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鳴梟荘の事件簿1『ヒュドラ殺し』  作者: 久市来 翠
第一幕

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5/9

 石上杏樹はひとまず捜査本部のある警察署に赴くことになった。

 朝早くに訪ねてきた刑事から、突然父親の訃報を聞かされた彼女は、やはりかなりの動揺を見せた。すぐに帰るという彼女を一旦落ち着かせ、刈安は冷静に事情を説明する。

 「実は、発見されたご遺体がお父上であるという確定が得られていない段階です。正確な身元確認のため、杏樹さんにはDNA鑑定のご協力をお願いします」

 遺体の首がない、という事実はひとまず伏せることにしたようだ。現場を見ずとも惨劇があったという石上家の寝室は、さぞや血腥い光景が広がっていることだろう。そういう耐性がなさそうな女の子を、いきなり遺体と対面させることはやはり避けたい。

 「あの、父はーー何故死んだんでしょうか」

 杏樹は感情を抑えるように静かに言った。

 その腕に大きなフクロウが抱かれている。今日は機嫌がいいらしいマープルは、梁の上から降りてすぐ杏樹の両腕に収まっていた。ミスマッチな気がするが、当のマープルは心配そうに杏樹の顔を覗き込んでいた。

 刑事は逡巡する。

 「……詳しくは、まだ調査中です。争った形跡はありませんでしたが、ご自宅の金庫の扉が開いて、中身は空でした。心当たりはありませんか?」

 娘は首を横に振る。

 「わかりました。警察では、殺人事件として捜査する方針が決まっております。すみませんが、これから行く警察署で色々良くないことを聞かれるかと思いますが、どうかご容赦ください」

 「………承知しました」

 マープルが慰めるようにクルルと鳴いた。

 しばらくして刈安の連絡で別の警察官がやってきた。藤間と久市来の二人も何度か会った事のあるベテランの先輩刑事と、杏樹よりも少し歳上に見える若い女性刑事のコンビだ。

 黒いプリウスの後部座席に、女性刑事と杏樹、そして付き添いのために氷純が乗り込む。ベテラン、半田友成警部は運転席に乗り込む前に藤間と久市来に挨拶しにきた。

 「どうも。最近よく会いますね先生方」

 二人は殊勝な態度で会釈する。

 別に藤間は「先生」と呼ばれるような肩書きは持っていないのだが、警察の面々は藤間と久市来をよくセットで見掛けるので「先生方」とまとめられてしまう。

 実は、刈安を通して事件について話を聞いているうちに二人が意外なアドバイスを提供するようになり、それが事件解決に貢献したことがこれまでに何回かある。だから、今では話を聞くだけでなく、直接現場を見せてもらうことがちょくちょくあるのだ。

 藤間に対する「先生」の肩書きは、もしかして「探偵」としてのそれかもしれない。

 「刈安は先生方の案内役に置いていきます。ご興味がおありでしたら現場にいらっしゃってください」

 久市来の顔が心なしか華やいだ。犯罪の現場にはあまりにも不謹慎な態度である。

 半田警部はわざわざそれを伝えに来たのだろうか。

 「難事件になりそうですか?」

 藤間が少し冗談ぽく聞いた。

 半田は難しい顔をして首を傾げる。

 「まだなんとも。現場検証は既に終了していますが、あまり有効な情報が少なくて」

 「首無し殺人だったそうですね」

 「ええ。悍ましいことをするもんです」

 「まったくです」

 それでは後ほど、と言い残し、ベテラン警部はさっと運転席に乗り込んだ。後部座席の窓から、氷純の険しい視線が一瞬覗いた。

 黒いプリウスを見送ると、手早く外出の支度を済ませ、刈安の車に乗り込んだ。ミセス・マープルには悪いが、大広間で待機してもらうことにする。

 道中、安全運転をしながら3人は石上親子について軽く情報を共有した。

 「改めて聞くけど、なんであの娘がうちにいるってわかった?連絡もせずに来たってことは、ある程度確実性があって来たんだろ?」

 「カレンダーだよ。石上家の玄関に壁掛けのカレンダーがあって、そこに娘の予定が書き込まれてたんだ」

 日付の下の予定欄には二日前から「氷純と温泉」とあった。玄関の郵便物の中には斑目氷純と同じ大学からの封筒が見つかったので、刈安が鳴梟荘へ出向くことになったそうだ。

 「へぇ、今時の女子大生にしちゃ珍しいな。カレンダーの書き込みなんて子供のいる家庭か年配者くらいしかしないと思ってた」

 「今はみんなスマホ使うからな。実際、父親の宗一郎はもっぱらペーパーレス主義だったらしい。予定は全てスマホに入っていて、手帳の類は持っていなかった」

 ああ、そういえば。

 久市来は、以前杏樹が大量のノートを持ってきていたことを思い出した。試験が近いのに氷純がノートを取らないので、わざわざ持ってきてくれたそうだ。

 氷純は効率派で持ち物にこだわらないタイプなのに対し、杏樹は持ち物一つ一つを厳選している。万年筆を愛用し、常に手元に手帳を置いておく。そういう古風なところがある子だ。

 「氷純とはいつ知り合ったんだ?あいつが特定の子と仲良くするなんて珍しいじゃないか」

 「大学入ってちょっとしてからじゃないかな?確か、誘われたサークルだか同好会だかで知り合った…?」

 「なんのサークルだ」

 「……演劇、だったと思うけど」

 「演劇に、興味があるのか」

 段々刈安の質問が事情聴取めいてきた。

 「おいおい、お前は氷純の父親か?もう成人して酒も飲める歳なんだから、放っておいてやれよ」

 さもなくば嫌われるぞ、と藤間がからかう。

 バックミラー越しに刈安が睨みつけてきた。

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