3.缶詰ってほんと
文章がバラバラな感じが
だいぶ落ち着いたところで扉をコンコンとノックする音がした。
「殿下、商人が来ております」
最近父王がつけた騎士だった。そして、ただの近衛騎士ではなく、近衛騎士団第2隊長フェルマ・サージスであった。彼のような人間がシフト制の護衛にあたることは本来ない。
ベルナールは精霊が見える近衛騎士があまり好きではない。彼らは一国の近衛騎士ではなく精霊王が選定し推薦したもの。つまり精霊花を守る者たちであった。しかし彼らはベルナールの護衛についたときはあまり良い表情をしない。一部を除いてほとんどの精霊がベルナールのことを避けており、近づいていく精霊も外れ物と言わる精霊で見えるものにとっては避けたい存在であった。そのため近衛騎士はベルナールを不気味に思っていた。
「わかった。今行く」
「失礼ですが、商談中お部屋に同席させていただきます」
「…わかった」
結局ベルナールは匂い袋とアロマオイルを購入しただけだった。商会の話は今後伝達魔法を使用して行うときめた。
それからの1週間はベルナールは部屋にほとんど缶詰にされた。魔法の練習にもサージス隊長が同席すると言い出したためだ。精霊が見えないベルナールが上級魔法を使用できることは変な方向に誤解されるため、魔法練習を自粛することになった。ほかにも、なぜか図書館の利用ができなくなったり、商人も呼べなくなり、部屋を出るのは王家の食堂で食事をするときだけとなった。
徐々に行動制限がされていく中でついに父王と謁見の日となった。
ベルナールが予定時刻に謁見の間に入るとそこにはマリウスがいた。マリウスも少し驚いた様子で一礼をしてくる。コクリとうなずきを返し、続いて父王が宰相を引き連れて現れた。ベルナール、マリウス両方が礼をとる。
「よく来た二人とも。楽になさい。早速本題に入るが、ベルナールおそらくお前が言いに来た件は精霊花のことだろう。精霊花は」
「陛下、これ以降は私がご説明いたします。」
「ああ、任せる」
「ベルナール殿下、お久しぶりにございます。こちらで勝手にマリウス殿下を招待させていただきました。見ていただいた方が早いかと思います。」
説明もおざなりに宰相はマリウスを手招くと袖をまくるように指示を出す。
マリウスは気まずそうに袖をあげた。そこには鮮やかな紫苑の花が一輪咲いていた。
ベルナールは息を詰まらせた。
「ベルナール殿下、おそらくあなたの腕の精霊花は跡形もなく消えていると思います。精霊花の印は精霊王と精霊花の承認があれば移すことができます。殿下には申し訳ないとは思います。ですが、殿下ではこの国を任せることは出来ません。日々の素行、王家の仕事、そしてなにより精霊花の印を持つにもかかわらず精霊が見えないこと。以上の理由により殿下の王位継承の順位繰り下げ、次期精霊花ではなくなったことをお伝えします。このことは精霊花継承の儀、来月に儀式と同時に公表いたします。なお上級貴族には先の会議で内々に報告をしています。ご留意ください。」
「ベルナール、気を落とさぬように。そういえば、そなたが魔法の練習をよくしていると聞いている。だが精霊が見えないものは上級魔法を使用することはできない。もう、無理に魔法の練習をする必要はない。今後は…」
ベルナールは王や宰相が何か言葉をかけているのを途中から聞けていなかった。ベルナールの中で必死に保っていた最後の何かが、かすかな音を立てて潰れた。
その後はいつの間にか部屋に戻っており、部屋の中がめちゃくちゃになっていた。
これだけ暴れれば近衛騎士が入ってきてもおかしくはないがよく見ると部屋全体に強固な結界魔法が展開されていた。防音使用の結界なので外に音が漏れていないようだった。
そのままベルナールはその場に倒れこんだ。
「陛下失礼いたします。」
近衛騎士団第2隊長フェルマ・サージスは定期報告に来ていた。
「ベルナールの様子はどうか」
「お部屋に戻られるまで、一言も話されておりません。また、その後も部屋からは物音ひとつせず、夕食時に声を掛けましたが、要らないとだけ」
「ベルナールは精霊花の印に執着していたからな、それをなくしたとなれば、怒り狂うかと思ったのだが。それ以上にショックが大きかったか。これまで精霊花の後継、次期王として、厳しくしてきた。しかし、宰相、上級貴族、そして精霊王の総意としてベルナールに王は勤まらないと判断された。かわいそうだが、国のためだ」
ベルナールは深い眠りに落ちていた。無意識に魔法を使い心を殻で覆う、とても強力魔法で。
精霊花の継承の儀までベルナールはほとんど口をきかず、部屋に誰も入れようとしなかった。食事も1週間に3,4回ほどしかとらなかった。
その報告を受けた父王がベルナールに夕食を共にするよう伝えたが、ベルナールは体調が悪いといって断った。
以前までは、夕食の誘いをベルナールからしていた。一度もそれには顔を出していない。
そういえば、夕食を王家の食堂でベルナールと共にしたのはいつだっただろうか。それどころか朝食の席すらここ3年は共にしていない。
執務や精霊花を移すためにマリウスとはよく話をしていた。仕事からそのままの流れで何度か夕食も一緒に取っている。先日ベルナールから話があると連絡がきたため謁見したが、その時ベルナールは何か話しただろうか。
最後は王様しっかりが言いたかった