2話 魔王に訪ねられる
もうタイトルからして何かが起こる予感しかしませんね
翌朝、朝食を終えた俺は母と一緒に種蒔きをしていた。
村全体で行う行事になっていて、教会の神父さんから種を貰ってそれぞれの畑に蒔く。
この村の特産であるプキートという作物で、甘みが凝縮されており様々な料理に使用されている。
ちなみに俺はスープが好きだ。
プキートは他の町村にも出荷されていて、なんとトゥラクも対象らしい。
それを聞いた時、俺はしばらく開いた口が塞がらなかった。
最も発展している町まで故郷の噂が届いているのは嬉しい。
(トゥラクもちょっとはマシになったかな……。
といっても、司祭達がグルだっただけだけど)
あれから、教会が何かやらかしたという噂は入っていない。
ふと、母が腰に巻いている革の小袋をあさりながら小さく声を上げる。
「おや、種がなくなってしまったよ。
私は補充してくるから、カルムは続けててくれるかい?」
「ああ、わかったよ」
母を見送って種蒔きに集中する。
1回の時間は短いが、なにしろ畑が広い。
母によれば、朝からやって休憩を挟みながらだと夕方にようやく終わるそうだ。
(母さんは毎年これを1人でやってたのか……。
なんか申し訳ないな……)
母の偉大さを尊敬すると同時に罪悪感を覚えた。
やがて、母が戻ってくる。
俺の進み具合を見て、驚いているようだった。
「もう半分のところまで終わったのかい?やっぱり若者は早いねえ」
「そ、そう?」
(マジで?)
信じられなくて思わず周囲を見回すと、確かに俺は畑の中心に立っている。
冒険者だった時に身についた体力が役に立っているみたいだ。
(本当だ……)
すると、母が思い出したようにポンと手を叩く。
「あ、そうそう!カルムにお客さんが来てるよ。
村の入り口のところにいて、チラチラと中を覗いてたから声をかけたんだ。
そしたら以前助けてもらったからお礼が言いたいって」
「お客さん……?助けた?」
答えながら首を傾げる。
村に帰ってきてから誰かの危機を救った覚えはないからだ。
(もしかしてフロー達か?いや、だったら3人で来るはずだし。
じゃあ魔王達……なわけねぇか。俺の居場所知らねぇし)
「ああ。赤髪で、あんたよりも背が低かったよ。
まだ子どもで8歳ぐらいに見えたけどねぇ。笑顔が素敵な子で――」
その一言で、俺の背中を嫌な汗が一筋流れ落ちた。
慌てて手に持っていた種を小袋にしまって軽く足をのばす。
(9割型魔王だ!!何で俺の居場所わかったんだよ!?)
「わ、わかった!ちょっと行ってくる!」
「カルム⁉その子、ゆっくりでいいって言ってたけど⁉」
「ああ見えておっかないんだよ!」
心配そうな母の声を背中に受けながら、俺は村の入り口までダッシュした。
肩を上下させながら辿り着くと、母の言う通り赤髪の少年が柵の上に両手を置いて退屈そうにこちらを見ていた。
俺は急いで彼に近づいて小声で話しかける。
「魔王さん……ってまだその姿なんですか!?」
「思ったより早かったな。
コレは禁忌だからな……。一生このままだ」
「何したんですか?」
魔王は会った当初は俺よりも背が高かったのに、今は俺の半分ほど。
禁忌を犯したのが原因らしいが、それが何なのか結局教えてもらっていない。
だけど魔王の答えはそっけなかった。
「今話すことでもない」
「そう言って前も教えてくれなかっ――⁉」
言い終わらないうちに頭に鈍痛がはしる。
魔王の右手にはいつの間にかメイスが握られていた。
もはや、俺をボコる専用の武器になっている。
「いてぇ……」
「同じことを言わせるな、たわけ」
(相変わらず理不尽だな⁉)
これ以上突っ込んで聞いてもまたボコられるだけだろう。
諦めて俺は魔王の用件を聞くことにした。
「そ、それで、俺なんかにいったい何の――」
「テナシテが帰って来ん」
「え?」
(テナシテさんが?)
いきなり重い話題をサラリと言われて思考が止まる。
魔王討伐の際、魔王は救済措置としてランダム着地で魔族達を飛ばしたのだが、当然彼もその中に含まれていた。
それから3ヶ月も経つのに帰ってこないらしいのだ。
「テナシテさんも飛ばしたんですか!?」
「仕方あるまい!
我等が完全に消滅したと信じ込ませねばならなかったからな!」
勢いで叫んだ魔王は軽く咳払いをすると、すぐに冷静さを取り戻した。
さすが魔王。
「それで、他の魔族が続々と城に戻ってきている中、テナシテだけが何の音沙汰もないのだ」
「ま、まさか命が……」
「それはない。「墓地送り」にはなっておらぬ。我も毎日確認しているが、形跡はない。だが、何か起こっているのは間違いないだろう」
そこまで言って、ふと魔王は視線を少し左に向けた。
つられて見ると休憩時間なのか、20人ほどの村人達が談笑している。
こんな隅で2人で話していたら、こっちに来いと呼ばれるだろう。
「人が集まってきましたね……」
「そうだな。
それに少し込み入った話になる。移動するぞ」
魔王は俺の返事も聞かずにスタスタと歩きだしてしまった。
(俺の意見聞かねぇのかよ!?やっぱり自分勝手だな!?)
だけど文句を言ったとしてもボコられる未来しか見えない。
呆れながらも後を追った。
連れてこられたのは村の近くにある小さな森だった。
規模が小さいからか危険なモンスターはいないし、戦闘経験のない村人でも立ち入れる比較的安全な森だ。
普段は薪割りや野草を取りに皆がよく訪れる場所だけど、今日は種蒔きの日なので誰もいなかった。
遠くから聞こえる鳥の鳴き声と、そよ風で木の葉が揺れる音だけが響いている。
だけど森に入ったところで、俺の足が止まった。
恐怖――ではないがなんとなく嫌な予感がする。
足音が聞こえなくなったことに気づいて魔王が振り返り、
不思議そうに俺を見た。
「どうした?」
「いえ、身の危険ではないんですけど、何か嫌な予感が――」
だけど俺は最後まで言えなかった。
上から黒い塊が降ってきて、地面に引き倒されたからだ。
でも当然それは塊なんかではなく――
「ヤッホ~、モトユウちゃ~ん!!」
「デュークさん!?」
(嫌な予感ってデュークさんのことだったのか!!確かに命の危険はないけど……。
っていうか魔王ある所にデュークさん有り、だな)
魔王はデュークさんに全く動じず、腕を組んで淡々と話を続ける。
「もちろんデュークにも話した。テナシテのこと知っている数少ない者だからな。
ちなみに移動したのはデュークに会わせるためでもある」
「そうそう、俺が頼んだの〜。せっかくだから連れてきて〜って」
デュークさんは俺に跨ったまま笑顔で言った。
俺の気持ちなんて全く考えていないようだ。
(違ぇ。俺有る所にデュークさん有り、だ……)
「理由はわかったんで、退いてくださいよ……」
「ヤダ」
(2文字で断られた!!)
即答され、反論する気力を失う。
こういう時のデュークさんは何を言っても考えをかえてくれないからだ。
俺は重さを感じたまま魔王の話を聞くハメになった。
なぜデュークがカルムのことを「モトユウ」と呼んでいるかは、『命乞いから始まる魔族配下生活』の2話終盤をご覧ください




