4.見えないアサコちゃん
「お化けなんて、何も見えないけどなあ」
お父さんは上着をぬぎながら言いました。ふたりのアサコちゃんが聞き返します。
「お父さんもお母さんも本当に何も見えないの?」
お母さんが言います。
「見えないわよ。だいたい、お化けなんているわけがないでしょう」
お父さんが言います。
「アサコ、もう夜も遅いんだから寝たほうがいいぞ」
けれども、ふたりのアサコちゃんはお化けが怖くて、二階の自分の部屋まで行くことができません。
「お父さん、アサコの部屋までついてきてよ」
「やれやれ、しょうがないなあ。もう小学三年生だっていうのに夢で見たお化けが怖いのかい」
「夢じゃないわ。ほら、今もお父さんのとなりで気味の悪い笑いかたをしているわ」
「ふう、わかった、わかった。それじゃあ、一緒に部屋まで行ってあげるよ」
お父さんはふたりのアサコちゃんを後ろに連れて二階へ上がっていきました。そのあいだ、アサコちゃんはふたりとも、いつお化けが来るかと思うと、気が気でないのでした。そんな気持ちのまま、お父さんと一緒に自分の部屋に入っていくとき、当然のように言いました。
「お父さん、布団がひと組しかないわ。アサコはふたりいるんだから、もうひと組ほしいわ」
「え、」お父さんが意外そうな顔をしました。
「何を言っているんだい。布団はひと組あれば充分じゃないか」
「アサコはふたりよ」
それを聞いて、お父さんは妙なものでも見るかのように、アサコちゃんのほうを見ました。
「変なことを言うなあ。お化けがいるとか、アサコはふたりだとか……夢でも見ているんじゃないのか」
「お父さん、アサコのことが見えないの?」
ふたりのアサコちゃんは声をそろえて叫んでいました。お父さんが答えます。
「何を言っているんだよ。見えるよ。だけどもちろん、ひとりだけだよ。アサコがふたりもいてたまるかい」
その言葉にふたりのアサコちゃんは互いの顔を見つめてしまいました。
「お父さんにはあたしたちのどちらかしか見えていないんだわ」
「あなたが見えていないんじゃないのかしら」
「いいえ、きっとあなたのほうよ」
ふたりのアサコちゃんが言い合っているところへ、お母さんがやってきました。
「あら、アサコ。まだ寝ていなかったのね」
お父さんが言います。
「アサコったら少し変なんだよ。さっきからひとりでしゃべっているんだよ」
ふたりのアサコちゃんは言います。
「やっぱり、お父さんにはひとりしか見えていないのよ」
「じゃあ、もしかして、お母さんにもアサコはひとりしか見えないのかしら」
「きいてみましょうよ」
「どっちがきく?」
「ジャンケンで決めましょう」
ふたりのアサコちゃんがジャンケンをはじめると、お父さんとお母さんが顔をしかめて言いました。
「何をしているんだい」
「アサコ、いったい、どうしたのよ。ひとりでジャンケンなんかして」
「えっ、じゃあ、お母さんにもアサコはひとりしか見えていないのね」
「そりゃそうよ。当たり前じゃないの」
お父さんとお母さんには、アサコちゃんが片いっぽうしか見えていなかったのです。




