秋雨
窓に打ち付ける雨粒が奏でる止まない雑音。
それが今は耳障りではなく、僕の心を撫でるようで。
背中を向けてる君が居る。僕が傍に居るっていうのに外ばかり見てる。──雨に嫉妬、なんて馬鹿らしい。くだらない。
声をかけたって振り向いてなんかくれないし。僕の存在を認めていないみたいだ。
雨は止まない。ただそれは無常にも僕の心を濡らし、全て流していく。綺麗な気持ちも、汚い感情も。
僕に向けられていた君の眼は何時だって温かかったのに、今は冷たい雨をじっと見つめるだけで。
…冷たいのは君じゃなく雨でもない。他でもない僕なのだ。
後ろからそっと彼女の髪に触れ、指を通し、その絹糸のような肌触りを愛おしく思う。抱きしめて鼻を寄せれば──女の子の匂いというのか、シャンプーの清潔な香りが漂って。
「ごめん」
彼女の頬が流れるものが、まるで温かい雨のようで。
そういえば君は雨が嫌いと言っていた。理由は何だったか、確か太陽が見えないからとか子供みたいな理由だった。
その時僕は言ったんだ。
雨はいつか止むんだよ、と。
冷たいだけの雨は無いんだよ、と。
──今更思い出してしまった自分が馬鹿みたいだ。
君の細い声が響く。
「…雨は止むの」
僕は頷いた。何度も頷いた。愛おしくて愛おしくて堪らなくて、強く強く抱き締めた。
君の眼から流れる雨が止み、またいつものように明るく晴れる事を願って。
窓の外はいつのまにか静寂になっていて、雨音のノイズは消えていた。