オルゼス
その後、特に何事もなくあっさりとオルゼスに辿り着いたルイたちは夕日に照らされた街の光景を見て目を丸くした。
「もっと寂れた街を想像していたのですが、何故ここまで活気付いているのですか」
辺境の国であるピークランドの最北端に位置する街だというのにオルゼスの街は多くの人で賑わっていた。
行き交う人々や真新しい建築物に加えて出店や屋台が所構わず出ているため賑わっているというよりは最早喧しいほどに街には活気があった。
「ゴールドラッシュさ。この近辺で金鉱山が出てきてね、今から三年前だったかな」
パウエルが説明してくれた通り、よく見れば行き交う人々の中に炭鉱夫と思われる人々が混じっている。
「なるほど、皆金鉱石を求めてこの街に集まってきたということか」
ルイは街並みを興味深そうに見つめていた。
「まぁそういうことになるな。金鉱山が見つかるまでは何もない寂れた村だったんだぜ」
「僅か三年でここまでの街を作ったのか」
「人間ってのはすげぇもんだよな」
パウエルは感心している様な、少し呆れた様な調子で語った。
「うちは先祖代々からこの地域で農耕用の馬を育てていたんだ。広大な土地を使ってな。みんなで力を合わせてこの厳しい土地で暮らしてた。だけどある日、国の調査隊が金鉱山を発見してから俺たちの生活は大きく変わっちまった。元々ここに農地を持っていた者は追い出されたし俺だって土地の大半を奪われちまった」
パウエルの目尻には僅かに涙が浮かんでいた。
「都会の連中は金の亡者ばかりさ。俺たちは力づくで土地を、そして仕事を奪われたんだ。今この街を牛耳ってるのは王国のクソ役人さ。俺は育てた馬を馬車引き用で売って細々と生活出来ているが、農地を全て奪われた連中は坑道に潜るか新しい土地の開墾をしてるよ」
「奪われたなら奪い返せばいいだけの話だろう」
パウエルの話を聞き、率直に思ったことをルイは口にした。
「そりゃあな、出来たらそうしたいさ。けどな、世の中ってのはそういうもんじゃないのさ」
そう語るパウエルは寂しそうに街を眺めていた。
パウエルと別れた後、馬の繋ぎ場がある宿をとった二人は旅の疲れを取るために暫く宿泊することにした。
「力がないのはつまらんな」
「彼のことですか?」
「ああ」
パウエルの話を聞いたルイは心の内に何か引っ掛かるものを感じていた。
恐らくは過去の自分自身と重なるものがあったからだ。
「抵抗することも出来ず、奪い返すことも出来ない、か」
ルイはかつての魔王城に住んでいた自分の姿を思い出していた。
幼い頃のルイもまたパウエルと同様無力であった。
魔王城に勇者たちが侵攻してきたあの日、同胞や家族が次々と倒れて行く中ルイは見ていることしか出来なかったのだ。
後悔をしている訳では無いし、今はもう復讐したいとも思わないが、あのとき味わった無力感と敗北感をルイは忘れることが出来ずにいた。
それから日を跨いで朝となったが、なんとなく動く気分になれなかったルイはもう暫く寝ることにした。
「僕はもう少し寝ることにするよ。お前はどうする?」
「承知いたしました。私は私は買い物と周囲の散策へ出かけて参ります」
仮面の様な無表情でそう言ったセリカは早速部屋から出て行った。
そしてルイは布団を被り再び眠りにつくのだった。
街へと繰り出したセリカは人混みの中を馬を連れて歩いていた。
あれからと言うもの、暴れん坊だった馬はすっかり大人しくなっており、セリカの言うことにも従順に従った。
「よしよし、いい子ですね。そういえば折角旅を共にするのですから何か名前をつけなければいけませんね」
どうせルイは名付けなどしないだろうと思い、セリカは勝手に名前を付けることにした。
「そうですね、ラファールというのはどうでしょうか。足も速そうですし」
その名前の意味を知ってか知らずか、セリカに名付けられたラファールはバヒヒンと満足気に鳴いた。
「これからあなたに会う馬車を探しに行こうと思うのです。力の強いあなたならば一頭でも大きな馬車を引けそうですね」
セリカは長旅に備えて大きな馬車を買おうと思っていた。
それは食料や荷物をなるべく多く運ぶためなのだが、ラファールの餌も大量に必要となるからだった。
ルイの収納魔法も無限に入れることは出来ないので、ある程度は馬車に乗せて運ばなければならなかった。
馬車を売っている場所を探して街を巡っていると、セリカはこの街の風景から感じ取れるものがあった。
「人間というのは欲の深い生き物ですね。自然と共に生きていれば良いものを、自然を破壊してまで豊かさを得ようとしている。なぜ魔族はこの様な生物に負けたのでしょうか」
金鉱山によって発展した街などその欲望の最たるものではないかとセリカは思った。
胸の内にこういった思いを秘めながらも人の形を模した異形は川の様に流れる人混みに紛れていった。




