私はハンナ……らしい
っ、痛い……。
目が覚めたやいなや、頭に痛みが走った。
……風邪? 昨日何していたっけ?
しかし記憶を遡るが寝ぼけているのか全く思い出せない。
とりあえず早く起きて薬でも……。
そう思い、私は体を起こした……が。
「え?」
部屋が……古めかしい異国の雰囲気だった。いや実際に古いのかもしれない。少なくとも、この部屋に時代錯誤のものはなさそうだ。
電灯もない。壁も床も天井も天然ものしかない。意外にも窓は大きく明るい部屋だ。
ドッキリ……いやそんなことをする友だちはいない気がするし、完成度が高すぎる気が……あれ? 友だち……誰かいたっけ。
「うん?」
ふと、視線を下ろすと胸のあたりまである髪が揺れた。私はゆっくりと思ったより小さな手で流れる髪を撫でる。
髪が……長い。そういえば声も高い。まるで子供のような声だ。
……いや子供の声、なのか。
「ハンナ? 起きたの?」
ドアが開き、入ってきたのは黒髪の女性だった。一見地味だけどその碧い眼だけは焼き付けられるような印象だ。
誰だろう。今までこんな人会ったことないはず……。
「どこかが痛いとかはある?」
女性は私に歩み寄り、そう聞いてきた。
「あたまが――」
あれ? そういえば頭の痛みが消えてる。じゃあ何だったんだろう、あの痛みは。
「いえ、どこもいたくないです……」
「そう……」
少し言葉を途切らせ、私を見つめる女性。
――なんとなく、次に聞かれることがわかった気がする。
「ハンナ、やっぱりどこか調子がおかしいんじゃない?」
「…………ここはどこですか」
その瞬間、女性は目をわずかに見開いた。
……意外と驚いていなさそう? でもすぐに返事が返ってこないし――。
「ほんとにここがどこかわからないの……? ここはハンナの寝室なのよ?」
言っていることはかなり重いはずなのに声の芯があまり揺れない……そんな落ち着きを感じる。
「そうだったんですね……」
「……もしかして、私のことも覚えていないの?」
私は視線を逸らし、俯く。
「私はマリア、あなたのお母さんよ。本当に何も覚えてなさそうね……他に何か覚えてることはない?」
さっき薬を取りに行こうとした時、葛根湯が浮かんだ……とは言えないか。そもそも、葛根湯が何かわからないし。
「……とりあえず何か食べよっか」
………
……
…
しばらくして、お母さんは野菜スープにパンを漬けたものを持ってきてくれた。ゆっくりと湯気が上がっておりとても美味しそうだ。
……正直、味が薄くて単調だけどあたたかい。何だろう。随分とこんなに暖かいごはんを食べてないみたいだ。
「……あら? そんなに急いで食べなくてもよかったのに」
ゆっくり食べていたはずがいつのまにか器は空になっていた。
そんなにお腹空いていたような気分ではなかったはずなんだけど。
「今日はもう日が暮れるしゆっくり休みなさい」
言われて外を見るとすでに空は青暗くなっていた。
私ってこんな遅い時間に起きたんだ。
「はい」
私は短く返事をして、再びベッドに戻る。意外にも再び眠りに入ったのはすぐだった。




