9.連絡船
アサコちゃんはついに力尽きてしまいました。海に落ちてしまったのです。
「もう駄目だわ。アサコはここで死んじゃうのかしら」
実体のあるアサコちゃんがそう言うと、空を飛べるアサコちゃんが必死の思いで持ち上げようとします。けれどもなかなか空に浮かび上がりません。
「ああ、もう、すっかり疲れてしまって空に上がらないわ。どうしたらいいのかしら」
そのとき、お父さんとお母さんの笑顔を思い出しました。
「こんなところであきらめてはいけないわ。必ず、生きて帰るんだから」
その願いがどこかの星にでも届いたのでしょうか。水平線のかなたに何かの光が見えたのです。それは星ではないようです。光はどんどん大きくなるように感じます。こちらへ近づいてきているのです。
「あれはきっと船よ。船だわ。助かるわよ」
ふたりのアサコちゃんは一生懸命、手をふりました。
その船は、嵐のなかにいたときに、時間をとても長く感じたのにくらべると、あっというまに近くまで来てくれたように思えました。小さなボートが船からやってきて、ふたりのアサコちゃんは海から助け上げられました。助けてくれたのはなんと、一匹のカッパでした。
「はい、おふたりさん、おめでとう」
カッパがそう言うので、アサコちゃんたちは思わず泣きそうになりました。
「あたしたち、助かったのね。まだ生きているのね」
「そうですとも。おふたりさんとも強運の持ち主ですよ」
カッパの言葉にホッとしたのか、アサコちゃんたちはなんだか急に、カッパの姿がおかしくなってきました。実体のあるアサコちゃんが言います。
「ふふふ。あなた、本当にカッパなの。頭にお皿なんかのっけちゃって。恥ずかしくないの」
「実際、わたしはカッパなんですから、恥ずかしいも、恥ずかしくないも、ありません」
ちなみにですね、とカッパは続けます。
「あの大きな船はお化けの国への連絡船です。あなたたちを超光速でお連れいたします」
超光速でお化けの国へ行けると聞いて、ふたりのアサコちゃんの心に元気がよみがえりました。いよいよ、お化けの国とやらに行けるのです。そこはどんな世界なのでしょうか。
「そう言えば」
実体のあるアサコちゃんが言いました。
「あのお化けはどうしたのかしら。今ごろ、どこでどうしているのかしら」
カッパが答えます。
「ご心配ありません。彼は優秀なお化けですので、おそらくは、すでにお化けの国に到着していることでしょう」
「そうなの。それならよかったわ」
アサコちゃんたちは気がつきました。最初はあれだけ、きらいだったお化けのことを、いつのまにやら心配していたのです。どうしてなのかな、とも考えてみましたが、ただ、一緒に夜空を飛んだ楽しさだけが心に温かく残っているのです。
「今、何時かしら」
ふたりのアサコちゃんが聞くと、カッパが教えてくれました。
「日の出まであと一時間、といったところです」
「えっ、もうそんな時間なの」
「安心してください。この連絡船は超光速で、お化けの国まで直行いたします」
ボートが連絡船に収容されると、ふたりのアサコちゃんはカッパに連れられて客室まで案内されました。
「どうぞ、ごゆっくり」
ばたん、と客室の扉が閉まってから、十秒後のことです。カッパが忘れ物にでも気づいたのか、引き返してきました。
「どうしたの。何か忘れたの、カッパさん」
ふたりのアサコちゃんがカッパを見つめると、カッパは首を横にふりながら言いました。
「いえ、忘れ物ではありません。到着をお知らせにきたのです」
「到着って、もう、お化けの国に着いちゃったの?」
「はい。日の出まであと一時間ですよ。急いでください」
超光速ってそんなに速いものなのか、と思いつつ、ふたりのアサコちゃんは連絡船をおりました。ついにアサコちゃんたちはお化けの国にたどり着いたのです。




