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3、斉藤

 たまり場には、公衆電話とテレフォンカードが必須だ。

 街灯の灯りに群がる虫のように、神社の参道入口の電話ボックスが照らす、灯りの下に集まっている。青野春彦に言われて、斎藤浩介が連絡をして、急ぎ2年の仲間を集めたのだ。

 ボックスで電話を掛けていた奴が出てきて「ダメだ、高階のヤツ電話出ないよ」半泣きで報告する。

「なんだよ、やっぱり旅行でも行ってんじゃねーの」

「家族となんか出かけねーだろ普通」

「じゃあ、やっぱ、南中の方から話しいって逃げたんじゃねーの」

 集まった2年の面々が、所謂ウンコ座りで車座に、口々に苛立ちながら言い合っている。

「おい、ヤバいぞ、マジで殺されるぞ」

 顔をボコボコに腫らした斎藤が焦燥して訴えるが、口を大きく開いたので「いてっ」と、少し傷んだ。

 取り囲んで座り込んだ面々が、斎藤の顔を改めて見て、自分もこうなるのではないかと恐怖を覚える。

 石鳥居の台座に腰かけていた男が立って話の輪に近づき、斎藤の顔を一瞥して「その程度で済んで良かったじゃん」と、薄ら笑いを浮かべ、まるで、面白がっている様にいびつに口角を上げ「もう、うちの大原さんが出てきたら、もうお終いだよ、お前ら早く逃げた方がいいぞ」

 山田の言い草は、斎藤たちをイラつかせたけれど、高階と連絡が取れない事にはどうにも仕様がなかった。本当におしまいだった。

「おい山田、まるで他人事じゃねーかよ」車座に座り込んでいた4人の内の一人が、堪え切れずに言い返した。

「はぁ」山田が大袈裟に反応する。「他人事じゃねえか、俺は南中の奴ら紹介したけど、カツアゲがどうのなんて知らねえからな。ったく、うちの土井みてーなバカに良いように使われやがって」

 確かに山田の言う通りだと斎藤は思う、高階が色気出して土井に言いくるめられた感はある。けれど皆がなるほど、と納得する筈もなく山田に食って掛かり「テメー、もう一遍言ってみろ」といきり立つ。

「まあ、待てよ、俺らがモメても仕方ないだろ」と、割って入り「マジで高階見付けないと、本当に殺されるぞ、最悪、金だけでも返さねえと」

「冗談じゃねえよ、カツアゲしたのだって俺らじゃねえよ」と言い返してくるが

「お前ら、さんざん高階に奢ってもらってたじゃねーかよ、今更、関係ないとか言ってんの?それによ、本当に一度もカツアゲした事ねえの?今回たまたま高階だっただけじゃねーのかよ?」

 山田は自分が関係ないと思っているからだろうか、冷静で的をえているだけにチクリと刺さるが、ヘラヘラとニヤけて話す様は、皆をイラつかせる。

「マジで、もうバックレた方が良いんじゃねえの?」山田が嘲笑うと皆は動揺する。

「そんな事したら今度は、うちの先輩に殺されるんだよ」思わず想像してしまい、腫れあがった顔が引きつる。

「山田、お前は知らねえだろうけど、ウチの先輩、マジで怖えーんだよ、南中もウチも、上が出て来ちゃってるから、大事になる前に高階連れて詫び行くしかねーんだって」

 皆、一同にうなだれるが、山田は素知らぬ顔だ。

「ユーマ、ってか。未確認生物って事は、強いか弱いか分からないんじゃねーの」と、鼻で笑う。

「バカ、見た事も無いくらいの化け物って意味なんだよ」先輩達を思い浮かべたからか、微かに声が震える。

「まあ、俺も2学期から川名中なんだからよ、せーぜー、揉め事は解決しといてくれよ」と立ち上がる。

「なんだよ、帰るのかよ」斎藤も立ち上がってが追いかける。

「おい、ちょ、待てよ」

 山田が輪から少し離れた所で立ち止まると、斎藤に振り返り、口角を不揃いに上げて微笑する。 

「あとは当事者で、バックレるなり、金集めるなりの詫び入れる相談してくれよ。まあ、帰るついでに高階の家覗いておいてやるよ、どうせ土井と一緒なんだろうけどよ」そう言って、暗がりに向き直った。

「ああ、頼むわ」片手を軽く上げて立ち去る山田の背中に言った。

 山田が暗闇に消えかけた所で振り返る。

「大原さんもだけど、お前ら川名のUMAも、名前語る奴なんて他にもいるだろう。なんで今回はバレたんだろうな」

 暗くて表情がハッキリ見えなかったけれど、斎藤には山田が笑っていた様に見えた。

 車座の連中に戻ると、「何だって?」と、不満を露わに訊いてくる。

「ああ、帰りに高階の家を見とくって。あと、土井と一緒じゃないのかって」

「何だよ、じゃあ山田が南中の奴に連絡して探せばいいんじゃねーの」

 山田への嫌悪感むき出しで文句が出る。

「ちくしょう、部外者ぶりやがってよ」

 山田の言っている事は、確かにその通りだと思わせけれど、部外者と言うのは、本当にそう言い切れたものでもない。

 南中の奴にタカリかけようとした時も、川名にやらせようと誘導したのは山田だったきがする。そもそも、山田と会った頃から、川名を下に見ていたと言うより。そういう立ち位置に行けるように立ちまわる様な狡賢さみたいな物を感じたのを覚えている。


 ほんの1か月前、山田が声を掛けてきたのは、高階伸二の家の前で自転車のパンクを直していた時だった。作業に夢中になっていて近づいてきたのに気付かなかった。

「自分ら、川名中だろ、1年って感じじゃないよな、2年?」

 急に声を掛けられて驚き声の方を向くと、坊主頭に剃り込みをいれた奴が不均等に口角を上げて微笑していた。それが山田弘だった。

 思わず立ち上がって向かい合った。体格は決して大きくはないし、威圧感や敵意みたいなのも無かったし、特段、強そうには感じなかった。けれど、嫌な笑顔だった。

「ちょっと、恐いなー、そんな睨むなよ」

 斎藤は言われて、無意識に睨んでいた事の気付いた。本来、そんなに好戦的ではない。体格は小さい方ではないので、喧嘩をすれば2年生の中でなら強い方かも知れないけれど、好んで争う事はしない。3年の先輩達に憧れはあるけれど、とてもじゃないが、あんな根性は持ち合わせていない。町で目が合って「何だコラ」で喧嘩になるなんて事はした事が無い。そもそも、不良と言うよりも、デップつけてサイドバックにして、ボーリングシャツ着てる、ちょっとトッポイってだけの、いわゆる半ツッパってやつだ。それが睨み返すだなんて、何か嫌なものを感じての無意識に防衛本能だったのだろう。

 どちらかと言えば、高階の方が不良っぽくて憧れも強い。おしゃれ角刈りに細く整えた眉を寄せて睨む。

「何なの、お前」

 山田は絡んでくる訳でもなく、高階の自転車を見回して、

「何、絞りハンかよ、おっ、湘爆のステッカーじゃんよ、どーしたのコレ」急に馴れ馴れしくしてくる。

「懸賞、応募して・・・」高階は、悪い気はしない。

「すげーじゃん、本当に当たんのあれって。何、パンク?」

 距離を詰めてくるのに気圧され、呆気に取られているのに気付いて、

「悪い悪い、俺、そこの先の公園のトコに引っ越してきたんだけど」

 高階の家は古い住宅地の端の方で、一区画裏の道から先は、新しく造成された住宅地で、まだまだ住宅は疎らだけど、道路や区画整理の為に換地して引っ越して来る事が多くなったらしい。

 その新しい住宅地の公園の側に、山田は引っ越してきたらしい。

「やっぱ、タメかよ」と、同い年だと分かると、更にくだけてすっかり和んで、3人で座り込んで喋っていた。

「じゃあ、今は南中まで通ってんの?」何でも、1学期から転校するつもりだったけど、引っ越しとか諸々が間に合わなかったので、学期の途中で転校するのも何だしと、転校を延期したらしい。

「いちいち、駅までバスで出て、またバス乗り換えて行くんだぜ、かったるくてよー」

「へー、ウチなんか学校すぐそこだぜ」

「近すぎんのも嫌だな」

 すっかり笑い合って話している。

「二学期からは、川名中通う事になるからよ、よろしく頼むわ」

 山田が口の端を歪ませて引きつる様に笑う。嫌な笑い方だけれど、沁みついたもので、悪意のある笑いではないのだと思った。だとしたら、悪意がある時は、どんな笑い方をするのだろうか。

 それからは、高階の所にちょくちょく寄るようになり、すぐに川名中の連中とも連むようになった。

 いきがって大口を叩く様な事もあるけど、強気でとんがった所は、斎藤も嫌いじゃなかった。反発するかと思ったが、意外と高階と気が合ったようだった。

 それからしばらくして、川名の神社で屯っている所に、山田が南中の奴らを連れて来た。

 概ね友好的な面子だったけれど、土井という奴は違った。一人ずつ値踏みする様にねちっこく、下から上へと視線を這わせる。敵意と言うよりも端から見下している。

「おい土井、人のツレ威嚇してんじゃねーよ」山田が笑って文句を言う。本気で窘めるつもりなど無い。

「いやー、山田の転校先の人達がーどんなモンなんだか、気になっちゃってよー」

 短めのリーゼント風に流したサイドを撫でつけながら、ゆっくり身体を揺らして、そう大袈裟に言いながら顔を近づけてくる。

 こういう時は、最初が肝心とよく言うけれど、土井の仕掛けは結構な効果があり、川名の連中は完全に飲まれていた。

「おい、何のつもりだよ、お前」

 高階だけは違っていて、土井が寄って来ると、前に出た。

 顔を近づけて向かい合う。土井は笑っているが、高階はきつく睨む。

「おいおい、こえーなー、お前が高階だろ、聞いてるよー、川名にも使えるのがいるってよー」土井は顔を歪ませて大きく笑い、わざとゆっくり喋る。

 神経を逆撫でる様な喋り方で、腹ただしいのだけど、不気味で少したじろいだ。高階以外は。

「使えるってのはどういう事だよ、山田、お前かよ、言ったの」

 高階が声を荒げるが、土井には響かず、ヘラヘラと言う。

「そんないきり立つなよ、褒めてんだからよー。なあ、山田」

「高階よー、お前から見て土井は使えるか?南中にとってお前らが使えるって事は、お前らにとっても南中が使えるって事だろ、そういう関係がベストじゃねえ?」山田が珍しく真面目に話す。

「え、お互い様って事かよ、対等つうの?」

 山田がいつもの微笑を見せて、前に出て語りだす。

「たまたま、俺が隣りの学校に転校する事になったからよ、せっかくなら、その方がいいんじゃねーか、大原さんは別格としても、上の代に負けてらんねーだろ、ちったー名前売ってかねーとよ。そう思わねー」

 斎藤は、名前を売ってくだなんて考えた事も無かった。上の代の先輩は、歳は一つしか変わらない筈だけど、ものすごく上の人の様に思っていた。自分たちがそこに近づくだなんて、想像して、身体の中を震えが走った。

 高階も、実感が無いようで「おお・・・」とだけ答えた。

「ただよー対等通にはちっと、足りねー気はするぜー」土井が悪戯に挟んでくる。

「まあ、言われても仕方ねえ所もあるよなあ、斎藤」

 山田に急に振られ、焦って「はぁ」と言うつもりが喉がひっ付いて「ひゃっ」と返事をしてしまう。

 ひゃまだは斎藤に近づいて肩に手を回してくる。

「まあまあガタイもあるし、喧嘩も強いんでしょ?」挑発するような言い方だ。

「なのに、イマイチ気合足ねえって言うか、締まらねえっていうか、そういう所は高階まかせなトコはどうなのよ?」

 そう言って軽く身体を揺すってくる。

「高階の次は斎藤がビッとしねーと、他の奴らも続けねーじゃんよ、なんて言うんだ、そっせん?ってヤツだよ」

 言っている事は良く分かる。気にした事も無い訳じゃない。軽く笑いながら話す山田の言葉に、重さって言うか、結構な事を言っているのに、本心みたいなものが見えないと言うか、伝わらなかった。

「お前らもそうだぜ」川名の面々を煽る。

「そろそろ気合い見せるトコじゃねーのー」と、焚きつける。

 斎藤よりも、他の鈴木達の方が響いたようで、「おーっ」と、手を上げて返事をしそうな程、顔付が変わっていた。乗せられてる様にも見えた。

 土井がまた、ニヤけてゆっくり話し出す。

「川名によー、やって欲し事があんだよー。川名の気合い見せてくれよ」

 どこかで聞いたような言葉が、静かな公園に浮き上がり、まんざらでもない奴らの秘めた決意みたいなモノが、こっそり春の風が冷やした。

 最初は高階も、「ナメられたくない」「気合い見せてやる」そのことに必死で、その一心で引っ込みがつかなくなったんだ。

 山田は、「金には困ってねえよ」と、カツアゲにはそんなに係らなかった。そんな事の為に横で連んだんじゃねーといっていたけれど、知らなっかった様には思えなかったし、川名を煽って躍らせたのは山田の言葉だったし、皆には「俺ぐらいにならなきゃダメだぞ」と言われている様で、なんとなく、少し上に立たれている気分にさせていた。

 結局、カツアゲは高階と斎藤がやる事になった。鈴木や他の連中にまでやらせなくって済んだのは幸いというところだろう。ただ、土井たちが、先輩の名前を使ってやっていたのは知らなかった。信じられないほど身の程知らずの行為だ。昨日、トイレに連れ込まれて初めて知ったのだ。

「ダメだ、つかまらねーよ」

 電話ボックスで心当たりに電話しまくっていた鈴木が諦めて出てきた。

「どーするよ」半泣きで、少し笑える。実際、笑っていた様で「笑ってる場合かよ、そのボコボコ顔で笑うんじゃねーよ、怖えーって」

 周りの奴らも釣られて笑った。少し緊張がほどけた様だ。

「とりあえず、青野先輩に電話しろって言われてたからしてくるよ、土井と一緒だと思うって言うしかないだろ」

「金はどーするよ」

 立ち上がって電話ボックスに向かおうとした所で立ち止まり、音がする程に肩を落とした。

 夜の闇に小僧どもの大きなため息が「はぁ~」ともれて、うす暗い街灯の灯りが、ぱちりと揺れた。


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