父から娘へ
俺は長距離トラックドライバーのリョウヘイ。
トラックにはド派手な電飾と、龍の装飾。
遠くからでも一発で俺のだと分かる。
こないだ、娘――マナツと大喧嘩してしまった。
面と向かって謝るのがスジってもんだが、どうにも不器用でな。
それで俺は思い切って、娘がいつも聴いてるラジオ番組にメールを送った。
柄にもなく、“お便り”なんてモンを書いて。
深夜の勉強中、いつもマナツが笑って聴いてる番組。
その時間、俺もカーラジオのチューニングを合わせた。
…読まれるだろうか。俺の想い、娘に届くだろうか。
「それでは、普通のお便りのコーナーです。
ラジオネーム“夜行龍ドライバー”さんからのお便り——」
読まれた。
俺の拙い言葉が、ラジオの電波に乗って流れていく。
あいつ、聴いてくれてるだろうか……。
そのとき、ラジオの声が一変した。
「——報道部からニュース速報です。現在、世界各地でゾンビ化テロが発生しています。危険ですので、決して外に出ないでください。繰り返します……」
何を言ってやがる。
ゾンビ? テロ?
嘘みたいなニュースが現実になった瞬間だった。
「おいおい……まったく俺って男はさあ。今さら何泣いてんだよ俺は……」
リョウヘイは涙を拭い、ギアを上げた。
「なんであのとき、もっとちゃんと話してやれなかったんだ……!」
「待ってろよ、マナツ。シホ。俺が迎えに行くからな!」
俺はアクセルを踏み込んだ。
トラックのエンジンが唸る。
愛する家族のもとへ――一刻も早く。
高速を外れ、住宅街へ向かう。
視界の端を、異様な動きの人影がよぎる。
ラジオが言ってた、ゾンビだなあれが。あれもあれも!
あれも、あれも、あれも……!
ハンドルを切り、トラックがゾンビを撥ねた。
白竜が描かれたド派手なデコトラが、
ゾンビの血肉で真っ赤に染まっていく。
元は人間だったゾンビどもを轢き、跳ね飛ばし、踏みつぶしながら、
俺は家へ向かって猛スピードで突っ走った。
トラックが夜を、闇を裂く。
月明かりに照らされた屋根の上。
そこに――妻とマナツの姿が見えた。
マナツが手を振っていた。片手には、
俺が昔「オバケガデルゾー」って怖がらせた懐中電灯。
あれを持って、待っててくれたんだな――。
俺はクラクションを鳴らした。
「おーい!!ここだ!!!ここだここだここだ!!!」
トラックのクラクションを連打する。
「おおーい!!!」
リョウヘイの大声が、夜空に溶けていった――。