フランスからやって来ました。どうもトレーナー界の大谷翔平です!
トレセン学園・春の朝
「日本に、ついに来たか……」
15歳にして世界を股にかける新米トレーナー、リアム・フジサワは、薄曇りの朝の光の中で深く息をついた。フランスでは、彼の名を知らぬ者はいない。8歳でデビューし、これまでに何人ものウマ娘を凱旋門賞へと導いた“奇跡の少年トレーナー”。だが、今日から彼はトレセン学園の新米トレーナーとして日本での挑戦を始める。
「……自己紹介、か。久しぶりだな」
校門前には、春風に揺れる桜の花びらが舞っていた。リアムは大きく胸を張り、校舎の方へ歩みを進める。日本での新しい生活、新しい挑戦――そのすべてが、胸を高鳴らせる。
講堂に入ると、ざわめく視線とカメラのフラッシュが迎えた。異国の地で迎える初めての自己紹介の場面だ。リアムは一歩前に進み、静かに口を開いた。
「わたしはリアム・フジサワ。フランスから来ました。どうぞよろしくお願いします」
講堂内には、驚きと好奇心が入り混じった視線が向けられる。だがリアムの目は、すでに未来のレース、そして運命の出会いに向けられていた。
校舎の廊下は、授業後の柔らかい光に包まれていた。リアム・フジサワは一人、校庭の桜を眺めていた。春の風が頬をくすぐる。
放課後
「あ、あの...そこのトレーナーさん!」
元気いっぱいの声に振り向くと、赤い瞳と笑顔がまぶしいキタサンブラックが駆け寄ってくる。
「本当にフランスからやって来たトレーナーさんで間違いないですか!? 噂は本当だったんですね!」
リアムは軽く微笑む。
「ああ、そうだよ。私はリアム・フジサワ。フランスから来たんだ。よろしくな」
キタサンは両手を胸の前で握り、跳ねるように身を揺らす。
「よろしくお願いします! わたし、キタサンブラックです! お祭りみたいに元気で明るいのが取り柄です!」
すると、彼女の横から、淡い鹿毛の長髪を揺らすお嬢様――サトノダイヤモンドが静かに歩み寄る。
「……トレーナーさん、はじめまして。私、サトノダイヤモンドです。キタちゃんと同じ栗東寮で同じ中等部一年生です。」
ダイヤは控えめに頭を下げるが、その瞳は凛としていて、芯の強さを感じさせる。
リアムは彼女の声に耳を傾け、軽く頷いた。
「サトノダイヤモンドか。君も……君たち二人が、この学園で未来を切り開くウマ娘なんだな」
キタサンは少し興奮気味にリアムの腕を軽く叩く。
「ねぇ、トレーナーさん! 放課後ですし、少しお話しませんか? 一緒におやつでもどうですか?」
ダイヤも微笑みながら答える。
「……私も少しだけ、お付き合いさせていただきます」
三人は校庭のベンチに腰を下ろす。桜の花びらが舞い、春風が吹き抜ける。
「フランスではどのようなウマ娘を育てていらっしゃったのですか?」キタサンが身を乗り出すように訊ねる。
リアムは目を細め、思い出すように語った。
「いろんなウマ娘を育ててきたんだ。世界中のレースで勝った子もいる。でも……君たちに会うために日本に来たんだ」
キタサンの瞳が一瞬、きらりと光る。
「えっ……それって、もしかして……私たちのこと、運命の出会いだと思ってくださっているんですか?」
ダイヤも目を細め、少し顔を赤らめる。
「……そんなこと、本当にあるのでしょうか。でも、不思議な気がいたします」
リアムはにっこり微笑む。
「わからないけど、でも君たち二人と一緒なら、きっと楽しいことになる気がする」
キタサンは腕を組み、大きく頷く。
「よーし! ではトレーナーさん、私たちと一緒に全力で駆け抜けましょう!」
ダイヤは優しく微笑む。
「……一緒に頑張らせていただきます!トレーナーさんよろしくお願いします。」
春風に桜の花びらが舞う中、三人の新しい物語が、静かに始まった。
桜の花びらが舞う校庭のベンチに腰を下ろした三人。キタサンブラックが紙袋から取り出したカラフルなキャンディをリアムに差し出す。
「はい、トレーナーさん。まずは糖分補給ですよ! お祭り気分で元気いっぱいになれます!」
「ありがとう、キタちゃん。じゃあ遠慮なく…おお、甘くて美味いな」
隣のダイヤも、慎ましく持ってきたクッキーを差し出す。
「……こちらもどうぞ。トレーナーさんのこと、少しでも元気づけられればと思いまして」
リアムはそっとクッキーを受け取り、口に運ぶ。
「ありがとう、ダイヤちゃん。……日本のお菓子ってほんとに美味しいんだね。それとも3人で食べるから美味しいのかな?」
キタサンはにっこり笑い、元気よく答える。
「うふふ、それはもちろん、三人で食べてるからですよ! トレーナーさんが一緒だと、もっと楽しいですから!」
ダイヤも微笑みを浮かべる。
「……はい、そうかもしれませんね。トレーナーさんと一緒にいると、嬉しい気持ちになります」
ふとキタサンが真剣な顔になる。
「ねえ、トレーナーさん。今日から私たち、正式にトレーナーさんのウマ娘として契約させてもらってもいいですか?」
ダイヤも頷く。
「……私もです。トレーナーさんと一緒なら、どんなジンクスや困難も乗り越えられる気がします」
リアムは笑いながら手を差し出す。
「いいよ。でもいきなり二人以上の娘と正式な契約は新人の私には無理がある…じゃあ仮契約ってことで、今日からよろしくな!」
二人は同時に手を差し出し、リアムの手にそっと触れる。
「よろしくお願いします、トレーナーさん!」
「はい、よろしくお願いいたします、トレーナーさん!」
三人の間に、静かで確かな絆が結ばれた瞬間だった。




