母危機一髪を編集
まったく、あの人もマナツも……謝ればいいのに。頑固なんだから。
そう思いながら、私はキッチンでおにぎりを握った。娘の夜食にと、少しでも力になれればと。
「マナツ、台所におにぎりあるからね。勉強、リラックスしてね。じゃあ、お母さん寝るね」
「うん、ありがと」
今夜も暑い。
雨戸の閉まった窓を開け、網戸にすると、ようやく夜風が流れ込んできた。
ほっとする。
さてと。ラジオのタイマーもセットして寝ることにしましょう。
寝床に横になり、ラジオのタイマーをセットする。
リビングに響くのは懐かしい音楽。
あの子も好きな懐かしい曲だわ♪
「ラジオネーム“お受験娘の父”さんから!」
あら、今のって、リョウくんの名前読まれなかったかしら? 娘へって……。
あの人ったら、直接マナツに伝えればいいのに。まったく。ふふっ……
私はそのまま寝落ちしてしまった。
*
ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン。
玄関のチャイムが鳴る音で目を覚ます。寝ぼけながら玄関へ向かう。
「はーい、どなたですか?こんな 夜遅くに……」
「これってラジオドラマじゃないってことだよね!お母さん! 出ないで! 靴もってこっち来て!!」
2階からマナツの声が響いた瞬間——
玄関のカギを開けてしまっていたた。
玄関の扉のチェーンがかかっていてよかった。
扉の向こうにいたのは……人間とは思えない、“何か”だった。
赤く濁った目。腐ったような皮膚。よだれのような液体が口元から滴り落ちている。
言葉では表せない不気味さと、本能的な恐怖に、背筋が凍った。
目の前にいたのは、人間とは思えない“何か”だった。
2階から、ラジオの声が届いてくる。
「……危険ですので、外へ出ないでください。繰り返します……」
チェーンが、ギシリ、ときしんだ。
私は玄関から一歩、後ずさった。
娘の声が再び、階段の上から響く。
「お母さん! 早く! 靴もって、上に来て!!」
私はようやくその場を離れ、娘に手を引かれ階段を駆け上がった。
——こんな夜に、ゾンビだなんて。
でも、これは夢じゃない。
ラジオと、チャイムと、あの“モノ”が証明している。