6.道中問答
ふたりのアサコちゃんはお化けのあとに続いて、そっと家を忍び出ると、夜道を歩きはじめました。
「お化けの国ってどこにあるの」
ふたりのアサコちゃんが聞きました。するとお化けはこんなことを言います。
「お化けの国がどこにあるかって? そんなことを知ってどうするんだい」
「ただ、なんとなく知りたかっただけよ」
「知らないほうがいいと思うなあ」
「どうして」
「お化けの国がどこにあるのか、知ってしまった人間はね、そのとたんに死神にとりつかれるんだよ」
「死神ですって」
「そうさ。会ってみるかい?」
「いやよ。死神なんかに会っちゃったら、それこそ本当に死んでしまいそうだわ」
「うふふふふ。よくわかっているじゃないか」
アサコちゃんはふたりとも、なるべくお化けから遠ざかって話をしています。お化けが話を続けます。
「どうして死神ではなくって、ぼくが迎えにきたのか、わかるかい?」
「わからないわ」
「それはね、きみたちがまだ、死ぬことを認めていないからさ。人間はね、知らず知らずのうちに顔に死相を浮かべたり、不吉な前兆に見舞われることで、自分の知らぬまに死神を呼んでいるのさ。だからきみたちは半分しか死んでいないんだ」
「ちょっとむずかしい」
「そうだね。わかりやすく言うとね、きみたちは死ぬはずがないんだよ。それなのにどういうわけか、ふたりに分かれてしまったうえ、ひとりはもう、完全に死んでいるに等しい」
「え、」
「最初にぼくが追いかけたアサコちゃん、きみはもう、実体がないんだよ。きみの声は誰にも聞こえないし、きみの姿は誰からも見えない」
「そんな。じゃあ、あたし、死んでいるの?」
「そういうことになるんだけれどね、不思議なのはここからなんだ」
お化けはひと息ついてから話を続けます。
「もうひとりのアサコちゃんは完全に生きているんだ。これはどういうことか、というとね……、アサコちゃんは今、ふたつの運命の上に乗っかっているんだよ」
「どういうこと」
「つまりね、アサコちゃんのなかには、これから死のうとする未来と、これからも生きようとする未来がまじり合っていたんだ。それが今夜、どうしたわけだか、きれいにふたりのアサコちゃんとして分かれてしまったのさ。だからこそ、お化けの国へ行かなくちゃならないんだ」
「どうしてお化けの国へ行かなくちゃいけないの」
「きみたちは半分、生きている人間であるにもかかわらず、半分、お化けになってしまったからさ。そんなことはこの世界では許されないんだよ。お化けになる資格があるのか、それとも生きている人間に戻るべきなのか、どちらかひとつを選ばなくっちゃいけないんだ。それを判断するためにも、ぼくがお化けの国へ案内するってわけ」
実体のあるアサコちゃんが言います。
「あたしは生きているわけでしょ。それなのにお化けの国へ行かなくちゃいけないの?」
「そうだよ。きみたちはあくまでもふたりでひとりの人間なんだから」
さあさあ、こんなところで話しているあいだにも時間がなくなるよ、とお化けが言うので、ふたりのアサコちゃんは一緒になって聞きました。
「時間って?」
「ふたりに分かれちゃった人間は次の日の朝日が昇るまでに運命を選択できないと、地獄へも天国へも行けずに死んでしまうんだよ。そしてその魂は二度と命を得られないんだ。つまり、生まれ変わることすらできなくなるんだよ」
「そんなのいやよ」
「じゃあ、ぼくの言うことを聞いてお化けの国へ行くことさ。さあ、もっと早足でぼくについておいで」
お化けは夜道を迷うこともなく歩いていきます。アサコちゃんはふと、気がつきました。
「待って。まだパジャマを着替えていなかったわ。いったん、家に戻れないかしら」
「うふふふふ。そのままでいいよ。よく似合っているよ」
お化けはどんどん行ってしまいます。ふたりのアサコちゃんは、二度と生まれ変われなくなるのはまっぴらごめんです。髪を軽く手でとかすと、お化けと一緒に早足で歩いていくのでした。




