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魂の重さ

作者: 雉白書屋

 ついに魂の存在が証明され、政府を交え研究機関から世間へ向けて大々的に発表された。

 と、言えば世にいる宗教家たちが「なんだそんなことなど我々は昔から知っていたぞ」と証明することができない癖にフン、と鼻の穴を広げ笑っただろうが、重要なのはそこではない。問題はそう、『魂の重さ』にあったのだ。

 人は死後、体重が21グラム減るという。その昔とある医師が計測し、割り出した数値であり、それが魂の重さ。

 実際は魂に重さなどなく、ただ体の水分が蒸発しただけに過ぎない、というのが長年、正しい説とされてきたが、それは間違いであった。

 魂には確かに重さがあった。が、しかし、最近の実験結果によるとそれは21グラムもなかったのだ。

 ひょんなことから開発に成功したその装置により、魂が肉体から離れる瞬間を観測。それはタバコの煙が空気に霧散するように、一瞬だけ、その死者の顔を空に描き、消えていくわけだがその後に測定した結果、世代により魂の重さにばらつきがあることが分かった。

 老人は重く、逆に若ければ若いほど軽い。それは魂が、精神が経る歳月により磨かれ言わば熟成しているのではと考えられたが、違った。どのような人生を送ろうとも、その重さは生まれた年により固定されているようなのだ。

 つまり、昔に生まれたものは魂の量が豊富であり、逆に最近生まれた者は魂の量が少ない。

 その理由は簡単だ。増え続ける人類。パイの数は限られているということ。

 問題は、それが人間にどのような影響を与えるか。それは今の若い世代を見れば明白であった。

 かつて、不景気な時代に生まれ、夢や希望を持たなくても最低限の生活ができればいいという考えを持った若者たち。彼らは『さとり世代』と呼ばれたが、今の若者は『無気力世代』

 自発的に動かない。指示しても動きが緩慢。自由時間はボッーとただ画面を眺め、たまにボタンを押すだけのゲームに興じるその姿から餌を待つ猿や犬のようだと揶揄される『無気力世代』の彼ら。

 それも仕方がなかったのだ。魂の量が少なければ感情も鈍く、絵や映画、本、漫画、スポーツ観戦、旅行、何をもってしても心を熱くさせることはない。

 しかし、さすがにその彼らもこの発表がされた時には憤慨した。前述の通り、限られたパイ。それを老人共が食い溜めているのだ、と。

 人類が増え続けていると言ってもこの国では少子高齢化社会。先行きは暗い。それを照らす光は怒りの炎。火炎瓶。

 暴動が起きたのだ。狙われたのは年寄りだが、そう器用に暴力が留まるはずもなく、火は燃え広がり、人々は争い合った。たとえ、目の前で相手を殺してもその恩恵にあずかれるのは恐らく次の世代であり、自分の魂の量が増えるわけではないのだが、殺人による高揚。満たされていく感覚が殺した相手の魂を吸収したのだと錯覚させた。

 この緊急事態に政府は慌てて発表した。


「魂を持っているのは人だけではありません! 動物、昆虫だって持っているのです! こ、殺すならそれらを!」


 つまり……今まで通りでいいのか。苦し紛れとしか聞こえないその声明を人々はすんなり受け入れ、騒ぎは収まった。

 元々、その大半が無気力世代。熱は長く続かない。そもそもこの発表をした者たちも何か悪いことが起きるかもしれないけどまあいいか、と『投げやり世代』

 今じゃ、どの国も戦争を起こす気力なし。これを平和と称し、人は変わらず増えて増えて、奪い奪い、星の命を蝕んでいく。魂が枯渇するまで……。

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