5.お化けの国へ
「そんなことよりも早く寝たほうがいいわよ。楽しい夢を見るんだったでしょ」
お母さんはちょっとあきれた調子で言いました。
「早く眠らないと、あしたの朝、自分で起きられなくなるわよ」
そこへまたしてもお化けが顔をのぞかせました。
「きゃっ、お化け」
そのときです。お化けがはじめてしゃべったのです。
「アサコちゃんとアサコちゃん。ぼくが見えるだろう」
「見えるわよ」
「見えるわよ」
「そうかい、そうかい。うふふふふ。きみたちは半分、お化けになってしまったんだね。ああ、おかしい。あはははは」
「何がおかしいのよ」
「何がおかしいのよ」
「だって、ぼくが見えるのはお化けだけ。ぼくの姿はお化けになった人間にしか見えないんだよ。つまり、きみたちは半分、死んでしまったのさ」
「なんですって」
「なんですって」
お父さんがいらいらしはじめます。
「おい、アサコ。いい加減にしないか。冗談もあんまりしつこいとつまらないぞ」
お母さんもあきれています。
「お父さんはお仕事で疲れて帰ってきたのよ。悪ふざけもたいがいになさい」
「だって、お化けが変なことを言うのよ。アサコが半分、死んでしまったなんて言うのよ」
「いい加減にしなさい!」
お父さんが大きな声で怒鳴りました。
「お父さんはそういう冗談が大きらいだぞ。死んだなんて言うもんじゃない」
アサコちゃんは泣きだしました。
「だって、だって、アサコにはお化けが見えるんだもん。お化けになった人間にしかぼくの姿は見えないって、そのお化けが言うんだもん」
「もう、勝手にしなさい」
お父さんは泣いているアサコちゃんをほったらかしにして一階へおりていってしまいました。お母さんもさすがに付き合いきれないといった様子で言いました。
「もう、ふざけるのはやめにして、早く布団に入りなさい。そうすれば楽しい夢が見られるわよ。じゃあね、おやすみ」
ふたりのアサコちゃんは泣きながら部屋のドアを閉めました。お化けはすぐそばで薄笑いを浮かべています。
「うふふふふ。どうしてぼくがやってきたのか、教えてあげようか」
「ほっといてよ。お化けなんか大きらい」
「まあ、そう言わないでよ。ぼくはきみたちを、お化けの国まで案内するのが仕事なんだから」
「お化けの国?」
ふたりのアサコちゃんは泣くのをやめました。お化けの国とはいったいなんでしょう。これからこのお化けは、ふたりのアサコちゃんをお化けの国まで案内するというのです。アサコちゃんたちはお互いの顔を見つめて、小声で言いました。
「お化けの国……なんだか怖いわ」
アサコちゃんの怖い夜は、もうはじまっているのです。




