表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/15

日南河さんはライターが押せない

「やっぱり夏は花火だよな!」


 夜、暇人と書いてテラスと読むアホから、電話が入った。外ではカエルの鳴き声がハイパーうるさいがコイツの声も中々にうるさい。


「なんだいきなり、暑さでやられたか」

「ふふふ、龍樹よ。俺の家の裏には特大の空き地がある。勿論ウチの敷地だ」


 ピンと来た。俺がこき使われる未来が、だ。


「まさか……」

「そう、そのまさかだ」


 勿体ぶる照に、俺はさっさと推測をぶつける事にした。野郎と長電話する程の暇はない。


「買い出し、草刈り、テント設営。そして当日の雑用係だろ」

「ハハハ、流石は我が友だ! 察しが早くて助かる」

「断る」

「無論、日南河さんも〜」


 なんということだ。コイツは日南河さんが来れば何でもする奴だと思っているのか。クソがっ!


「チクショー! やれば良いんだろやれば! まりりんが草むらで蚊に刺されたら末代まで香るからな!」

「香ってどうするだ、香って……ああ、後」

「まだあんのか!」

「ああ」


 コイツは俺を何だと思ってるんだ……。


「よ、日南河さんの為なら何でもするマシーン」

「人の心を読むな!」

「ハハハ、てなわけで明日明後日は俺の家の鉄工所を手伝え。バイト募集中だ」

「な!」

「俺もやる」

「何故!?」

「花火代だ」

「…………」


 確かに。そりゃあ花火やるんだから花火を買うマネーが欲しいわな。

 クソぉ……なんで俺が奴らの為に花火を。


「俺はみんなの為、お前は日南河さんの為。オーケー?」

「ぐぬぬ……」


 断る口実が無くなった。全ては日南河さんの為だ。


「……わかった。やる」

「うむ、物わかりの良い友達を持って助かるよ。じゃ、明日朝六時に家の前に来い」

「はえーな!」

「2日で花火代を調達するんだから仕方ないだろ」

「ブラック企業め!」

「変な事を言うな!」






「花火って、たっけーな!!」

「だろ?」


 二日間の過酷な労働を終えた俺達は、近所のスーパーでたまらず吠えてしまった。


「え!? このファミリーパック三つと打ち上げ花火少しと飲み物とかその他諸々買ったら終わりやん!」

「その他諸々でフルコース買った阿呆が居るけどな」

「まりりんの為だ。必要経費だ」


 まりりんの為にありとあらゆる可能性を考え、俺は念入りに計画した買い物メモから、泣く泣く自分用のご褒美であるジャンボエクレアシュークリームを削除した。


 草刈りも既に終わっている。草むしりなんか金輪際やりとうない。手が緑色だし臭いし元気なミミズの住処を荒らしている様で気が悪い。


「てな訳で明日は午後の六時からテントな」

「ファ◯ク」





 六時。俺は薄暗い中テントを組み立て始めた。

 ヤツは隣で長椅子を雑巾で拭いていた。


「おい、早速蚊に食われたぞ」

「良かったな。まりえさんが刺されずに」


 虫刺され用の塗り薬を二の腕に塗りたくる。


「まりりんを狙うモスキートは残らずジェット噴射の餌食にしてやる」


 虫用の噴射スプレー(980円)を二刀流にて構えてやった。照はニコニコと嬉しそうに笑ってやがる。


「まりえさんにそれを噴射するのか?」

「──なっ!! えっ!? ああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」


 盲点だった!!

 すんげー盲点!!

 八冠でも見逃しちゃう、超盲点!!!!


「まりりんにはジェット出来ねぇ……!!」

「どうする? いちいち叩くのか?」

「……いや、まだ策はある」


 とりあえず使えそうな物を詰め込んだバッグの中から、豚のアレを拾い上げる。


「見ろ、ブタさん蚊取り線香だ。これでまりりんを救う」


 渦巻き二つで丸の形になってるコレを発明した奴はマジで天才だと思う。何ていうか、発想が神だ。


「良かったな。急げよそろそろ来るぞ……てか来た」

「ん?」


 指をさされ振り向くと、いつもの天ヶ崎嬢と何故かモブ男が並んで歩いてきた。モブ男は天ヶ崎と二人きりだったからか、妙に歩き方がぎこちない。露骨に緊張しているのがすぐに分かった。


「ちょっと待て なんでモブ男が いるんだよ。龍樹、心の俳句」

「彼はこの花火大会のスポンサー様であらせられるぞ。頭が高い」

「は?」

「高い打ち上げ花火を何個も持ってきてくれた神だ」

「は?」

「お前のバイト代5日分」

「は?」

「つまりお前より偉い」

「…………」


 チラリとモブが俺を見た。『なんだコイツ、居たのか』的なそんな顔ですぐに天ヶ崎嬢へと体を向けて笑顔で話し始めた。


「まりりんは? まりりんまだか まりりんは。 龍樹、心の俳句」

「あそこだ」


 指をさされ、俺はすぐにそっちを見た。テコテコとゆったりとしたペースで歩いてくるまりりんを見つけすべての苦労が報われた気がした。


「こんにちは〜」

「まりえさんこんばんは。今日は楽しんでいって下さいね」

「うん、ありがとう照君」


 挨拶をしようとした俺の前へ割り込み、ドアホが先にまりりんへ会話を持ちかける。後ろからこっそりケツにジェットしてやろうかと思ったがまりりんに流れ弾が当たるのを避け、グッと怒りを抑えた。

 後から数人男女が来たが、誰だか知らんし興味もない。いつも通りすぐに天ヶ崎嬢が輪の中心となったので、俺は俺でまりりんのサポートへ全力を注ぐのみだ。


「まりえさん、ブタさん蚊取り線香をたいておきました」

「た、龍樹くん……ちょっと多いかな? ゴホッ、煙が凄いよ……」

「──!?」


 な、なんという事だろうか!

 俺はすぐにブタさん蚊取り線香のタワーを撤収した。バームクーヘンみたいな事にしたのはやはりまりりんの事が心配だったからだが、逆にまりりんの喉を痛めてしまうとは一生の不覚!! 死すべし俺!


「ご、ごめんまりえさん! そうだ、飲み物で喉を潤してよ! 色々買ったから」

「あ、ありがとう。でもトイレ行きたくなるからあんまり……」


 な、なんという事だ!

 まりりんにトイレの心配までさせてしまうとは……!!


 が、しかーし!


 今日の俺に抜かりなし!

 全て対策済みだ!


「大丈夫てす。あそこに見える照の家の工場のトイレがあります。さっきまで俺がピカピカにしてたので完璧です。サン◯ールとドメ◯トとカビ◯ラーで生成したオリジナルミックスですべての汚れが過去の物になりましたよ」

「た、龍樹くん……そういうのって混ぜて大丈夫なの?」

「……多分ダメです。混ぜるな危険って書いてありましたから」

「じゃあ何で混ぜたの?」

「……混ぜるな危険って書いてあったから」

「書いてあったから混ぜたの?」

「……うん」

「ダメじゃないのかな?」

「…………ごめんなさい」

「次からは気を付けて下さいね?」

「……はい」


 軽く叱られしょんぼりな俺だが、まりりんはすぐに笑って「ね、花火やろ?」と言ってくれた。それだけで俺は魂が浄化される様な気持ちがした。


 花火を始めるに辺り、ちょっとした事が起きた。何で花火に火をつけるか結構意見が分かれたのだ。


「チャッ◯マン」

「花火から花火へ」

「ろうそく」

「たき火」


 俺は最初家にあった超巨大なロウソクを持ってこようとしたのだが、母親にマジトーンで止められた。どうやら父親との結婚式で使ったロウソクらしい。俺の腕ほどある巨大なロウソクをいつ使うのか、定かではないが思い出の品として今でも押入れの奥深くに眠っている。仕方ないので買い出しで仏壇用のを買った。


「わ、私はマッチでロウソクに……」

「ライターとかは使わないの?」

「固くて押せないから……」


 わかっていた事だが、まりりんは非力で可愛い。うーんうーん言いながらライターを押すまりりんを想像するだけで世界は救われる気がした。



 花火が始まると、辺りは夜も深くなり、花火の明かりだけが俺達を照らすのみだった。火のついた花火をブンブンと振り回す危険思想の天ヶ崎嬢に、モブ男が「き、綺麗ですね」と、しれっと言い放ったのを俺は聞き逃さなかった。後でゆすりのネタにしてやろう。


 流石にそこそこの人数で花火をやると、減りも早い。俺は後でまりりんと一緒にやろうと、線香花火をこっそり一袋閉まってある。その道六十年の頑固職人の手作り線香花火だ。此度の買い出しで一番の出費である。これでショボかったら呪うぞおい。


「ドデカ30連打ち上げやろうぜ!」


 照がアホ面かまして声を上げた。天ヶ崎嬢がそれに賛同し二人で嬉々としてセットを始めた。

 やるのは勝手だが、まりりんはその様な物騒な代物で喜ぶ過激派ではない。今こそその道六十年の実力を発揮する時が来たのだ。


「まりえさんお線香花火が──」

「30連やるぅ〜!」

「あーーーーーー…………」


 テコテコと、まりりんは30連花火の方へと駆けていった。まりりんは過激派だった。


「呪うぞおい」


 向こうでは 過激派どもが 和気あいあい。龍樹、心の俳句。


「ねぇ」

「?」


 声をかけられ顔を上げると、天ヶ崎嬢が髪をかけ上げながら俺の隣にしゃがみ込んできた。距離が近い。


「それ、線香花火?」

「そう……です」

「前にお店で見たことある。その道六十年のこだわり線香花火。すっごい綺麗なやつ」

「マジで!? 買って良かった」


 呪うとか言ってスマンなオヤジ。その道六十年は伊達じゃないのな。


「やろ?」

「30連はいいの?」

「私は……こっちの方が好き、かな」


 どうやら天ヶ崎嬢はnot過激派らしい。


「ロウソクってもの良いよね。好き」

「ライターは雰囲気的に使いたくない」

「だよね」


 小さなロウソクの炎で線香花火に火をつける。パチパチと音がして、綺麗な火の玉がぶら下がった。


「火薬の量が何とかって、前にテレビでやってた。安定感が違うって」

「へえ〜」


 確かに、普通の線香花火とは安定感が違った。小さくとも綺麗で長持ち。何より落ち着く雰囲気だった。


「なんか落ち着くよね」

「……」


 天ヶ崎嬢が同じ事を言った。どうやら花火の好みが一致しているらしい。


「ねえ? 一つ賭けをしない?」

「物騒な」


 いきなり何だというのだ。この雰囲気で賭け……あ、先に落ちた方がなんたらのやつか?


「先に落ちた方が負け。一つなんでも言う事を聞くの」

「物騒な」


 火の玉が落ちない様に、天ヶ崎嬢は持ち方を変えた。釣られて俺も握る手に力が入った。が、それが良くなかった。ちょっとした揺れで火の玉は呆気なく地面へと落ちてしまった。安定感どこいった呪うぞおい。


「はい負け〜」

「くっ」


 天ヶ崎嬢の線香花火は未だ優しい光を放っている。


「そしたら、虫刺され用の薬ってある?」

「あるけど」

「もし刺されたら先に頂戴。わたし痒いのダメなの」

「お、おう……」


 そんな事でいいのかい。こちとら命取られるかと思ったぞい。


 30連愛好会達は、次に50連打ち上げに手を出していた。全く過激派だな、おい。


「じゃ、私はあっちに行くから」

「お、おう……」

「線香花火綺麗だった。またやろ?」

「お、おう……」


 天ヶ崎嬢はゆったりとした歩みで、過激派グループへと舞い戻っていった。


「俺も六十年くらい修行したらこの花火を作れるだろうか……」


 その後、しばらく一人で線香花火と会話した。




「たつきくーん! 蚊に刺されたよー! 痒いよー!」

「むむっ! まりりんがピンチだ! エマージェンシーだ! トリアージだ!」


 急ぎ塗り薬を取りに行く。


「龍樹、私も」


 まりりんに並び、天ヶ崎嬢が言った。


「あった! 昼間使ってそのままだった」


 ベンチの上に置き忘れていた塗り薬を手に、急ぎまりりんへ────あ。


 ──先に頂戴。わたし痒いのダメなの。


「……」

「龍樹くん?」


 賭けのことを思い出し、血の涙を心の中で流しながら、そっと天ヶ崎嬢へと塗り薬を手渡した。


「ん、ありがと」


 まりりんはボリボリと刺された脚をかいている。無念。

 塗り終えた天ヶ崎嬢は、薬をまりりんに渡して去っていった。


「……龍樹くん」

「はい」


 可愛い手で薬を塗りながらまりりんが言った。


「龍樹くんって、天ヶ崎さんの事……好きなの?」

「──え?」


 なぜ?

 WHY?


「さっき二人きりで花火してた」

「いえ、あれは別に深い意味は」

「さっきだって……」

「──え?」

「んーん。やっぱりいいや」


 まりりんも薬を塗り終え去ってしまった。


「なんだ? なんなんだ?」


 考えてもちっとも分からなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 心の俳句がポンポン出てくるのすごいです。 [一言] 花火っていいですよね。 でも、さすがにまりりんも気づいた? さて、面白くなって来ました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ