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魔族狩りの二人

 夜の静寂を切り裂く様に鋭い悲鳴が街に響いた。

 ズタボロに引き裂かれて転がっている死体の前に立っているのは戦闘態に変身した魔族だった。

 魔族は戦闘態になると人とは大きくかけ離れた姿に変貌する。

 イタチの様な姿をした魔族の男は死体に罵倒し始めた。

「思い知ったか、このクズめ! 雑魚人間の癖に調子に乗りやがって」

 イタチの魔族は死体に蹴りを入れた後、唾を吐きかけた。

 人間に擬態して街で生活していたイタチの魔族は酒場で呑んでいたところ、この死体となった人間に喧嘩をふっかけられ、この様に路地裏で殺害したのだった。

 魔族は暴力至上主義だ。

 強い者が正義であり、口だけが達者な者は蔑まれ、命を奪われてしまう。

 イタチの魔族は男の死体に小便でもかけてやろうとしてズボンをずらしたとき、背後から強い殺気を感じた。

「何だぁ、何者だテメェ」

 イタチの魔族の前に現れたのは口髭を蓄えた初老の紳士だった。

「私は魔族を殺す者だ」

「殺す? お前が俺をか。ケッ、腐った金玉袋をぶら下げた様なジジイが戯言を口にするな」

「相変わらず貴様らは度し難いな野蛮で下品で愚かな存在だ。死んで生まれたことを後悔するんだな」

 老紳士は背中に担いだ巨大なノコギリを握り、構えた。

 イタチの魔族は妙な武器だなと訝しむ。

 ノコギリは木を切るための道具であり凡そ武器に向いているものではない。

 ……耄碌したクソジジイが。

 心の中でそう罵倒したイタチの魔族はシャッと短く息を吐いて老紳士に襲いかかった。

 容易く殺せると思っていたが、想像以上の反応速度で攻撃を防がれイタチの魔族は狼狽した。

 そして驚くことに老紳士の膂力はイタチの魔族を上回っており、鍔迫り合いに入った途端軽く押し負けてしまった。

「何……だとぉ!」

 そして老紳士はノコギリを一振り、胸部を斬り裂かれたイタチの魔族はそのあまりの痛さに絶叫し、苦痛に悶えた。

「何だよクソ、痛てぇじゃねぇか」

 そしてこの一撃を受けたとき、何故老紳士が敢えてこの武器を選んでいるのかをイタチの魔族は直観的に理解した。

「テメェ、ふざけんなよこの野郎!」

 この老紳士は魔族を痛ぶって殺すことを至極の喜びとしているのだ。

 酒に酔っていても分かるむせ返るような血の匂いがこの老紳士から発せられている。

 それは彼が多くの魔族を葬って来た証拠に他ならなかった。

「私は魔族を痛ぶって殺すのが大好きでね。ズタズタに切り刻んで痛みに悶え命乞いをするその惨めな姿を見ていると思わず絶頂しそうになる」

 イタチの魔族は老紳士に対して苛立ちを覚えながらも先ほどの戦いで相手の方の実力が上であると理解したので逃げる算段を始めていた。

(クソっ、ついてねぇぜ。だが逃げ足なら人間には負けっこねぇ)

「こいつでも食いやがれ!」

 イタチの魔族は男の死体を片手で持ち上げ、老紳士に向かって投げつけ、老紳士がそれを優しくキャッチした隙をついて素早く逃げ出した。

「おーい、ナナコー。そっちに行ったぞー」

 老紳士が大声でそう言った瞬間、イタチの魔族の目の前に若い黒髪の女が姿を現した。

 どけ、と言葉にするよりも前に目の前の女を殺してどかそうとイタチの魔族は鋭い爪を構える。

 女もそれと同時に腰に差してある刀を抜刀、数合切り結んだ結果、イタチの魔族はまたもや押し負けてしまい身体中を浅く斬り刻まれた。

「畜生、何なんだこいつらはーッ!」

 イタチの魔族はたまらず女に背を向けて逃げ始めた。

 こうなれば恥も何もない、生き延びることが優先される。

 逃げ足には自信がある、足の遅い人間には絶対に追いつかれない。

 イタチの魔族は逃げ切ったことを確信した瞬間、耳元で聞こえるはずのない声が聞こえて来た。

「逃がす訳がないでしょう」

 どうして俺の横に……とイタチの魔族が思った瞬間、彼の視界がぐるりと一回転した。

 地面に落ちていくその目で捉えたのは首を斬られた己の体。

 そのとき、イタチの魔族は自分がこの女に首を刎ねられ殺されたことに気がついた。

 だが時すでに遅し、イタチの魔族は首の切断面から噴水の様に血を吹き出して血の海に沈んだ。

「これでまた一歩、魔族絶滅に近づいた」

 物言わぬ死体となったイタチの魔族を見つめながら女はそう独りごちた。

「流石はナナコ、素早く仕留めましたね」

 少し待つとゆっくりとしたペースで老紳士が姿を現した。

「先生は遊び過ぎなんです。わざと逃しましたよね」

 ナナコと呼ばれた少女はむすっとした様子で頬を膨らました。

「いやいや、私も鈍ったと言うことさ」

「まさか、かつて魔王軍の幹部と渡り合った冒険者が例え鈍ったとしてもあの程度の魔族を取り逃すなんて有り得ませんよ」

 ナナコがそう言うと老紳士はニヤッと笑った。

「まあね。とはいえ私ももう歳だ、手柄は後進に与えようと思ってね」

「あと二十年は現役ですよ先生は」

 そんなやり取りをするこの二人の左胸には同じ徽章が付けてある。

 法の神、レクスを象徴する天秤の徽章。

 彼らは魔族絶滅を目指して活動を続けている組織、聖浄機関のメンバーである。

「こんな僻地まで足を運んだのですからもう少し成果が欲しいところですね」

「そうだね。魔族の集落が何処かにあるという噂だがこの辺の魔族どもは口を割らなかった。地道だが足を使って探し出すほかあるまい」

「そうですね」

 そうして魔族絶滅を掲げる二人は夜の闇に紛れて消えていった。

 微かに匂う血の香りを残して。

 

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