や持続時間などに問題が出てしまう。認識阻害や方向強制の悪夢は勘弁してほしい。

 とはいえ、合成魔法に組み込んでしまえば破綻しない程度には書けるのだ。練習したから。威力は大魔力でどうとでもなる。


 空中を透明なガラスと見立てて描き出す。

 中央に五芒星。囲む円。四方に術式を内包した円。互いを結ぶ経路。全てを包括する円。

 そして、書き上げると同時に詠唱を開始。


「示すは絶対の理、

 其は理と共にあれ。

 万物の基盤、

 織り為すを支える腕、

 平原を巡り巡る巡れ千間回廊、

 彼方より此方へ、

 低きから高きへ、

 千万の咢よ波頭を散らせ、

 地は天に恋い焦がれる、

 叶わぬと知りながらもその手を伸ばす、

 届かぬ想いが幾度踏み躙られようとも、

 峻厳霊峰、

 三祖の夢幻を万象で示せ。

 其は新たなる世界の希望なり」


 長い詠唱を終えて、魔力を解き放つ。

 紅緋の魔力が術式と魔法陣を大地へと浸透させた。

 地の属性魔法、強化の付与魔法、結界の法則魔法。

 3つの魔法を混ぜた合成魔法。


 その総量、模造魔法の書記を基準にすれば300倍。


「峻厳霊峰」


 地面に落ちた魔法陣が超速度で広がっていく。外円の一点を基点に2乗3乗4乗5乗と際限がないように。

 地平線の向こうまで届いたところで拡大は終了。

 続けて外円から大地が隆起していく。

 高さは天を衝くほど。雲に至るまであとわずか。

 厚さはおそらく1キロ程度。王都の城壁なんて紙みたいなものだ。


 地響きさえ起らない異常な地殻変動の後。

 一部の隙間もない牢獄が出来上がっていた、


 僕と魔神と小鱗竜を閉じ込める闘技場に見えるだろうか。

 表情なんかなくても魔神が驚き戸惑っているのがわかる。

 ああ、察したのかな?当事者だしね。

 これが闘技場なんかじゃなくて、処刑場だって。


「まずは実験」


 50倍の強化を解除して、100倍の強化を発動。

 背面の壁に裏拳を叩き込む。

 僅かに壁が凹んだけど、ビクともしない。

 続けて地面も蹴りつける。こちらも軽く表面が弾けただけ。

 うん。期待通り。


「お待たせ」


 舞台には2人きり。見物客もいない。

 相手は崩壊魔法も効かない規格外。

 300倍もの魔力を込めた会場はちょっとやそっとじゃ壊れもしないし、大森林はずっと東方で安心だ。

 何が安心かって?

 決まってるじゃない。


「これなら」


 呟きつつも一歩踏み込む。

 あ、魔神が衝撃波でぶっ倒れた。

 うわあ、小鱗竜とかグロ画像になっている。

 肝心の僕はというと魔神を通り越してしまっていた。真横を通過して行き過ぎていた。

 うーん。やっぱりこれって慣れが必要だよ。ぶっつけ本番で成功させるリエナはすごいや。

 まあ、僕も無駄に鍛錬を積んでないから目的だけは果たしたけど。

 手には1冊の本。


「加減しないで暴れられる」


 魔神の触手が巻き付いていた原書を奪取成功。

 よかった。破れてない。

 一緒にくっついてきた触手を調べる。うわあ、気持ち悪い。なんか触手っていうかミミズっぽい感じだなあ。


 ……というか、カマキリから嫌なものを連想してしまった。

 皆さんはご存知か?ハリガネムシという寄生虫を。カマキリなんかに寄生して洗脳して利用する虫を。調べるかどうかは自己責任で。

 もしかして、あれ、ですか?


「ひええっ!」


 ああいうのダメなんだよ、僕。

 バインダーから適当に抜き出した基礎魔法で残骸を吹っ飛ばす。

 うわ、触っちゃった。強化の外装ごしでも気持ち悪い。


「……あー、切り替えていこう」


 原書を持ったままだと気を遣うな。

 防壁の向こう側はどうなっているだろう。リエナはもう巨人を倒せたかな?

 まあ、ここより安全なのは間違いないし。

 リエナの感覚ならきっと聞こえるだろう。最近、物理法則じゃ説明できないほどの広範囲かつ精密な感知をしているから大丈夫だ。


「リエナー、これ持っててー!」


 思いっきり原書を壁の向こう側に投げ飛ばす。

 大きく弧を描く軌道をイメージで投擲された原書は雲を突き抜けていった。

 うーん。昔の銭湯の夫婦ってこんな感じだったのかな?壁越しに「ちょっと石けん貸してー」みたいな。ちょっと規模が大きいけど。風情というか、ロマンがあるよね。

 あ、ダメだ。ちょっとテンションが上がってネジが緩んでる。


 ひとつ深呼吸。

 魔神の方もようやく復帰したようだし。

 こちらもおもてなし準備は万全万端抜かりなし。


「まーじんくん」


 全力を出せないってね、けっこうストレスたまるんだよ?

 あれこれとしがらみや制限がかかるのは仕方ない。覚悟している。

 でも、誰だってたまには何も考えずに全力を出したくなるでしょ?カラオケで絶唱とか、夜のバッティングセンターでフルスイングとか。


 僕にそんな機会があるなんて感謝するしかない。

 だから、心の底からにっこりと微笑む。


「あーそびましょ?」

シズ:まじんくん(で)あそびましょ?


魔神さん、逃げてー!



ここでダウン。

もうゴールしてもいいよね?

次回更新はちょっと間が開きますね。

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