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魔法書を作る人  作者: いくさや
妖精編

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90 ミラ

 90


 ブランの国書を読んだシーヤさんの返事は、まず樹妖精内で話し合うので即答できないというものだった。

 当然の対応だ。寧ろ反応としては好意的な感じがする。


 正直、師匠の存在に助けられた。

 師匠に認められた存在というのが想像以上に僕を保証してくれている。

 樹妖精たちは人間たちが騙そうとしているのではないかと疑っても、それに僕が加担しているものとは思ったりしない。

 樹妖精の杖は同族を除けば、生前の妖精が認めた人間しか持てない。触ろうとすれば棘が生えてくる。

 その杖を持てるだけで信用してもらえるのだ。


 今後、妖精間での代表会議を開催するまでどれぐらい掛かるかわからない。

 それでも信頼関係を築く部分が飛ばせたのだ。0から始めるよりずっと早くなるのは間違いなかった。


 始祖の扱いは一部を除いて秘密となった。

 シーヤさんを中心に幹部クラスと案内役たちだけだ。

 さすがの樹妖精も1000年を生きる者はいないので、正直なところ妖精にとってどういう存在が掴みきれていないのだとか。悪感情はないと保証してもらえたけど、それとて『樹妖精は』が頭についている。

 他の種族の考えや因縁全てを把握しているわけではない。


「客人に家を用意しよう」


 張り巡らされた空中回廊をセンさんが案内してくれた。

 回廊は複雑に張り巡らされていて、とても1回では覚えきれない。滞在中は案内人と世話役を用意してくれるらしい。植物操作がなくても地上まで行き来できるけど、歩きでは時間が掛かるので樹妖精の案内は必須なのだとか。また、大樹の上での生活なので火の取り扱いなど工夫がいるので、世話役もなくてはならない。

 移動に関してはリエナなら強化もなしで上り下りできそうだけど、僕は魔法なしだと無理だし、勝手のわからない異種族の生活でトラブルを起こさないためにも世話してくれる人がいるのは助かる。


 空中回廊は歩くと揺れるので根源的恐怖を刺激されるものの、枝の上になると驚きの安定感だった。枝がけた外れに太いので地面と同じ感覚で歩ける。

 家を建ててもビクともしないのだから自然は偉大だ。


 当たり前のように2人同じ家だった。

 とはいえ、部屋ではなく家。ラクヒエ村の実家ぐらいの家なので先日のような苦悩はしないで済みそうで一安心。


「ミラ。来たぞ」

「はーい。いまいくよー」


 センさんが外から声をかけると中から声が返ってきた。

 聞き覚えるのある声で首を傾げる。


(今の声はリラの声だったと思うんだけど)


 声に続いて中から出てきた姿にやはりと思いかけて、すぐに違うと気づかされた。


 出てきたのはリラによく似ていた。

 似ているというより酷似していた。

 鏡写しと言ってもよいレベル。


 でも、別人だとすぐに気付く。おそらく双子なのだろう。

 まず服装が違う。セーターに丈の長いスカート。羽織っているのも白い和服もどき。

 雰囲気もぜんぜん違う。ニコニコと目尻を下げて、ほんわか笑っていると同じ顔の造作でも別人みたいだ。

 なにより一部の体型がまるで別次元の領域……。


「……シズ」

「な、なひ……ん、んん。なにかな、リエナさん?」

「どこ見てるの?」


 下から捻り込むような角度でじっと見つめてくるリエナ。

 僕は固まっていた視線を強い意志で頭上へ転送して誤魔化す。


「どうした?」

「いえ、なんでもありません。そちらは?」


 センさんに不可解そうに見られたのも強引にスルー。

 視線を家の玄関前にいる女性の顔に固定した。


「はじめましてー。ミラだよ。リラちゃんにはもう会ったのよねー?わたしはリラちゃんのお姉さんなのです」


 うわあ。のんびりした話し方する人だな。

 寿命が長いからって話し方までのんびりしなくてもいいだろうに。

 ミラはニコニコと大きく一礼した。


「うっわ」

「シズ?」


 思わず声をもらしたらリエナの視線が再び突き刺さってきた。

 まあ鋭い方なら察しているかもしれないけど、ミラは顔や背丈こそリラとそっくりなのにとてつもなくふくよかなのだ。胸部装甲辺りが特に。今までの最高数値はクレアだったけど、ミラはそれを大きく更新している。

 いや、誓う。僕の至上は猫耳としっぽだ。浮気などしない。

 ただ、あれだけの質量が揺れたりすると驚いて目が行ってしまうのだ。言い訳じゃないよ?本当だよ!?


 と遊んでいる場合ではない。ミラはニコニコしたまま僕たちの返事を待っている。

 待たせるのはもちろん、身体的特徴を影で話すのは失礼だ。


「シズです」

「……リエナ」

「とっても仲がいいんだねー。わたしもリラちゃんと仲良しなのだー」


 なぜかVサインで自慢された。

 性格はかなり違うようだけど、だからこそ息が合うのかもしれない。

 ミラが世話役で、出かける際はリラが案内役になるのだとセンさんが紹介してくれた。

 リラの方は後で来るらしい。さっきの別れ際があるので顔を出しづらいだろう。それにまだわだかまりが解けたわけじゃないし。


 センさんはまだ仕事があるそうなので家の前で戻っていき、僕たちはミラに案内されて家の中に入った。


 家は外観通りの広さで間取りは3LK。

 どうやらミラとリラの姉妹も同居するらしいけど、色々気を付けておけば寝室は違うので問題ないだろう。


 ミラがお茶を用意してくれて僕たちはリビングのテーブルについた、食器から家具まで全て木製なのが樹妖精らしい。


「シーヤさんから原書に関することは世話役の方に伺うよう聞いているんですけど」

「ミラでいいよー。あ、リラもー。それと、もっと気軽に話していいからねー?」


 ナチュラルに話の腰を折ってくるな。あと、妹に確認しないで許可していいの?

 とはいえ、誤魔化しているわけではないのかニコニコとこちらが言い直すのを待っている。


「……ミラ。原書のことを教えてほしいんだけど」

「いいよー。わたしが持っているのは12冊でねー」


 ブホッと思わずお茶を吹き出してしまった。

 あっさり教えてくれたのも意外ならば、それを所持するのもこのほのぼのお姉さんだという事実も、驚くべき冊数も全てが衝撃だった。


 リエナが背中を擦ってくれる中、ミラはニコニコ顔のまま布巾でテーブルを綺麗にすると、そのまま何事もなかったように話を続ける。


「属性魔法の下級が8冊、回復の解毒と付与の強度、召喚の人型、最後に法則の下級結界ね」


 なんか急に流暢に話すようになったな。

 1本1本指を折り曲げながら数えている姿は相変わらずなのに……って、そんなことを気にしている場合じゃなかった。

 話が本当ならとんでもない。属性魔法が下級と言えどもそれだけ揃えばブランの原書戦力をも上回るんじゃないの?


「驚いたー?」

「かなり。すごい数だね」

「でしょー?リラちゃんが頑張ってくれたんだよー」

「なにしゃべっちゃってんのよおおおおおおおおおおおおおおおお!?」


 ドバンと扉を蹴破る勢いで入ってきたのはリラだった。

 どうやら外で入るに入れずにいる内に会話が聞こえて慌てて突入してきたようだ。既に軽く涙目になっている。

 僕たちのことも目に入っていないのか、一直線にミラに突撃して胸倉を掴んで揺さぶりだした。


「原書のことは!妖精だけの!秘密だって!皆で決めたでしょ!」

「うーん。そうだっけー?でもー、お姉ちゃんねー?人間さんにもー、協力してもらった方がー、いいと思うのー」

「私は反対だけど!そういうのも!勝手にやっちゃ!だめでしょ――――――――!?」


 とりあえず、この双子の仲良し具合はよくわかった。

 わかったからそろそろミラを揺するのをやめてもらえないだろうか。色々と眼福な感じで視線を自制するのも限界って、イタアアアアアアア!

 リエナさんが無言で姉妹のやり取りを見つつも僕のもみあげを抓り上げてきたんですけど!


「ん。許し難し」


 なにやら真っ黒なオーラみたいなのを噴出しているリエナさん。


「なにいってんの!?僕は悪くないでしょってイタタタタ!地味に痛い!っていうか、抜ける!もげる!地味どころかメチャクチャ痛くなってきたあ!やめて!捻るのはダメダメダメらめえええええええええ!」


 カオスに陥った場が正常に戻るまで10分ぐらいかかった。


 思いの外早く原書に辿り着けたのは僥倖だったけどさあ。

 これからの共同生活に不安ばかり立ち込めてきた。

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