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第23話

 入念な準備に準備を重ねて、ついにその日はやってきた。


「一応確認するけれど、必要以上に表に出ないように」

「はい」

「あなたはアルカナ様が発掘してきた新しい人材として表立っては扱うわ。ダイナとの関係性は可能な限り伏せるように」

「はい、わかってます」


 本日、ついに中央からの貴族が到着する。

 ダイナ君の叙勲式に参加するためだ。

 十の家々から参加者が訪れるらしい。人数にすれば式の参列者だけで三十を優に超えるとか。

 もちろん、付き人などを含めれば数倍に跳ね上がる。

 多い気もするけれど、その分ダイナ君が注目されてるってことだよね。


 同時にそれだけ数がいるということは……おじさんが誰とも接触しないのはほぼ不可能、ということでもある。

 やっぱり、本腰を入れて勉強しておいてよかった。


「一応、中央の連中が滞在している間のあなたの役職は、補佐係付き見習いにしてあるわ。ようは直轄はアルカナ様が、実際にはルピガナが監督しているという立場よ」

「はい。何かあったら、最悪の場合お二人を盾にして逃げろってことですよね?」

「その通り。よくわかってるじゃない」


 アルカナ様と、最終的な打ち合わせを行って。心の準備もできてきた。

 ルピガナさんが直接の上司になるのは不安があると言えばあるけれども、仕事はできる人だとはわかっている。

 というか、おじさんに色々と教えてくれたり、躓いたところを補足してくれたのがルピガナさんだ。


 セクハラさえなければ有能な上司なんだよなぁ。セクハラさえなければ。


「アルカナ様! 一行が到着いたしました!」

「来たわね。それじゃあカメリア。気づかれないように様子だけ伺ってなさい」

「はい」


 誰が重要人物で誰か危険人物か。実際に見た方が早いというのはアルカナ様の弁だ。

 なので、離れたところからこっそり様子を伺わせてもらうことになっている。


「玄関にてもうすぐ到着予定です」

「すぐ向かうわ。それじゃあ、また後でね」

「はい、アルカナ様も」


 ウインクを決めて、颯爽と去っていくアルカナ様の背中を見送る。

 そんなやり取りを側で見ていたダイナ君は、ここにきて口を開く。


「……万が一のことがあれば、左手の親指を内側に握り閉めろ。確認し次第、俺が行く」

「あはは、そうだね。心強いよ」


 ダイナ君は今回姿を見せない予定だ。

 と、いうのも下手に接触させて裏工作や軋轢を生む可能性を極力排除したいらしい。

 まあ、ダイナ君が腹芸とかできる気がしないもんね。おじさんもそう思います。


 ダイナ君が畏まった態度取れるとも思えないし。

 相手がアルカナ様だから許してもらえてるだけだからね?


 それにしても、緊張してきた。

 吸って、吐いて、深呼吸する。

 その最中、服の中に入れていたネックレス――お母さんの指輪に意識が向かう。

 そっと、少し引っ張りだして眺めてみる。


 銀色の輝きは少しも褪せる気配がなく、ただただそこに輝いている。

 ……なんだか、少しだけ心が落ち着いてきた。

 一度だけ指輪をぎゅっと握りしめて、もう一度服の中にしまう。


「それじゃ、行ってくるね。ダイナ君は大人しくしてて」

「ああ。お前を把握できる範囲で待機しておく」


 それってどのぐらいの距離感何だろう。

 ひょっとしてこの城の半分ぐらいまでだったらおじさんの場所把握されてたりする?

 はは、そんなまさか。

 プライベートってものが……ううん、この世界にはなさそうだね。


 ささやかな危険を感じたけれども、その話し合いはまた今度やるべきだ。

 と、いうわけでそそくさと移動して、こっそりとアルカナ様たちの様子が伺えると聞いていたポジションに移動。


 城の玄関は、二階からちょうど見下ろせる形になっている。

 その二階から少しだけ顔を出して、こっそりと様子を伺う。

 もちろん、バレないように屈んで、落下防止用の低い壁の隙間からこっそり目をのぞかせるだけだ。


「よくもまあ大勢で来たものね」

「そちらは相変わらずだな、アルカナ嬢。エンビローグ伯はいつも通り前線か?」

「ええ。よって、留守の間はこのアルカナ・エンビローグがこの城の主よ。エルビム第一王子殿下」


 どうやら、アルカナ様が話している相手が中央から来た王子様みたいだ。

 赤茶色の髪はここら辺では見ない色だ。王族特有の色だったりするのかな。

 それとも、中央の方では普通の色だったりするのだろうか。


「宿の方は? 予定通り迎賓館は開けてあるわよ。使用人用の離れもね」

「では、そちらを使わせてもらおう。予定よりも人数が増えてしまってね。構わないかな?」

「まあ何とかなるでしょ。最悪、使用人の一部には町の宿屋を使わせなさい。幾つか捕まえればまあ何とかなるでしょ」


 というか、アルカナ様はまるで対等の相手のように話をしているけれど、いいのだろうか。

 伯爵と王子では身分差があるよね? 畏まらなくても大丈夫なのかな。

 それとも、それが許されるのが特出戦力ってこと? ダイナ君然り。


「はははっ。やはり、君と話をしていると楽でいいよ」

「私も来たのがあなたの方で良かったと思ってるわ。弟の方は相も変わらず圧をかけてくるんだから……」

「王族としては当然の懸念さ。あまり悪く言わないでやってくれ。父王でさえ僅かな疑念を抱えているぐらいだ。わかるだろう、特出戦力である君自身ならば」


 ふむふむ。今回来た第一王子様は大分アルカナ様に友好的な方なんだね。

 でも、身内の人たちが疑念を抱いていると。

 つまり、これはアルカナ様とこの第一王子様の二人で仕組んだ式ってことなのかな?


「まあ、ねぇ。特に、ダイナが特出戦力扱いされた理由を考えれば、ね」

「君が手放したがらない理由もわかる。だから、せめて無事に叙勲式を終えて害がないことぐらいは確認させてほしい。君が、しっかりと手綱を握れていると、ね」


 ――第一王子様の周りにいる人たちを見回すと、彼の側近なのか貴族の人たちらしき服装の人が十数名いるみたい。

 残りの人たちは……外にいるのかな?

 この話を黙って聞いているってことは、少なくともこの場にいる人たちはこの式に賛成している人って言う認識で良さそうかも。


「……しかし、君の悪癖は相変わらずのようだ」

「悪癖? 何のことかしら」

「拾い癖は直した方がいいと、前々から忠告していただろう?」


 ――第一王子が言い切った瞬間、こちらへと視線が向けられた、気がした。

 実際にこっちを見たのかはわからない。顔は少なくとも、アルカナ様へ向けられたままだ。

 でも、見られたという感覚だけが残っている。


「恵まれた中央と違って、我が領に余裕はないのよね。使えるものは何でも使うわ」

「だからこそ、この領を任せられるというのはあるんだけれどね。何せ、人間たちと違って魔物は予測不能だ」


 やれやれと、しょうがないと受け入れる素振りを見せている。

 けれども、何だろう。

 それまでの和やかな雰囲気から何かが明らかに変わった気がする。


「ここだけの話だ。件の少年は、どれほどの役に立つ?」


 件の少年。ダイナ君の事だろう。


「このアルカナ様の見立てでは……密林戦、入り組んだ地形ではユークリッドと十分やり合えるんじゃないかしら」

「ほう! 随分な高評価じゃないか」

「あいつの生存力、対応力には目を見張るものがあるわ。時間をかければ、このアルカナ様でも危ないかもね」


 二人とも、万が一の想定をしている。

 おじさんはダイナ君が危ない子じゃないって知っているけれど。

 そうでない人たちからすれば、本当に脅威なんだ。


 それはそうかもしれない。

 前世の小学生の時、通学路にやたらと吠えてくる犬がいたけれど、本当に怖かった。

 鎖に繋がれててこちらには来れなかったけれども、その鎖が途切れたら?

 襲われてたかもしれない。


 ダイナ君はその犬なのだ。

 身内相手には優しいかもしれないけれど、外敵とみなせば容赦なく吠えてかみつきにかかる。

 だから、彼らは自分たちも身内だよなと確認しに来ている。


 ようやく正しく状況を把握できたような気がした。


「いやいや、君の口からその言葉が聞けて嬉しいよ」

「なあに、皮肉?」

「いいや?」


 ――今度は、気がしたでは済まない。


「君がそう言うってことは、確実に押さえつけられる算段を見つけているということだからさ」


 そう言いながら、真っすぐこちらを見抜いてくる。

 思わず、後ろに尻もちをついてしまう。

 顔の向きすらこちらへ向いていた。


「……まあ、今日は疲れているでしょう。まだ式典の日までは時間があるのだし、のんびり休暇を楽しんどきなさい」

「そうさせてもらうよ。エンビローグ領は独自の発展を遂げていることで有名だからね、今から町をめぐるのが楽しみだ」

「護衛はきちんとつけなさいよ?」

「それはもちろん。君と違って、私は凡人だからね」


 それで挨拶は終わったのか。

 玄関から人が出て行く足音が響いていく。

 今はもう見えていないはずなのに、未だにこちらを見られているような気さえした。

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