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日南河さんはホールケーキが食べ切れない

 決戦の日は近い。


「おー、ついに明日はまりえさんの誕生日か。プレゼントは決まったか?」

「いんや、決まらん!」


 俺は頭を抱えていた。


「改めて思うが、まりりんって何が好きなんだ?」

「俺は知らないけど、大抵の女子は服か宝石かとか何かじゃないか?」

「アイアム学生、無理言うな」

「いっその事直接聞いてみたらいいんじゃないか?」

「……」


 確かに一理ある。考え抜いた末に買ったプレゼントがお気に召さないどころか、逆に不機嫌の素になってしまったりしたら、目も当てられん。その場で切腹が妥当だろう。




「あ、あのー」

「……どうしたの?」


 何故か先日の縦笛の日以来、まりりんから妙な壁を感じる。俺、知らない間に何かやってしまったのだろうか?

 既に切腹案件を踏んだのだろうか?


「まりえさんって好きな物とかあります?」

「んー……特には」


 無かった。これは予想していない事態だ。

 無ければ送りようがない。無を送る訳にもいかない。何としても何かしらの手掛かりを得なくては……!


「食べたい物とかあります?」

「んー……今はケーキ、かな」

「ほうほう」


 これはピッタリな品物だ。ケーキならばお財布的にも問題は無い。


「この前ケーキバイキングに行ったんだけど、ショートケーキの小さなホールを一つ食べてからじゃないと他のケーキを食べられないシステムで」

「それは厳しいのでは?」

「うん。ホールケーキ食べ終える前にお腹いっぱいになっちゃった」


 まりりん殺しにも程があるぞい。


「だから他のケーキも食べたいなって」

「……委細承知仕った」

「え?」

「全て私めにお任せ下さいませ」

「?」

「では」


 やる事が決まれば後は実行のみ。俺はまりりんに頭を下げ、颯爽とケーキ屋へと向かった。




「……たっけぇ」


 甘ったるい匂いが立ち込めるケーキ屋で、俺の財布君が悲鳴をあげていた。折角だからと評判の良いケーキ屋に入ってみたが、値段の違いに目玉が飛び散りそうになっている。


 質を下げる訳にはいかない。が、無い金は出せない。


「お決まりですか?」

「あっ、ふえっ!」


 全集中の最中いきなり話しかけられ、思わず言葉につまる。

 柔らかい雰囲気の笑顔が綺麗なお姉さんが、トングをカチカチする仕草がとてもかわいく感じた。


「すみません、イチゴショートとチョコを一つずつ」

「はーい」


 てな訳で、高級なケーキは二つのみだ。



「いらっしゃいませー」

「すみません、イチゴショートとモンブランを一つずつ」


 その足で別なケーキ屋へ。ここでも二つだけ。



「いらっしゃいませ」

「イチゴショートとチーズケーキと──」


 五店舗くらい回ってケーキを集め、ふと気がついた。


「……やべ、いつ渡そう」


 勢いで買ったが、明日の放課後に家帰ってまりりんに渡すとした、買うのは明日で良かった説が……いや、五店舗も回る時間が……だがしかし……うーん……どないすっぺ。


「……龍樹くん?」

「──まりえふぁん!? ──っとと!!」


 青天の霹靂ならぬ、路上でまりりんだ。咄嗟に落としかけたケーキを持ち直す。


「どうしたの? あ、ケーキ。いっぱいあるけど……全部食べるの?」

「いや、これは……その」


 最悪の展開だ。まりりんにプレゼントするケーキが本人にバレてしまった!

 誰か! 誰か解決策を教えてくれー!!


「龍樹?」

「あ」

「天ヶ崎さん」


 藪から棒ならぬ、路上で天ヶ崎嬢だ。なんか嫌な予感がして逃げたくなった。


「ケーキメッチャあるけど?」

「いや、これは……」

「誰にあげるの? まさか自分で食べるつもりなの? よく見たら全部違う店のやつじゃん」

「そ、それは……!」


 天ヶ崎嬢にも質問され、焦るしか出来ない俺。

 もう覚悟を決めるしか無いのか……!!


「こ、これは……まりえさんに……」

「えっ?」

「……ふぅん」


 腕を組み疑いの眼差しを向ける天ヶ崎嬢。出来ればこうなった以上あなたには帰宅を願いたい。


「えっ? えっ?」


 まりりんは訳が分からないといった感じで驚いている。そりゃそうだ。何も言ってないもん。


「もしかして誕生日かなにか?」

「──あ!」


 天ヶ崎嬢の一声でまりりんに察しの光が差した。両手で口元を押さえ俺とケーキを交互に見ている。


「えっ!? えっ!? 龍樹くん、それ──」

「まりえさんにです」

「ええっ!!」


 メチャクチャ驚きまくりのまりりんは、とにかくケーキを見ては「そんなに!?」と目を丸くし、俺を見ては「龍樹くんが!?」と信じられないと言った顔をしては忙しくしていた。


「龍樹……」


 と、天ヶ崎嬢が肩掛けバッグから生徒手帳を取り出した。なんだ、何が起きるんだ? てか帰って。マジで。


「ほい」


 ケーキに驚くまりりんに気付かれぬ様に、そっと俺に見せてくる。


「ほいほい」


 トン、トン、と生年月日が指さされた。

 日付は明日。まさかの誕生日被りである。


「私もケーキほし──もごっ」


 咄嗟に天ヶ崎嬢の口を塞いでしまった。感染対策とかなんたらは今だけは許して欲しい。ケーキの箱を持った手でしているので、出来れば今すぐに除菌をしたい。


「──ぶはっ! 何するの!?」

「何でもないです」


 これはまりりんの為に買ったケーキだ。一つたりともやるわけにはいかん。何より欲しがればまりりんは必ず『おひとつどーぞ』するに違いない。心優しいまりりんの事だ。間違いなく『もひとつどーぞ』まであるに違いない……!!


「龍樹くん」

「はい!」


 ピッと姿勢を直し、敬礼……は出来ない。ケーキが飛ぶ。


「これ、ホントに私に? 私の誕生日知ってたの?」

「とある情報筋から知りました」

「アイツね」


 ソイツの事である。


「そんなにケーキ買うほど好きならさっさと告っ──もがっ」


 再度口を塞ぐ。ケーキが飛んでないか心配だ。


「──ぶはっ! まりえさん。今から家に言ってもいい?」

「え? あ、うん……大丈夫な筈」

「そ、良かった。それなら、これからまりえさんの家に行きましょ?」

「は?」


 何を行っているんだこの天ヶ崎さんは。


「ケーキ、渡すんでしょ?」

「まあ」

「ここで渡すの?」

「……あ」


 五箱もあったらまりりんの可愛いお手々では持ちきれないではないか!! なんたる不覚! なんたる失態! なんたる非情!


「行っても大丈夫ですか?」

「うん。こちらこそごめんね。ありがとう」


 てな訳で、いきなりまりりんのお宅訪問と相なった。どーすんだこれ……。


「じゃ、行きましょうか」

「「え?」」


 何故か一緒に歩き出す天ヶ崎嬢。

 まさかコイツ……まりりんのケーキを食うつもりじゃないだろな!?

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