7.アサコちゃん、空を飛ぶ
「さあ、ここからは空を飛ばなくちゃいけないんだ」
お化けが言ったとき、ふたりのアサコちゃんはビルの屋上に立っていました。
「空を飛ぶの?」
「そうだよ。きみは半分お化けなんだから、できるはずだよ」
「ちょっと待ってよ」
実体のあるアサコちゃんが言いました。
「あたしは無理よ。人間として生きているわけでしょ。とてもじゃないけれど、空なんて飛べないわ」
「きみたち、まだわかっていないんだね」
「え、」
「きみたちはふたりでひとりなんだよ。ふたりで力を合わせないでどうするのさ」
さあ、ぼくは先に行くからね、と言ってお化けは空に舞い上がりました。ふたりのアサコちゃんも、もたもたしているわけにはいきません。
「いちかばちか、飛ぶしかないわね」
そう言う実体のないアサコちゃんはすでに一メートルほど浮かび上がっています。
「なんだか面白いわ。体がないみたいにふわふわするの。さあ、あなたも飛んで」
「無理言わないでよ。あたしはぴょんぴょんジャンプするのがせいぜいなのよ」
「じゃあ、あたしにつかまって」
飛べないアサコちゃんは実体のないアサコちゃんにしがみつきました。そして、ビルの屋上から足が離れていき……
ふたりのアサコちゃんは見事に空を飛びました。夜の空を飛んでいると、宇宙に迷いこんだみたいで胸がときめきます。
「うわあ、すごくきれい。夜空がこんなにきれいだったなんて」
「おーい、早くついておいでよ。きみたち、もっと速く飛べないのかい」
「とても無理よ。あたしたちはひとりでふたりを空に浮かべているんだから」
アサコちゃんにとって、それははじめての体験でした。飛行機にも乗らずに夜空を飛んでいるのです。どこを見ても星がきらめいています。ふと、下を向けば、街灯りがこれまたきれいに輝きを放っています。こんなにすてきな景色が見られるなんて……、アサコちゃんはお化けになるのもまんざらじゃないな、などと思いました。
「おーい、早くおいでよ」
前を行くお化けが、少し、かわいらしく思えてくるのでした。
「お化けって楽しいのね。あたし、お化けになっちゃおうかしら」
実体のないアサコちゃんが言いました。それを聞いて、もうひとりの飛べないアサコちゃんが言います。
「だめよ、そんなの。もしもアサコが死んだら、お父さんとお母さんが悲しむわ。きっと泣いてしまうわ」
「それもそうね。でも、こんなに楽しいことってはじめて。まるで夢のなかみたい。いいえ、夢のなかよりも楽しいわ」
いつしかアサコちゃんたちは、夢中になって空を飛んでいました。
それにしても、お化けの国はいったい、どこにあるのでしょう。空の上、雲の上にでもあるのでしょうか。道案内のお化けはどこまでも飛んでいきそうです。
「あら、街灯りがなくなったわ」
飛べないアサコちゃんが気づきました。実体のないアサコちゃんも言います。
「本当。下のほうは真っ暗になってしまったわね」
「どうしたんだい」
お化けがふり向いて聞きました。
「ここがどこだか知りたいのかい」
「あたしたち、今、どのあたりを飛んでいるのよ」
「秘密だよ」
「えー、なんでよう」
「さっき言ったじゃないか。お化けの国がどこにあるのか知ってしまうと……」
「あっ、そうか。死神にとりつかれてしまうんだったわね」
「そういうことさ。だから、わかりにくいところを飛んでいるんだよ。きみたちのためだよ」
お化けって案外、いいやつなのね、と思ったアサコちゃんたちでした。




