昔話しコメディ改造した「浦島太郎」
むかしむかし、あるところに浦島太郎という心優しい漁師がおりました。
ある日、太郎が浜辺を歩いていると、子供たちにいじめられている亀を見つけました。
「こら! 亀をいじめちゃいけないよ!」
太郎が子供たちを追い払うと、亀が突然しゃべり始めました。
「いやあ、お兄さん! マジで助かりましたわ!」
「うわっ! 亀がしゃべった!」
「お礼といっちゃなんですけどね、わたくしが特別に竜宮城へご案内いたしますわ! 豪華料理、別嬪さん、飲み放題! しかも初回無料!いかなきゃ損でせぇ」
「ぜんぶ無料!?」
「わたくしが、うらで口利きします、とくべつでっせぇ。」
貧乏漁師の太郎は、その言葉に飛びつきました。
しかし、浦島太郎は知りませんでした。
亀の甲羅には小さな名札がついていたのです。
【竜宮城グループ 新規顧客開拓部 営業主任・亀田】
亀は三年連続営業成績トップの敏腕客引きでした。
しかも、いじめていた子供たちは、亀が雇った仕込みだったのです。
「今日もチョロアマ、ひっかかったわ」
「え? 何か言った?」
「いえいえ!さあ背中に乗ってください、めっちゃええところへ連れていきまっせーえ」
太郎は亀の背中に乗って海底へ向かいました。
到着した竜宮城は、金銀珊瑚で飾られた豪華絢爛な建物でした。
入り口には巨大な看板。
【初回無料! 夢の三日間体験コース】
その下には、米粒ほどの小さな文字でこう書かれていました。
【※飲食代・指名料・サービス料・各種税金は別途】
もちろん太郎は読んでいません。
門をくぐると、鯛や平目たちが一斉に頭を下げました。
「いらっしゃいませー!」
奥から現れたのは、美しい乙姫でした。
「まあ、太郎様。お待ちしておりましたわ」
「お、お美しい!」
「うふふ。そんなことを言ってくださるのは太郎様だけですわ」
もちろん嘘です。
乙姫は昨日も別の客に同じことを言っておりました。
「さあ、三日ほどゆっくりしていってくださいませ」
「本当に無料なんですか?」
「もちろん。お部屋代は無料ですわ」
乙姫は微笑みました。
「太郎様、私を指名してくださいます?」
「指名?」
「私がずっとお隣に座って差し上げます」
「そりゃあ、ぜひ!」
乙姫が手を叩くと、酒と豪華料理が運ばれてきました。
鯛の刺身、平目の薄造り、焼き魚に舟盛り。
「すげえ! こんなご馳走は初めてだ!」
しかし、太郎は妙なことに気づきました。
料理を運んでいる魚の使用人たちが、全員青ざめているのです。
「なあ、この鯛の刺身って……」
鯛の給仕係が震える声で答えました。
「……昨日まで厨房で働いていた兄で」
「えっ!?」
「じょ( ^ω^)・・・冗談ですよ。」
「ここで魚料理を出すの、世界観的に一番ヤバくない!?」
乙姫は涼しい顔で答えました。
「竜宮城では地産地消を大切にしておりますの」
「地産地消の意味が怖すぎる!」
それでも宴会が始まると、太郎はすっかり上機嫌になりました。
美しい舞姫が踊り、乙姫が酒を注ぎます。
「太郎様って、とっても素敵!」
「いやあ、そうかなあ!」
「こんなに楽しい夜は初めてですわ」
浦島太郎は鼻の下を伸ばしました。
その後ろでは、巨大なタコが八本の足で帳簿をつけておりました。
【乙姫指名料 金五十両】
【高級酒 金三十両】
【舞姫特別公演 金二百両】
【乙姫への真珠贈答品 金五百両】
太郎は知る由もありません。
竜宮城は、海底最大級の高級キャバクラだったのです。
二日目も三日目も太郎は豪遊しました。
酒を飲み、料理を食べ、乙姫に高価な贈り物までしました。
「太郎様、素敵!」
「はっはっは! 俺に任せなさい!」
そして三日目の夜。
「いやあ、楽しかった! そろそろ村へ帰ります!」
その瞬間、宴会場の音楽が止まりました。
乙姫の笑顔が消えました。
「……帰る?」
「え?」
魚たちが一斉に出口の前へ整列しました。
巨大なマッチョサメが二匹、腕組みをしています。
「太郎様、お帰りの前にお会計がございますの」
「お会計?」
タコが巨大な帳簿を差し出しました。
【ご請求総額 三万八千五百両】
「…………は?」
「三万八千五百両でございます」
「初回無料じゃなかったのかよ!」
「はい。お部屋代は無料です」
「ほかが全部有料じゃねえか!」
「入り口に書いてございました」
「小さすぎるだろ!」
乙姫は優しく微笑みました。
「お金がなければ、分割でもよろしいのですよ」
太郎は契約書を見ました。
【竜宮城特別ローン】
【返済期間:死ぬまで完済まで】
【利息:海底基準変動制】
【地上移住後も債務継続】
「ふざけるな! こんな契約できるか!」
するとサメたちが一歩前へ出ました。
「お客様、こちらへ署名を」
「断ったら?」
「死体で竜宮城でお休みいただきます」
「脱出ゲームみたいになってるじゃねえか!」
太郎は震える手で署名しました。
翌朝、乙姫は何事もなかったように玉手箱を差し出しました。
「太郎様、こちらは記念のお土産でございます」
「もう何もいらないよ……」
「ただし、絶対に開けてはいけません」
「じゃあ、なんで渡すんです?」
箱の裏には極小文字が書かれていました。
【開封による加齢その他の損害について当城は一切責任を負いません】
「昔話に免責事項を持ち込むな!」
太郎は亀に送られ、ようやく地上へ戻りました。
ところが、村の様子がまるで違います。
家も道も変わり、知っている人は誰一人いません。
通りかかった老人に尋ねると、驚くべき答えが返ってきました。
「浦島太郎? 三百年ほど前に海へ消えた若者のことかね?」
「さ、三百年!?」
太郎は思い出しました。
竜宮城の出口にあった小さな看板。
【海底滞在三日間=地上時間約三百年】
「チェックインのときに説明しろよおおお!」
家族も友人も、すべて失ってしまいました。
残ったのは借金と玉手箱だけ。
「もう、どうでもいい……」
太郎は玉手箱を開けました。
すると白い煙が噴き出し、一枚の紙が飛び出しました。
【竜宮城ご利用明細書】
【滞在時間差額 三百年分】
【時空調整手数料】
【三百年分の延滞利息】
【ご請求総額 九十八万七千六百両】
「老化より先に時間を請求してきたあああ!」
その瞬間、煙が太郎を包み、黒髪は真っ白になり、顔には深い皺が刻まれました。
太郎は老人になってしまったのです。
箱の底には、さらに一枚の紙。
【加齢処理完了。なお債務は消滅いたしません】
「そこだけは消えろよ!」
その日の夕方、海から亀が現れました。
「浦島様! 第一回のお支払いについてご案内に参りました!」
「お前えええ!」
「ご安心ください。分割返済が可能でございます」
「いくら払えばいいんだ?」
亀は算盤を弾きました。
「現在のご収入ですと、完済まで約四百八十年でございます」
「死んでるわ!」
しかし契約は契約です。
太郎は村の茶屋で皿洗いを始めました。
朝から晩まで働き、稼いだ金を毎月亀に渡しました。
「今月分じゃ……」
「ありがとうございます! 全額利息に充当いたしました!」
「元金は!?」
「一文も減っておりません!」
「ふざけるなあああ!」
それから何年も経ちました。
太郎は年老いた体に鞭打ち、働き続けました。
村の子供たちは、不思議そうに尋ねました。
「浦島じいさん、竜宮城って楽しかった?」
太郎は遠い目をしました。
「……ああ、楽しかったよ」
「乙姫って美人だった?」
「……ああ」
「また行きたい?」
太郎は突然、子供の肩をつかみました。
「絶対に行くな! 特に初回無料には気をつけろ!」
子供は泣きながら逃げていきました。
そして、ある冬の夜。
太郎はとうとう病の床に伏しました。
枕元には、あの亀が立っていました。
「浦島様、長年のお支払い、誠にありがとうございました」
「……やっと借金が終わったのか?」
亀は帳簿を開きました。
「いえ。まだ九十万両ほど残っております」
「……そうか」
「ですが、浦島様には相続人がおりません。お亡くなりになれば、残りは回収不能と
なります」
太郎は、かすかに笑いました。
「……はは……」
「何がおかしいのでございます?」
「……やっと……お前たちに……勝てる……」
そう言い残し、浦島太郎は静かに息を引き取りました。
翌朝、亀は竜宮城へ戻りました。
「乙姫様。浦島太郎様がお亡くなりになりました」
乙姫は少し寂しそうな顔をしました。
「そう……。とても気前のいいお客様でしたわね」
「残債は貸倒処理いたします」
「仕方ありませんわね。ところで、今月の新規のお客様は?」
亀は胸を張りました。
「ご安心ください! 十二名獲得しております!」
「まあ! 素晴らしい!」
乙姫は嬉しそうに微笑みました。
「では、今日も営業をよろしくお願いいたします」
「かしこまりました!」
亀は再び浜辺へ向かいました。
そして、子供たちに小銭を渡し、いつもの場所でいじめられるふりを始めました。
まもなく、一人の心優しい若者が通りかかりました。
「こら! 亀をいじめちゃいけない!」
亀はゆっくり顔を上げました。
「いやあ、お兄さん! 助かりましたわ!」
そして満面の笑みで言いました。
「お礼に竜宮城へご案内いたしますわ! しかも初回無料で!めっちゃお得!」
若者の目が輝きました。
「無料!?」
亀は心の中で笑いました。
(よし、十三人目 今月も、わいの勝ちや!)
こうして、浦島太郎の悲劇は、誰にも知られることなく繰り返されていくのでございました。
めでたし、めでたし。
……いや、まったくめでたくありません。
教訓:恩返しは、利用規約と料金表を確認してから、タダより高いものはない。
特に、大阪弁の客引き亀が営業してきたら要注意。
コメディ小説 魔改造した「浦島太郎」
完結
漫画化
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